第20話 第四章 英軍迎撃作戦

第四章 英軍迎撃作戦


 翌日。ラスティが呼びつけた『助っ人』が到着したとの連絡を受け、スコットとアロンダイトは作戦会議のため軍の本部を訪れた。


「クラウ様、その助っ人というのはどこに?」


 金のポニテを颯爽と揺らし、昨夜の甘えっぷりがまるで嘘のように凛々しい顔つきのアロンダイト。一方でスコットは、マタタビを与えられた猫のようだった彼女の姿が脳裏に焼きついて離れず、そわそわしっぱなしだ。

 その様子にいち早く気が付いたのは、クラウ=ソラスだった。


「あらぁ? スコット君、ひょっとして……」


「はい?」


「……欲求不満なの?」


「ちがっ! 違います!?!?」


「じゃあ、そんなにそわそわしてどうしたの? さっきからずーっとディアのこと見て――」


 鋭すぎるクラウ=ソラスの指摘に、スコットは気になっていたことを明かす。


「そっ、その……昨日、僕はアロンダイトさんと契約……したんです。それで、彼女の契約者としてもっと僕にできることはないんでしょうか? と、思って……」


 咄嗟の言い訳だったが、本心でもある。クラウ=ソラスはふたりが契約をしたという事実に驚き、両手を合わせて飛び跳ねた。


「まぁ……! ディアってば~!! 遂に運命の契約者くんを見つけたのね!?」


「う、運命だなんて……大袈裟ですよ。これはたままた、利害の一致で……」


 顔を赤くし、胸の前で両手の指をもじもじとするアロンダイト。昨夜はあんなに甘えてきたのに『利害の一致』だなんてツレないなぁ……なんてスコットは思わない。だって彼は知っているから。


(アロンダイトさん、外だとクーデレなんだなぁ……)


 どうやら彼女は、恥ずかしさゆえに人前でベタベタできない分、家だと爆発するタイプらしい。乙女チック内弁慶だ。そのギャップが余計にスコットをそわそわとさせる。萌え殺される。

 だが、彼女と仲のいい上官であるクラウ=ソラスにはバレバレだったようだ。


「とかなんとか言っちゃって~! 身持ちが固くて超~頑固だったディアが新しい契約者だなんて! しかも男の子! も~う、すんごい嬉しい! 妹が彼氏連れて来た気分!!」


「クラウ様っ!?!?」


「ねぇねぇ、ディア的には彼のどこが気に入ったの? 契約しようって先に言ったのはどっち!?」


「あの、ちょっと、そんなくっつかないでください! クラウ様の胸で顔が埋まって苦しいですっ!」


「ねぇねぇ~、教えなさいよぉ! ディアは『乙女の魔剣』でしょ? 『誓約のキス』はもうしてもらったのぉ?」


「それはっ……! まだ、です、けど……」


「きゃ~!! 初心ねぇ! 愛いわぁ! 甘酸っぱいわぁ~!」


 ぐいぐいと質問攻めにしてはアロンダイトを撫で繰り回し、もみくちゃにするクラウ=ソラス。美女と美少女が仲睦まじくじゃれ合う様子に、スコットは『尊い……』と、心の中で合掌した。


「スコット! 見てないで助けてよ!」


「ふふ、ごめんごめん」


 そんな三人が向かったのは、本部に用意された客間の一室だ。

 扉を開けて中に入る前にクラウ=ソラスが注意事項を説明する。


「中にいるのは、ラスティが昔契約していた魔剣の一振り、童子切安綱よ。彼――いや、彼女(?)は私と同じく『十剣』で、八方角のうち南の守護を任されているの。ちなみに私は南西だから、お隣さんね。ダーインスレイヴやエクス=キャリバーほどとは言わないけど、あの子も単騎による戦闘を得意とする魔剣で、実力は折り紙付きよ。ただ、ちょおっと性格に問題が……っていうか、取り扱い注意っていうか――」


 困ったように視線を扉の内側に投げるクラウ=ソラス。今までアゾットたちをはじめとする多くの魔剣と会ってきたスコットだったが、そんなことを言われたのは今回が初めてだ。


「取り扱い注意……ですか?」


 同様に首を傾げるアロンダイトを見るに、彼女もその童子切安綱に会うのは初めてらしい。


「安綱はすっっっっ…………ごく! 気まぐれな魔剣でね。おまけに趣味は人斬り。色々と常軌を逸した魔剣なのよ。あ、人を斬るっていっても殺人鬼じゃないから安心してね。あと、可愛い幼女以外に興味はないみたいだから、スコット君はセーフ! でも、刺激したり機嫌を損ねたりすると暴れだすかもしれないから、困ったときはとにかく『安綱ちゃん可愛い!』を連呼して」


「…………え?」


「『安綱ちゃん可愛い!』」


 いや、『大事なことだから二回いいました』みたいに言われても……


「あの子、自分の見た目を褒められると上機嫌になるの。とにかく会えばわかるわ。あと、幼い妹が故郷にいるならその存在は伏せなさい。わよ?」


 クラウ=ソラスはいつにない真剣なトーンでそう告げると、錠前のついた客間を開いた。

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