第21話
入るや否や、ちょこんとソファに腰かけたピンク髪のツインテール幼女と目が合う。同じく幼女の姿をしているアゾットよりも少し年上の、プライマリースクール三年生くらいだろうか。スコットの従兄の娘が八歳だから、多分それくらいだ。
可愛らしい顔立ちをした幼女は着物のスリットから覗く足をパタパタと動かし、いかにも手持ち無沙汰といった風に頬を膨れさせている。テーブルに散らかった菓子の残骸を見たクラウ=ソラスは、はぁ、と大きなため息を吐いた。
「クッキー一缶とケーキワンホールじゃあ足りなかったか……」
「クラウ=ソラス! 遅いぞ! 何をしていた!! 菓子ならもう全部食っちゃったぞ!」
幼女、もとい安綱はソファからぴょこんと飛び降りるとクラウ=ソラスの腰の辺りでわちゃわちゃと騒ぎ出す。
「もっとだ! もっとくれ!!」
「ちょ、あんた手ぇベタベタじゃない!? やめてよっ、その手でひっつかないで! 軍服にクリーム付くでしょぉ!?」
「にしても、お前のとこの菓子は相変わらずこれでもかってくらいに甘いな! わたちはもっと上品な甘さのやつが好きだ! あんこは無いのか!? あんこは!! ぜんざいが食べたいぞ! あとたい焼き! 桜道明寺に豆大福に、それからそれから……!」
童子切安綱という名に着物姿、そしてあんこ。どうやらジャパンに所縁のある魔剣らしい。スコットはアニメの影響でジャパンが大好きだ。そして何故か昔から子どもにはよく好かれる。
スコットは小さな童子切安綱と目線を合わせてにこにこと手を差し出した。
「こんにちは、安綱ちゃん。可愛い髪飾りだね。白くて二本の角みたい……ジャパンの、鬼さんをまねっこしたのかい?」
「あぁ~ん? なんだお前は。このわたちに向かって開口一番『可愛い』だなんて。そうだろう、そうだろう! その審美眼は褒めてやるが……さては変質者だな?」
安綱は金の瞳を訝しげに細め、差し出された手をぱしん! と振り払う。
「あ~あ~! 多いンだよなぁ! アングロサクソンは幼女に目がない奴がよぉ!」
(ぐっ……! 可愛くねぇ……!! 加えてこの差別発言、失礼がすぎる!!)
「ったく、商売敵は少ない方がいいってのに……ん? なんだお前? 見たことない顔だな?」
安綱はてちてちと草履をすってアロンダイトに近寄ると、おもむろに鎧の下のミニスカートを捲りあげて太腿の内側を舐めた。
ちろり。
「「「……っ!?!?」」」
三人が絶句する中、安綱は味わうように舌なめずりをする。
「ん~……! 若い女の芳醇な香りがする。いいなぁ、いいなぁ! でも惜しい! あと十歳見た目が若ければ、斬って、わたちのものにしてやったのに。きひひひひ!」
「ちょっと、安綱!? あんたねぇ!」
「い、いいですよクラウ様。小さな子のしたことですから……」
引きつった笑みを浮かべてクラウ=ソラスをなだめるアロンダイト。もう、初っ端からうまくやっていける気がしない。
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