第7話
早朝。カンカン、という調理器具の音と水の流れる音で目を覚ます。知らない天井に少し痛む背中。しかし、それらの違和感を忘れさせるようないい匂いに、スコットは感嘆の声を漏らした。
「わぁぁ……! いい匂い!」
「ん? 目が覚めたの?」
声の方に視線を向けると、白いふりふりエプロンに身を包んだアロンダイトが皿を持ってやってきた。
「はい、あなたの分。食べる前に顔を洗ってきたら? よければシャワーもどうぞ。歯ブラシは、買い置きのが確か――」
テーブルにことり、と置かれた色鮮やかなスクランブルエッグとハム。既に並んでいた小鉢にはサラダが盛りつけられ、キッチンからはパンの焼けるいい匂いが漂っている。
渡された歯ブラシで歯を磨き、サッとシャワーを浴びて申し訳程度に身支度を整えたスコットは手招きされるままに食卓についた。
「いただきます」
「い、いただきます……」
正面に座るアロンダイトにならって手を合わせるスコット。丁寧な所作で朝食をたいらげる美少女が傍にいて、目の前に出された食事はその美少女の手作りだ。
(は、はわわ……! 生きててよかった……!)
昨夜の将軍の話などどこ吹く風。おとぎ話に出てくる聖剣の奪還? だいたい、エクス=キャリバーだなんて――実在自体が疑わしい。
そんなものよりも、目の前にある美少女の手料理の方がスコットにとっては遥かに重要だ。密かに感動しながら朝食をいただいていると、アロンダイトが不意に微笑んだ。
「ふふっ。そんなに美味しかった? そこまでニコニコといい顔をされると、作った身としてはありがたいわね」
「こちらこそ、こんなに美味しい食事をいただけるなんて――」
そこでふと、ほのかに湯気をあげるパンが目に映る。
変なカタチの――生き物だろうか?
「かに……?」
思わず尋ねると、彼女はそのパンを手に取り、おもむろに足をもぎり取った!
クレイジー! 美少女にあるまじきエグさだ!
「かにぱんを見るのは初めて? 日本発祥のパンで、ほんのり甘くて美味しいのよ? はい、どうぞ」
そう言って手渡されたかにの目玉と見つめ合う。
「…………」
(かにちゃんが……なんていう姿に……)
「怖がらなくても、本物のかにじゃないわよ?」
「それくらいわかるよ!? でもなんかさぁ! 見た目がさぁ! そうやってパーツごとに分けて食べるものなのかい!?」
「だって、千切った方が食べやすいもの。それに楽しいの」
「楽しいの!? 足、足、足、目、ハサミ、足……お皿に並べるのやめてあげてよ!?」
「かにぱんは、こうやって食べる物よ? ウチの国ではどんなちびっこもこうする……はい、あーん」
「あー……」
条件反射で口を開けると、ハサミを突っ込まれた。
「むぐ……」
ふわふわと口に広がる牛乳の甘さが――
「どう? 美味しい?」
「甘い……美味しい。僕これ好きかも」
「ふふ、私も好きなの」
その笑顔があまりに可愛くて、思わずむせる。
「んぐ……!」
「ちょっと、急がなくてもいいわよ。今日も午前中に城壁の見回りがあるから、あなたの魔剣探しは午後になると思うし」
「ん……ごくっ。じゃあ、キミが仕事に出ている間、僕は留守番ってこと?」
「そういうこと」
テキパキと食事を終えたアロンダイトは食器を片付け、私室に入る。そうして、昨日と同じように髪をポニテでまとめ、女騎士スタイルで出てきた。
フリッと翻るミニスカと、その下のロングブーツに挟まれた絶対領域が神々しい。
「じゃあ、行ってくるから。あなたはここに――」
言いかけた言葉を遮って、スコットはスクランブルエッグを飲み下した。
「んぐ! 僕も行く!」
「え――?」
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