第9話 クマ狩り
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……うぅ……」
「しっかりしろ! もう少しで王都だ! あとちょっとだ! がんばれ!」
アランドル王家に仕える兵士2人が、ケガをした兵士1人に肩を貸して歩いていた。
朝というには遅すぎ、昼と言うには早すぎる午前中、道路を巡回していた兵士がズタボロの体である負傷兵と共にアランドル国の城下町にたどり着く。
ケガをした兵士は応急手当てを受けて出血こそ止まっているが革製の鎧を引き裂き、身体にまで達する巨大な
「!? オイ! どうした!?」
「陛下に伝えてください……クマが……」
ようやく人のいる場所にたどり着いた安心感から緊張の糸がブツリと切れて負傷兵はそのまま倒れた。
「クマが出ただと!? 襲われた兵士は大丈夫なのか!?」
「現在彼は病院に搬送されて治療を受けている最中です。大ケガを負ってはいるものの命を脅かすほどではないそうです。陛下、いかがいたしましょうか?」
「俺が出る。出没場所をその兵から聞き出してくれ」
「ハッ!」
デニスは配下に指示を出すと自分の寝室へと寄る。
自分だけが持っている合い鍵で隠し部屋の扉を開け、その中に保管されていた血で赤く染まったという紅色のルツェルンハンマー……
槍のように長い柄の先端に
「よし、殺るぞ!」
「? デニスさん?」
カレンはデニスを見かけたが、いつもの彼とは明らかに違う雰囲気に戸惑う。
「よぉカレン、ちょっと小熊ちゃんと遊ぶ予定ができたんだ。しばらく城を離れるぜ。小熊ちゃんの頭蓋骨ブチ折ったら今夜はクマ肉パーティだ。楽しみにしてろよ」
「は、はぁ……」
自分の知ってるデニスとはなんか違う。まるで「何かが乗り移ったかのような」表情と雰囲気で、少し不安に思った。
そんな彼女を一切気にすることなく、デニスは配下数名と共に馬に乗って現場へと向かった。
「で、ここが小熊ちゃんの出た場所か」
デニスと数名の兵士がたどり着いた場所は城下町から歩いて1時間程度の地点。デニス一行は馬に乗っているので30分ほどでたどり着ける、まだまだ未開の森が広がる所だ。
「パーティの準備に抜かりはねえだろうな?」
「大丈夫です。準備いたしました」
デニスは部下に指示してくず肉と豚の血を辺りに撒く。クマをおびき寄せるための撒き餌だ。しばらくして……
「!! いたぞ!」
望遠鏡を持っていた騎士がクマに気づき、デニスの元へと戻る。
「よっしゃ! 見つけた! ブチ殺すぞー!」
デニスはやたらとテンションを上げつつクマ……魔物を食い続けたせいか全身の皮膚が黒く変色した、血のように赤い瞳をしたモノ……に向かって突撃する。
現代地球では一般的に「クマは人間を恐れる」と言われているが、それは人間が銃でクマを散々殺しまくった結果であり、銃器の未発達なこの世界においては人間は「エサ」に過ぎない。
エサが向こうからやって来た! と思い2本足で立ったらデニスの伸長を越える高さになるクマが彼に襲い掛かろうとした、次の瞬間!
メギャギッ!
硬いものと硬いものとが衝突し、何かが割れて
衝撃で頭蓋骨が砕け、脳の一部がシェイクされたかのように潰れた。
「グ……キュウン、キュウン」
「ヘイヘーイ、どこへ逃げるつもりだい? 小・グ・マ・ちゃ・んミ★」
脳がやられたからなのか、足取りがおぼつかない状態でフラフラになりながらも逃げようとしているクマ。それにデニスは不気味な微笑みを浮かべながら回り込み、
標的の動きが鈍っているおかげか今度は脳天を正確に捉え、確実にあの世へと送った。
「グウゥ……」
ドサリ。という音とともにクマの全身から力が抜け、倒れる。
「よーしテメェら! さっさと解体するんだな。今日はクマ肉でパーティでもするがいい。毛皮も大事に扱え、貴重な資源なんだからな」
配下に指示してお楽しみの剥ぎ取りタイムだ。素早く血抜きをし、毛皮と肉とに解体する。内臓はその場に残して肉と毛皮はあらかじめ持ってきた袋に収納して持ち帰った。
「今日はクマの肉のステーキですか……なかなかワイルドな味ね」
「まぁ狩ったばかりの新鮮な肉だから美味いだろ?」
昼の食事は狩ったばかりと言っていいクマの肉がメインだった。
「そう言えばデニスさん、狩りに行く前の様子がおかしかったのですが何かあったんですか?」
「俺が紅いルツェルンハンマーを持っていたのには気づいていたよな?」
「え、ええ。普段は剣なのにどうしてなのかとは思っていましたが」
「アレは呪われた武器で、普通の人間が持つと意識を乗っ取られて周りの人間を手当たり次第に叩き潰したくなるらしいんだ。俺はアレを持っても気が大きくなる程度で済んでるがな」
「気が大きくなる程度、ですか」
それにしては別人のように雰囲気が変わっていると感じられる。まぁ本人が言うからには問題なさそうだとは思うのだが……。
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