第16話 未来を夢見て……
未来は未知に溢れていて、その裾野は確率が未確定で広大だ。
いきなり何を言ってるんだと思ってるんだろうが、まあ俺の話をまずは聞いてくれ。
ユメオが戦争中に矢で撃たれて死ぬのを回避してから、夢の中の時間は順調に過ぎて行き、既に五十年近くもの年月が経過しようとしている。
その間、ユメオの人生はまあ、波瀾万丈と言っても良い様な物で有った事は間違い無いだろう。
まあ、その事は今は良い。
今問題なのは、その間ユメオは一度も死んでいなくて、必然俺も一度も夢から覚めていないっていう現状だ。
あれからユメオの人生は上手く行き過ぎた。
俺も初見の時間経過だからと悠長に構えていて、ユメオの順調な人生に綾をつけるのも何だからと、色々と自重していたのも悪かった(悪い事か?)のかもしれん。
兎も角そんな訳で、俺は夢の中で一つの人生をユメオと共にだが全うしようとしている。
最近ではもうこの人生に満足して、たとえ現実に戻れなかったとしても、別に良いんじゃないかとさえ思った事もある位だ。
そんな感じだから、ユメオが老衰で死にそうになっている現在、俺もこのまま一緒に死んでも良いかなとか思っていたんだけど、肉体の老化に一切左右されない俺の意識が、ある事に気が付いた。
それはユメオが死んだ時に、俺は一体どうなってしまうのかっていう事にだ。
先ずは時系列的に考えてみれば、俺は死の苦痛に見舞われる筈だ。
肉体のあるユメオは現在とっくに耄碌していて、痴呆症の気がある様にも見える事から、自分が今にも死にそうだっていう事にも気が付いて無いっぽい。
そんなユメオが死ぬ時に、果たして苦痛を感じる物なのか?
ユメオ自身はボケてるから感じないとしても、肉体的には物凄い苦痛を感じていても不思議では無いだろうし、或いは逆に全く苦痛が無いのかもしれない。
まあこの事は死んだ人が生き返って、証言でもしなければ判別出来ない問題でもあるから、俺がその証人一人目になるんだろう。
巷にいる臨死体験をした人が色々言っているのは知っているが、あれはあくまでも臨死体験であって本当の死亡体験では無い事から、全く参考には成らない。
次に気になる事は、俺がちゃんと現実に目覚める事が出来るかだ。
最後に夢から覚めたのは、今から見ればもう遥かな過去だ。
何らかの条件が必要だったとかが有ってもおかしくはないし。
まあ、これは余り心配はしていないが、可能性の問題だから挙げただけだ。
後は、俺がまだ夢を見続けるのかという問題だ。
もうユメオは十分に人生を生き抜いた。
最早、後悔などは微塵もないに違いない。
今思えば、俺がユメオの人生の夢を見るようになった原因というのは、こいつが理不尽な死を受け入れられなかったから起きた現象なんじゃないか?
その理不尽な死という物を回避する為に、偶々魂の同期が取れた上位世界にいる俺に頼った結果だったんだとしたら、もう人生に満足していてその不思議パワーも発動しないかもしれない。
まあ此処で考えていても余り意味が無いし、それは夢から覚めてから考えても良い事か。
そう。夢は必ず何時かは覚める物だと決まっているんだから。
ああ、遂にユメオが死にそうだ。
長い間一緒に居たが、もう一度会えるかは分からんが取り敢えずのお別れだ。
去らば、青春の日々。欠け替えの無い人生の友よ。
…………。
ああ……、時が見える……。
まるで……、走馬灯のようだ……。
ユメオの人生を……、振り返るように……、過去へと戻って…………。
………………。
……って、なんで過去へと戻ってんのっ?!
って言うか、コイツっ!
まだ人生に悔いが残っているとでも言うのかっ?!
アホかっ! こんな良い人生を過ごした癖に一体何が不満なんだよっ! 贅沢言うなっ!
オイッ、いい加減にしろっ!
俺はもうこんな事に付き合ってられんぞっ!
今後は一切、俺に頼るなよっ!
良いかっ、分かっ、プツン……。
……。
…………。
…………………。
バチンッ!
ザザッ、ザザ―――ッ……。
………………。
…………。
……。
僕の名前はハーロックです。
正式に言うとハーロック・ロリングストンです。
友達からはロックくんとあだ名で…………。
『マセキ・コントローール!』につづくっ!!
繰り返し見る夢の中での死を回避したいんだけど…… さんご @sango0305
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