第8話 偵察は帰る迄がお仕事だってじっちゃんが……

 今一番重要な事は、現在隣村で起こっている事態の真偽は兎も角、この不可解な情況を親父達村の大人と共有する事だ。


 それからじゃないと、迂闊に動けば直ぐ様俺の命の先行きに大きな影響が有りそうで怖くて堪らない。


 そんな事を考えていると、草むらに隠れていた二人はどちらからともなく、ジリジリと後退りを始めていた。


 おっ、ヨシヨシ。俺が誘導しなくても、このまま村に引き返す判断をした様だな。


 その後、かなり慎重に後退していた二人だが、大きな岩が有る所まで下がってその影に隠れる事が出来ると、漸く安心したのか大きく息を吐いて、力が抜けた様にそこにもたれ掛かった。


 二人はそこで、この後どうするかを軽く話し合っていたが、どちらか一方が村に知らせに行くかどうするかと相談していたので、俺は二人一緒に行くように誘導して置いた。


 こういった異常事態を報告する時は、やっぱり一人より二人の方が信用され易いからな。


 それに、残った方がもう一方が誰かを呼んでくるまで、無事でいられるかどうかというのが不確定すぎる。


 これが何回も夢を繰り返した後なら、余裕で迷い無く良い方向に行くという判断が出来るんだけど、如何せん今は初見の情況だ。


 と、そこまで考えた所で、『こりゃ夢を何回か繰り返した後で、最良の選択肢を選んだ方が結果的に良いんじゃないか?』という事に俺は気が付いてしまった。


 そうだよな。俺の一番の強みは、情況を何回も繰り返してその都度色々と試せるって所だからな。


 良しっ! そうとなったら、今はコイツら二人には悪いがもっと気楽に試させて貰うとするか。


 というような考え事に俺が没頭している内に、事態は既に思わぬ方向に進んでいた様だった。


 二人が隣村から離れる為に、踵を返そうと立ち上がり掛けた所で、様子を窺っていた家の横を通って数人の人影が現れた。


「嫌っ! 何するのっ、離してっ! 」


 立ち上がり掛けた二人は、直ぐに岩の影に隠れて現れた人物達の様子を覗き込んだ。


 それは見た所、荒くれ者達とそいつらに無理矢理に連れて来られた若い女性の様だった。


 そしてその女性は、何だか見覚えがある感じだ。


 俺がそう思った時、隣で息を飲むのが伝わって来た。


 そこで俺はハッとして驚いた。


 彼女こそが、今隣にいる奴が告白しようとしていた女性だったという事に気付いたからだ。


 ビリリィーーーッ!


「キャアーーーーッ! 」


 二人が驚いている内にも事態は進んでおり、今は女性が乱暴に服を脱がされようとしている所だった。


 あっ、マズイ! と思って、俺が隣に意識だけを向けようとしたが、もう既にそこには誰も居らず、かなりの前の方を走って行く奴の背中だけが見えた。


 くそっ、馬鹿がっ! そんなに慌てて出て行っても、ろくな助けにもならないだろうがっ!


 と俺がバカで無謀な奴の事について毒づいていたら、いつの間にか夢の中の俺も、奴に続いて飛び出して走り始めていた。



















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