第13話
『アイーシャちゃんへ
これはわたくしからの、あなたの新たな門出へのお祝いです。
使ってくれると嬉しいです。エミーの趣味に合わせたものなので、貴方の好みよりは可愛らしい物となってしまいましたが、エミーにそっくりな容姿を持つ貴女ならば、きっと使いこなせると思います。
隣国より願いを込めて、カリーナ』
アイーシャが箱を開けると、真っ先に花柄に金箔の貼られた淡い色彩のカードが目に入った。夫人らしい言葉遣いと、プレゼントの選び方にクスリと笑いが漏れた。カリーナというのは、アイーシャがこのフェアリーン王国に逃げるのを手伝ってくれた夫人の名前だ。可愛らしい印象を持つ彼女にぴったりな響きの名前だ。
アイーシャはプレゼントを見るべくカードを机の上に置き、宝石箱の中を覗き込んだ。すると、中にはピンクダイヤとサファイア、ファイヤオパールがあしらわれたプラチナ製のネックレスとイヤリング、ブレスレットが出てきた。
「………可愛い」
「《アイーシャ、気に入ったの?》」
「えぇ!とっても!!」
「《なら、それにも祝福を与えないとね》」
ベラはまたもや奇跡を目の当たりにしたことに、いっそのこと目眩を覚えたが、プロフェッショナルな彼女は抑え込むことに成功した。
「素敵な品物ですね。誰かからの贈り物ですか?」
「えぇ、カリーナ夫人からよ」
心得たと言わんばかりにベラは頷いた。記憶の中にも新しい名前だったからだ。
あの夫人からもらった手紙の内容には屋敷中の人間が激怒し、困惑した。そして、事実は夫人の手紙よりも酷いことが判明し、アイーシャを保護することに決めたのだった。
「確か、こちらにご連絡をくださった」
「えぇ、お母さまと仲がよろしくて、お母さまが亡くなられた後もずっと面倒を見てくださっていたの」
アイーシャははにかみながら微笑んだ。カリーナはアイーシャにとって第2の母親のようなものなのだ。
「お手紙をお書きになりますか?」
「えぇ!便箋をお願いできる?」
アイーシャはそれは名案だと手をパチンと合わせて言った。きらきらとした眼差しを向けられたベラはちょっと居心地が悪くなり、視線をずらしながら言った。
「奥様のをパクってきます」
「ふふふ、えぇ、許可を取ってからね」
「はい、もちろんです」
アイーシャはからからと笑いながら言った。なんだかんだ言って少し緊張して猫をかぶっていたアイーシャはベラとの会話で少し肩の力を抜くことができた。
音を立てずに扉を閉めて出ていったベラが遠ざかった瞬間、ユエが現れた。唐突に現れても幼い頃からそれが当たり前のことだと認識しているアイーシャは全く以て驚かない。
「《ベラ守る~?》」
「お願いできる?ユエ」
ふんわりと飛びながら気だるげに声をかけてきたユエに、アイーシャは微笑んだ。アイーシャは自ら彼らに人や物を守ることを頼まない。あくまで彼らの自らの意志で守ってもらうのだ。まぁ裁縫箱という例外もあるわけなのだが。
「ベラのことが気に入ったの?」
アイーシャはこてんと首を傾げた。
「《まぁまぁね》」
曖昧な返答だったが、他の精霊に比べてなかなか加護を与えない彼が加護を与えると言っているのだから、余程気に入ったのだろう。
「《じゃあ、行ってきま~す》」
「いってらっしゃい」
もう消えてしまったユエに対して、アイーシャは静かに声をかけた。届かないことが分かっていても、アイーシャはいつも呟くことにしている。何故なら、アイーシャは両親を失ってから送り出す人がいないからだ。精霊達にでも言っていないと忘れてしまいそうだったからだ。「いってらっしゃい」という当たり前の挨拶の言葉ですら言えなくなってしまいそうで怖かったからだ。
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