第14話

 コンコンコンというノックの音が鳴った。


「ベラです」


 ノックの音は等間隔で力加減も絶妙だった。几帳面な性格が目に見えて、アイーシャは微笑んだ。ベラらしいノックだとも思った。


「どうぞ」

「失礼します。便箋、いただいて参りました。何種類かいただいてきましたので、お選びください」

「ありがとう」


 アイーシャは5種類の便箋を前にしてう~んという唸り声を上げた。アイーシャは手紙など今までの人生で1度も書いたことがなかった。だからこそ、少しワクワクもしていた。

 アイーシャがベラから受け取った色とりどりの便箋は金箔が貼ってあったり、透かしが入っていたり、和紙という異国の紙であったりとどれもこれもとても凝っていた。


「ベラ、あなたはどれがいいと思う?」

「お嬢様が選ぶことに意味があると思います。どれを選んでも問題ありませんよ」

「………………」


 アイーシャは悩みに悩んだ末に、透かしが入った花形の金箔がふんだんに貼られた便箋を選択した。


「こ、これにするわ」


 上目遣いにアイーシャはベラを見やった。その視線は、合ってる?と問いかけているようでもあった。


「とても素敵だと思います」


 ベラはアイーシャを安心させるように穏やかな微笑みを浮かべた。


「…………よかったわ。ねぇベラ、お手紙ってどういうふうに書くものなの?」

「お嬢様が書きたいように書かれるのが1番です」


 アイーシャはむぅっとほっぺたを膨らませた。


「分からないから聞いているの!」

「………もしかしなくても、アイーシャお嬢様はお手紙を書かれたことがないのですか?」

「うぅっ、な、無いわ。書類なら沢山書いたことがあるのだけれど………」


 アイーシャはディアン王国にいた頃の、書類に埋もれた生活を思い出してうんざりとした。


「お手紙にまつわる書物をお持ちしましょうか?」

「えぇ!お願いするわ。ありがとう、ベラ」


 ユエを頭の上に乗せているベラは穏やかに微笑んだあと、一礼して退室していった。


「《アイーシャ、夫人?にブローチでも刺したらどう?》」

「………嫌じゃないかしら?」

「《夫人?はアイーシャの刺繍が大好きよ。王命でアイーシャの刺繍を全て処分しないといけなくなったのにも関わらず、死守しているくらいには、ね》」

「!?」


 アイーシャは驚きの事実に目を見開いた。自分が嫌われて蔑まれていたのは重々承知だった。だが、そこまでしているとは思ってもみなかったのだ。


「《1週間後くらいにはあの国も終わりかしらね》」


 エステルのボソリとした呟きに、半分も聞き取れなかったアイーシャは首を傾げた。


「何が終わりなの?」

「《何もかも》」


 エステルは幼く見える可愛らしい容姿に、ゾクリとする艶やかで妖艶な笑みを浮かべた。

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