第6話

 馬車の扉が開けられて、アイーシャは外の眩しさに目を細めた。


「君がアイーシャかい?」


 仕立てのいい服を着た優しげな雰囲気のアイーシャと同じ色彩の瞳を持つ老人が、馬車から降りようとするアイーシャに手を貸し、話しかけた。


「は、はい!お初にお目にかかります。アイーシャと申します」

「わしは、ラインハルト・イスペリトだ」


 ラインハルトは優しげに懐かしいものを見るかのようにアイーシャを見た後、アイーシャの肩に座っていたり、頭に座っていたり、夫人が用意してくれたアイーシャの旅行カバンに座っていたり、アイーシャの近くを自由気ままに飛び回っていたりする沢山の精霊達を見て、目を見開いた。


「アイーシャ、君にはコレが見えているかい?」


 ラインハルトが自分の肩に立っている水色の精霊を指差した。アイーシャは心の底からびっくりした。母親以外に、精霊が見える人に会ったのは初めてだったからだ。


「………見えて、います」

「!! そうか!おいユージオ、アイーシャは精霊眼持ちだ!!」

「なんと!?アイーシャちゃんは精霊眼持ちだったのですか!?」


 アイーシャはユージオと呼ばれた驚きの声を上げている男に視線を向け、狼狽えた。


(わたし、間違えた?)


 アイーシャは深呼吸をして周りを1度落ち着いて見回すことにした。すると、使用人であろう人間以外の人間の周りには必ず精霊がついていることに気がついた。


(ディアン王国にいた時にはわたしとお母さま以外の周りには精霊はいなかったのに………)


 アイーシャは不思議に思ったが、それは今触れるべきところではないと判断し、ディアン王国で次期王太子妃として教育を受けていた頃に叩き込まれた、どこで披露しても恥ずかしくないカーテシーを披露した。


「お初にお目にかかります。アイーシャと申します。この度は無茶なお願いを聞き入れてくださり、ありがとう存じます」

「あ、あぁ、わしは先代公爵で今は隠居をしているラインハルト・イスペリトだ。こっちは妻の、」

「エカテリーナ・イスペリトですわ。お祖母様と呼んでちょうだいね」


 若葉のような穏やかな瞳を細めたエカテリーナはおほほと口元に手を当てながら嬉しそうにアイーシャに話しかけた。


「私は現公爵家当主のユージオ・イスペリトです。叔父さまと気軽に呼んでください」

「ユージオの妻でシャロンよ!可愛い姪っ子と一緒に住めるなんて嬉しいわ!!うちは子どもが2人とも男だからむさ苦しいのよ!!」


 煙たそうに息子の肩を叩いたシャロンはアイーシャに抱きついた。


「なっ、母上酷いよ!!俺はユアン、14歳でアイーシャの2歳下だ!!」

「むさ苦しいのは兄さんだけだよ。僕の名前はショーン。10歳だよ」


 元気な従弟達の挨拶にシャロンに抱きつかれたままのアイーシャは、コクコクと首を縦に振った。

 今日はアイーシャにとって久しぶりなこと、というか、初めてのことばかりが起きそうだ。

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