第5話
▫︎◇▫︎
アイーシャは途中3度ほど夫人が用意した宿に泊まり、やっとのことで母方の祖父母の住む隣国、フェアリーン王国に入国した。
旅の中で、アイーシャは6枚のハンカチに刺繍を施した。
祖父母には『竜胆』と色違いのリボンを
叔父と叔母には『カーネーション』と色とりどりの小花を
従兄弟達には『月桂樹の葉』と『かすみ草』を刺し、そのいずれにも精霊に奇跡を祝福してもらった。
「大丈夫かしら?」
ハンカチを優しく撫でながらアイーシャは不安げな声を漏らした。自分の中では良い出来だが、従姉妹や元婚約者であるクロードはいつも自分の刺繍を見る時、醜い物を見るかのような顔をして見ていた。
「《アイーシャが一生懸命刺したし、わたし達が祝福したから大丈夫だよ!!》」
「でも、………」
「《アイツらはアイーシャのことが嫌いだからだよ~!》」
黒の精霊はのんびりとした口調でびしりと言った。
アイーシャはうっと呻き声を漏らした。
「《アイツら、アイーシャが国を出た後に、アイーシャが刺して国に献上したおっきなタペストリーを燃やしたんだって!!》」
「《あ~あ、アレって国の保護結界の役割を果たしているタペストリーだったのに~》」
赤の精霊フーの遠慮のない物言いに、水色の精霊が呆れたように言って、そして、こう続けた。
ーーー国が潰れちゃうねぇ~!!ーーーー
と。
アイーシャは一瞬耳を疑った。
「………アクア、国が潰れちゃうってどういうこと?」
「《んー?どういうことだろうねぇ?》」
アクアと呼ばれた水色の精霊は楽しそうに首を傾げた。
「アクア!!」
「《アイーシャ!馬車が止まったよ~!!》」
アクアを問い詰めようとするアイーシャに、緑の精霊が穏やかに告げた。それは、どこかごまかすような響きを帯びていた。
「アイーシャお嬢様、到着いたしました」
「………分かったわ」
防音魔法を解いて話しかけてきた御者に、アイーシャは溜め息を吐くように返事をした。返事を聞いた御者は馬車の扉をゆっくりと開いた。
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