第20話 夫婦の部屋?!
それにしても一緒の部屋かあ。しかも男の人相手に! こんな急展開だなんて、もう食事が喉に通らないかもしれない。そうなったらアーデルハイト様は心配してくれるかしら。なんてことを考えると笑みが止まらない。それにしても強制結婚さまさまだわ!
いつもよりちょっと遅めのシチューを飲み、一息つく。栄養満点のシチューは私に足りない物を満たしてくれる。だけど……この身体、傷だらけで気が滅入ってしまう。だからアーデルハイト様が来たときに、ベッドから降りられなかった。同性のアンナですら見られるのは滅入る。
「アーデルハイト様と一緒の部屋は楽しみだけどね……」
「敢えてこちらに招くのはどうでしょうか、ミーア様」
ため息のように流れた言葉を拾ったのはアンナだ。こっちに招くってことは……この部屋にアーデルハイト様を呼ぶの? いやでも、意外と良いかもしれない! お隣さんの人らとも仲いいし。エメもアンナも近くにいるから、いざとなれば召喚できるのも良いわ。
「ってアンナ、いつ帰ってきたの?」
「そろそろ食事が終わりそうな気配がしたので、切り上げてきました」
こんな風に召喚できるしね! アンナはテキパキと食器を片付けてくれるのを見ると、序盤のツンケンは何だったんだろう。いつか聞いてみたいけどね。
では、と言いながらアンナは食器を片付けに行ったようだ。アンナと買ったドレスを来て行ってみよう。
「頑張って!」
「アーデルハイト様は色仕掛けに弱いらしいわ」
「み、みんな……ありがとう」
ドレスに着替え、廊下へ出た私に待ち受けていたのは使用人たちだった。いわゆるご近所さん、お隣さんの友達。アンナも、エメも、さらには水場で出会った人もいる。アーデルハイト様を応援する人はいないのは可哀想だけど、とても心強い。
「ど、どっちか応援するなら、マシな方を応援します……」
「水分は取ったほうが良いですよ」
エメ……誤解しているわ。いつか真実を話すから待っててね……アンナも、さっきぶりだけど嬉しいわ。
さあ、決戦の場に向かいましょう……!
金と銀で飾られた扉。『領主の部屋』と刻まれた宝石の名前。扉の向こうには宿敵の気配もする。綺羅びやかな扉をノックすると、入れと言葉が返ってきた。緊張するけど頑張らないと!
「昼前に来るとはな……しっかり考えてきたか?」
扉と入ると同時に目についたのは、椅子に座るアーデルハイト様。そしてその向こうにある親子の絵画、威圧感がありすぎる。私が座れる椅子もないし、あの絵を見て寝るのも苦痛だし、やっぱりこの部屋はないわね。例の提案の意志も固くなる。
立ち位置が悩ましいけど、アーデルハイト様の目の前が良さそう。なのでそこに向かって歩く。
「提案があります。三階の私の部屋を『夫婦の部屋』にしませんか。絶対その方が良いです」
「……え?」
同意でも拒否でもない返事のせいか、アーデルハイト様は変な声を上げてしまった。完璧超人に見えた彼とは思えない声に、後ろから笑い声が聞こえる。いやあの応援団、付いてきてるんじゃない?! 私ですら笑っちゃいそうだから勘弁してよ!
「え、いや……よ、夜までには答えを出すから待っててくれないか」
「……まぁ、はい」
アーデルハイト様の周りは重しが付いているようだった。そこだけ空気が重いように思えた。……え? あれだけ意気込んといて、なんというか釈然としないなー。
扉の向こうに待ち構えていた応援団とともに帰ったけど、そこでもモヤモヤした空気が付きまとっていた。
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