第13話 生まれついた意味
まえがき アーデルハイトくんがミスを起こしちゃいます。
<七日目>
このグロスター家に来てはや一週間、良い思いしかない! だって自分の技術が認められたでしょ、お友達できたでしょ、お買い物もしたでしょ、もう最高としか言いようがない。まあ政略結婚だとしてもアーデルハイト様も、エメも、アンナも色んな人を知れて本当に良かった! あのホーエン家で生きるより確実に良い!
でも心配事が一つだけある……そう、私の夫ことアーデルハイト様の様子がおかしいの。
「ああ、今日で帰ってくる……こんなの見られたら失望されるぞ……あぁ」
こんなことをずっと呟いている。誰が帰ってくるのかしら? なんだかメイドさんたちも忙しそうにしてるし、うーん気になるわね。
「……」ジィー
視線を感じたので振り返ると、私とおそろいの服のアンナがいた。最初に出会ったときよりも目がパッチリとしていて、やる気に満ち溢れている様子だ。
「ねぇアンナ。今日って誰かが帰ってくるのかしら? みんな忙しそうにしてるんだけど、私もなにか準備したほうが良いのかしら?」
「はい、今日はジューナ様とフルク様が観光から帰る日です。ですので不手際がないよう最後の確認を今しているところですね。そうだミーア様、わたし達は化粧でも致しましょう」
この家ではアーデルハイト様が当主だとは知っていた。だから両親がいないことに疑問を抱いてなかったけどそういうことか! 夫婦で観光かぁ……仲良しなのかな? こっちは(ホーエン家)はお金の話か、私をイジメることでしかちゃんとした会話してなかった……
品位がある家は全てにおいてトップクラスなのね! 羨ましっ!
「うん!」
「あの、アーデルハイト様……しっかりしてください……」
「いやアイツは実子じゃない……? 髪もそうだ。ならばそれなりの手が……? ぁぁ頭痛が……」
エメと同意見なんだけど大丈夫なのかね、アーデルハイト様。ぶつぶつと力なく喋ってるけど、よほど両親と会えるのが嬉しいのかしら。
「フンフン♪フフ~ン♪」
一階に降り、私とアンナは化粧室へ向かう。あまり家の中を覚えていないのでアンナが先導してくれた。たどり着いた場所は結婚式で使わしてもらった、初めてアンナと出会った場所だった。
私の髪を丁寧にとかしてくれているアンナは、上機嫌なのか器用に鼻の先で唄っている。いつもだと引っ張られて首輪のような扱いを受けてた髪の毛、今日ばかりは喜んでるだろうね……
私の部屋でといたときはブチブチって何本か取れたけど、今ではとけるくらいにまで良くなって! ちゃんとした人間用のご飯! ちゃんとしたお風呂! ちゃんとしたお布団! ありがとう……グロスター!
「そういえば今日帰ってくるご両親ってどんな──」
私の声を遮るように勇ましく扉が開かれた。そこには銀混じり髪の持ち主、アーデルハイト様!? 見たことのない、鬼気迫った表情をしていて驚きだった。彼の切れ長な目で睨まれ、私は息すら忘れていてしまう。
「やっと分かったぞミーア! お前、ホーエン家の実子じゃないな」
「……え」
彼の言葉を聞いた私は気が動転した。
「あまり気にしてなかったが、お前の髪はどうも奇妙だし、アレ(ホーエン家)とは違う。まあ別に罪に問うわけじゃあない!」
「アレ(ホーエン家)は何人家族だって……」
あぁ一人娘だ、って。
彼の言葉を聞いて逃げた。アンナが化粧をしてくれている最中だったけど、私はこの部屋から逃げた。気がつくとグロスター家の外に出ていた。眼の前が見えにくかった。腕で拭ったら涙だった。
涙を落ち着かせるために深呼吸をして、頭を整理させる。疑問を口に出そう。
「どうして家から出ていったの? ──分からない。あいつら(ホーエン家)と血がつながってなくて悲しいの? ──いや多分嬉しい。じゃあなんで泣いてるの? ──それは、それは……」
生きている、生まれた理由がないじゃん。吐き気がするホーエン家の血。それでも繋がっている、と思いたかった。ホーエン家は優秀な子供、跡継ぎを残したかった……じゃあ私はなに? どうして生まれたの?
正門のあたりが騒がしかったので庭園のような、草木が茂っているところに隠れる。馬車から降りたのは夫婦、落ち着いて雅やかな人物だった。アーデルハイト様のご両親? 父親は銀髪で、母はあの恐ろしい切れ長な目だ。
絶対あの夫婦からアーデルハイト様が生まれたんだろう、なんて想像は容易だ。一方のホーエン家の私。……私は本当の親に売られてしまったのかな? なんて惨めなんだろう、生まれた理由がないなんて。
あとがき 口で「本当の娘じゃない」と言われても、不出来だし黒髪だしで自分が悪い。それ以上にホーエン家は滅びろって思ってます。でもアーデルハイトくんという、正しく良い人に言われちゃうとね……
次回はアーデルハイトくん来ます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます