第8話 グロスターの威厳?
一日目、二日目という形式で行きます
「お手紙が届きました」
鮮やかな赤色と金色の装飾がされた手紙を見ていたのはアーデルハイト・グロスターだった。誰もが見惚れてしまうような手紙を、アーデルハイトは苦い顔で見ていた。
「あぁ、今だけは時間が止まってほしい。今のグロスター家を見て両親は何を思うんだろう……」
旅行はあと一週間で終わると書かれている。
「ミーナ・ホーエンめ……グロスター家の威厳を見せてやる。本気で! 一週間でケリをつける!」
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<一日目>
「ヒソヒソ ねえ聞いた? 例の人(ミーナ)をイジメても当主様は不問にしてくださるって!」
「貴族の方々って見下すからねぇ。ちょっとだけ遊びましょうか」
皿洗い場で侍女? メイド? たちの会話が物騒なんですけど……しかもアーデルハイト様の命令で「掃除が好きなら皿洗いをさせる」とのこと。つまり、物騒な彼女達の間に入らないといけない。
大抵の苦痛は実家でなれてきたけど、大人数でのアウェーは怖い。焦りからかカチャリ、と手に持っていた皿が音を立てた。メイド達は目をギラつかせながらこちらに振り向く。
一瞬の静寂が流れたが、すぐにメイド達は私を歓迎しているフリをした。その目は獲物を狩る動物にしか見えない……気の所為と思いたい。
「あら~ご夫人。どうぞどうぞぉ、ここの洗面台を使用なさってください」
「では失礼しま、あっ!」
歩こうとした瞬間、メイドの一人に足をかけられた! いくら上からの命令だからって本気!? 幸い血は出てないけど……痣は出来てしまいそう(今までの経験から)
「誠にごめんなさーいwフッw」
私には三つの選択が出来るけど、どうしようかしら? 泣く? 怒る? 誰かに言いつける?
……いや全部ダメだわ。泣いたり怒ったりって反応は、相手を喜ばせる! もう実家(ホーエン家)で学んだもの。最後の選択肢は……そもそも相手がいないし!
「大丈夫よ! そういうときあるものね!」
ホーエン家でも同じだけど「お馬鹿なキャラ」が一番、波が立たないのよね。
「頭が良く出来てますね、ご夫人殿w」
「わたしたちも見習わないとねぇw」
脛の辺りはちょっと痛いままだけど、このくらい軽いものなら無傷のうちよね。
洗面台で数えるくらいの皿を洗う。ガチャガチャと水場はうるさかったけど、あんまり耳障りではなかった。誰かと一緒に作業するなんてなかったから、虐められてるはずだけど嬉しい気持ちになる。
嬉しい気持ちを抑えながら、まとめてすすぎ洗いを行う。すると周りが騒ぎ出した。
「え、なんでお皿を洗うのよ! 水がもったいないでしょ!」
メイド長らしき人物に洗っていた皿を取り上げられてしまった。つい自分流でやってしまったけど、グロスター家にはグロスター家なりのやり方がある。知らないほうが悪い、だから怒られても仕方がない……
「適当に洗えば良いものじゃないの……ん? なんでこんなに油っぽくないの?」
「それは灰を使って洗いました」
「いやあなた、ここにある灰の箱使わなかったじゃない。それに灰を使ったあとは水に漬けないと……」
私が使ったのは灰液。実家で使ってきたものが役立つなんてね、あっちだと全くもって見向きもされなかったけど。
「すごい……! 意地悪しちゃってすみません! 長年、食器洗いしてきた私ですら知らないのに……!」
「「すごい……」」
実家では水回りはもちろん、調理場も任されていた(私が食べるのは許されてなかったけど)だから、灰を水と一緒に沸騰させた『灰液』を作れた。
灰液の作り方を教えるとメイドたちは感激していた。ずっと水を張っているとカビが出てくるのよね~とか、微妙に汚れている皿がいつも気に食わなかったとか、いろいろ不満が出てきてた。
彼女らの目は、狩る目じゃなくなっていた。
<二日目>
「メイドたちには物理的に壊せと命令したが……あの女(ミーナ)、すこしは参ったか?」
しっかりとグロスターの威厳が見せることが出来たと、快眠だったアーデルハイトの目には、またも頭痛が起こりそうな光景があった。
「あ、あぁ……メイドらと仲良くなっているだと……!! おかしい! こんなはずは!」
アーデルハイトの表情は怒り。怒りの化身が宿っているような顔だったらしい(エメ談)
あとがき 灰液っていう洗剤知ってますか? 昔の西洋は水つけたまま皿を洗いませんでした。ですので、ミーナちゃんに灰液作らせました。
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