第6話 ホーエン家1

三人称です。最初にアーデルハイトくんがいますが、すぐにホーエン家に移ります。




<三人称>


「アーデルハイト様、報告です」


 侍女であるエメは旦那様(アーデルハイト)の婚約者の奇妙な行動について話した。まるで使用人のような部屋と食事内容に文句は言わず、むしろ感謝されたと聞いてアーデルハイトは頭を抱えた。


「なあエメよ、あの部屋と食事内容は貴族の者にとって最上の侮辱だと思うんだが……俺の仕打ちが甘いのか?」


 エメはそのままの姿勢で続けた。


「ホーエン家の1人娘で何人も男を侍らせて、領地に出ては豪遊すると聞いています。あの言動は貴族には見えません」


「ハァ……報告は以上か? 終わったら下がっていいぞ」


 エメはアーデルハイトに深く礼をし下がっていった。


 アーデルハイトは部屋に飾られている絵画を一瞥し、今日のことを思い返す。


「最初から同情を買わせるように汚れている服、汚い髪を纏っていたが……意味が分からないな。さらにはあの髪、ホーエン家の特徴である金髪要素が皆無だった。まるで……」


 アーデルハイトは喉元まで上がった単語を飲み込み、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。その勝者の微笑みは、飾られている絵画の中にいる彼の父と瓜二つであった。


「身代わりということか? フッ舐めた真似をしやがったなグスタフ・ホーエン! グロスター家は16の男が領主だからと見下したな」


 グロスター家は早いうちから経験を積ませるということで、15歳にもなれば領主の座を手に入れる。それは周知の事実であり、ホーエン家も知っている情報である。プライドの高い貴族が、自分より2周りも若いとなれば見下すとアーデルハイトは考えたらしい。


 疑問が解消されたため、アーデルハイトはふかふかのベッドに身を預け眠った。明日になればミーナに問い詰めると意志を燃やしながら目を閉じる。





 一方、ミーナがいなくなったホーエン家では事件が起こっていた。


「そこの女、今日この廊下は掃除したのか? 大口の取引相手が来るんだぞ、さっさとやれ。解職にされたいのか」


 この屋敷はもう16時を過ぎていたが、侍女たちは誰も掃除道具に手を付けていなかった。そのためグスタフの指摘することは正しく、廊下は誰かが歩くたびにホコリが舞っていた。


 グスタフに命令された女は掃除道具入れの場所を知らず、何分かそこらをうろちょろしてそこには焦りが見えていた。その度にホコリも舞うため、グスタフの怒りは頂点に達してしまった。


「この家から出て行け! 無能はいらん!」


 そう言い彼女に金貨数枚を渡した。退職金という意味だろう。


「グスタフ様。今日だけで10人も侍女を解職させたのですか? かなり家の維持が厳しくなるのではないでしょうか」


「パトリック……執事長のきみだけが頼りだ。無能は生きる価値がない。利用するだけ利用し、捨てる! あのミーナのようにな! どうだ賢いだろう」


 ミーナに掃除を押し付けたバツだろう。何十年も任せっきりになり、この屋敷にいるほとんどの者は、ゴミ箱や掃除道具入れは覚えていない。


 執事長はグスタフを褒め称え、言葉を続ける。


「ええ、賢いです。グロスター家の人たちよりも遥かに。ところで、取引相手の方がお見えになりましたよ。客間は掃除済ですので、ご案内いたしましょうか?」


「この廊下は汚いままだが……まあ良い、相手は私達ホーエン家より弱小の家柄だ。全くもって問題ない」


 大口の取引相手だというのに家柄で見下すとは最低な男だ。この行動で今後の貿易を左右するかもしれないと言うのに……




次は取引での失態を書きます

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