第2話 待ち合わせ

 それともアイツらホーエン家の悪事でもバラしてやろうかしら! ダブスタお父さんは賄賂を受け取る最低な人だし、ミリザリアお母さんはイケメンたちをお金で買ってる。(ダブスタに内緒で)エリザベスは彼氏が何十人もいる……う、羨ましくねーわい! 血は繋がってるのに、どーしてこんなに!


「それにしても遅いわね……朝方から馬車で待ってるという話なのに」


 暇なので、ホーエン家入り口にある噴水に目をやる。この屋敷や庭などの手入れは私がやってるので、汚れてしまわないか心配になる。ん? メイドがいるだろって? 腐ってるので無理。良い家の子供をイジメたいからって、職務放棄しているのよねー。どうなるのかしらね。



 キィキィ。と車輪がくすぶるような音が聞こえ、見たこともない機械が現れた。4つの車輪の付いた……先頭に人がいる……変な乗り物がやって来た。


「あー、ホーエン家のお嬢様でよろしいですか? 使用人のような服装ですが……」


「あい。そです!」


 おっと久しぶりに人と会話したので、変なテンションになっちまいました。ホーエン家の連中なんて人じゃないし!


なんか……この人すごく睨んできてるんですけど。


「なるほど……これを差し出したということは全面的に争う、という意味ですかね。おぼっちゃま」


 バタン! と車輪の上に乗っかているドアが開いた。そこには銀混じりの髪の背が高い、こちらを威嚇するような切れ長の目の人物が現れた。


「フン。ホーエン家せめてもの抵抗だ。愛おしい娘を差し出す、当然であろう」


「あ、いえ愛されてないです。まったく」


 アイツらに愛されてるなんて思われたくないせいか、条件反射のごとく意見を申してしまった。これではホーエン家でもグロスター家でも、上手くやれない! 完全な失敗を犯してしまった。


だってほら! 空気が絶妙! シーンってなってる!


「そんな訳が……まあよい、オレの伴侶となる女だ。ここで音を上げたも困る。地獄へ案内してやろう、さあ乗れ!」


 んぇ? ドアの奥から手を差し伸べてるんですけど、この偉そうな人。んぇ、手を取れってこと? それとも急に手を離して突き落とすつもり?! 


 んぇんぇと、心のなかで格闘を繰り広げていたが現実時間は進んでいた。偉そうな人はイライラしながら、私に向かって言う。


「なにをしている。さっさと手を取れ、突き落とすつもりなどないが」


「んぇ!?」


 そう言いながら彼は、空中で右往左往していた私の手を取り引っ張った。そのまま、妙にふわふわしている場所に座らされた。彼は満足げな顔をしている。



 あの家族から離れられるだけでも嬉しかったのに、この人ってお人好しすぎる! この強制婚約って、とんでもない人生の転機かしら! あっ、ヤバい自然と笑っちゃう……


「でへへへっ」


「!? オレは変人と婚約するのか……?」


「こっこれは、なんというか自然に、出ちゃったというか」


 弁明したつもりだったけど、変な空気が流れた。背もたれとか乗り心地は最高だったのに、気まずい空気はずっと漂っていた。グロスター家に着くまで。

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