第10話 ゴリ太先輩

唐突だが、俺の先輩の話しをしよう。


この話しなら、ネタは尽きないからだ。



俺の先輩に、『ゴリ太』と呼ばれる先輩がいた。

紛う事なき馬鹿だった。


どれくらいの馬鹿かと言うと、自衛官の昇進試験のテスト用紙に、自分の名前を間違って書いてしまうくらいの逸材である。

名前の書き忘れ程度なら聞いた事あるが、自分の名前を間違える人間など、俺の知る限りこの人くらいしかいない。


最初は、「流石に冗談でしょ?」と聞くと、真面目な顔でゴリ太先輩は答えた。


「どうやら、テスト中に藤子不○雄先生について考えていたら、間違ってしまったらしい。小隊長に呼び出されて怒られたぜ」


色々と突っ込む所はあるが、陸曹試験の担当者から部隊に話しが伝わり、呼び出しを受けたらしいので事実だろう。


何故に試験中に、それも名前を記入する時に藤子不二○の事を考えながら書いてしまったのか。


「それで、なんて書いたんです?自分の名前」


「『ゴリ・ゴリ太』」


それ、のび太じゃねーか。


(なんて馬鹿なんだ!この人は!)

まさに、驚愕である。採点した試験官も驚いた事だろう。


爆笑しながらも、「あんた馬鹿だろ!」と、その思いを伝える失礼な後輩の俺に怒る事もなく、ゴリ太先輩は言い訳を始めた。


「のび太とか、コロ助とか名前、ヤベーじゃん?そしたら段々、先生だったら俺の名前、なんてつけるのか気になってきてなぁ」


コロ助とか、最早人間でもないんだが?


「まぁ、『ブタゴリラ』じゃないっすか?」

「それはもういるだろう!」


「てゆーか、あの作者、そんな大して考えて名前つけてないと思いますよ?」


「まさか、そんなはずは……」


普段ならブチ切れてただろうが、後輩にブタゴリラ呼ばわりされても気づかないゴリ太先輩。

どんだけ不二男リスペクトしとんねん。



彼は、馬鹿だし粗暴な人間ではあったが、フィジカルは優秀であった。

自衛官は割と細マッチョが多かったりするが、先輩は筋肉太りというか固太りというか、横に太いタイプの人間だった。


フルコン系の空手出身者で、顔のパーツから小指に至るまで全てがデカくて太かった。


外出して酔っ払って帰ってくると、血だらけの拳に誰かの歯が刺さってたり、服が刃物でボロボロに引き裂かれてた事もあった。


そんな粗暴な先輩に、よく組み手の相手をさせられていた俺は、最初の頃は真面目に付き合っていたのだが、1年もすると適当にあしらう事が多くなった。

まともに相手するには、体格もパワーも段違い過ぎて付き合いきれなかったからだ。


ゴリ太先輩は、圧倒的な体格とフィジカルで真正面から圧倒するスタイルを信条としていた。

それ故に、それをのらりくらりと躱すタイプの俺に躍起になっていた。


あまりに一方的にこちらの打突を受け過ぎた先輩が、「お互いの左手を縛って、交互に殴り合おう」と提案をしてきた事もある。

ゴリラでも一方的に殴られるのは気に入らないらしい。

どう考えても俺が得する事はないので、丁重にお断りしたが。


先輩は馬鹿なので、漫画や映画のワンシーンにメチャクチャ影響されやすかったのだ。

熱いシチュエーションに目がなかった。



ある演習中に、真面目な顔の先輩が「風呂太郎、オナニー好きか?」と聞いてきた。


そんな、『ト○、サッカー好きか?』みたいなノリで聞いてこられても、「まぁ、ソコソコには?」としか答えようがなかった。


勿論、本音では「また馬鹿が始まったな」と呆れていたが。


「俺は、演習場の誰もいない丘の上でするのが一番好きだ」とのたまった。


そんな突然しょうもないカミングアウトをされても、「何言うてんねん、この馬鹿ゴリラ」くらいにしか思っていなかった俺に、「だから、お前もやってみろ」とゴリ太は言った。


何が「だから」なのかもよくわからないが、何故”丘の上”を指定するのか?


「マジで、最高に気持ちイイから!」


「コイツ、マジで頭沸いてんな」とか思ったが、風俗やエロい事に関しては一家言を持つゴリ太先輩の事はそれなりに尊敬もしていた。


風俗やナンパした女の子から、何度も性病をもらってきたが、常にエロにアグレッシブな先輩だった。


演習中に単独行動など中々難しいが、『状況』の終了した夜に、俺は敢行した。


星が降るような、誰もいない山の中。

小高い丘に登った俺は、そこで地球ホシと一つになった。


機会があれば皆も試してくれ。



ネタだろ?って思うくらい個性的なキャラは、以外と身近にいたりする。


この先輩も、その中の一人だ。



先日、その”ある意味”尊敬していた先輩からの連絡を受けて、若かりし頃の思い出の一部を書いてみた。


俺が抱っこしてあげてたゴリ太先輩の息子も、大分大きくなった。



〜ゴリ太に捧ぐ〜

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