第24話 レッツイベントにゃ!

「腹ごしらえも充分、レベルもあげた。あとはココミの店に行くだけだ」


 ログインしてから、ココミの店まで向かう。広場はイベントに参加するであろう猛者たちで溢れかえっていた。今は、ちょうど昼の12時。30分もすれば今より一層ソワソワとした空気になるだろう。

 そんな広場を横切っていく。見慣れた白い猫耳マントが少し前を歩いていた。集まった人から自身を隠しているのだろう、足早にココミの店に入って行く。その後ろを追うように扉を開いた。


『本日臨時休業』の看板のおかげか店には誰もいない。奥の部屋に向かうともうリオンもココミも揃っている。


「遅かったね?」

「本体の腹ごしらえとか、まぁいろいろな?」

「クズイ、作戦はあるにゃ?」

「んーないかな? 来たものを倒すって感じ。フィールドが選べるなら密林系がいいよな。逆にリオンは密林とか市街地は嫌なんじゃないか?」


 リオンに視線を向けると「どこでもいいかな?」と、戦略も何もない感じである。俺とココミはため息をついたが、それもリオンはどこふく風だった。このゲーム内最強の戦士は「心配いらないよ! 全部倒すから!」と大物感を発揮している。


「これ渡すにゃ!」と机の上に置かれたのはイヤーカフ。コロンとしていてシルバーブラック系のカッコいいやつだった。シラタマ製っていうのがわかるネコのマーク付きではあるが。


「これは?」

「通信できるようになるにゃ。フィールドは広いにゃ。メッセージでやり取りは時間かかるにゃ!」


 昨日の階層主との戦いのとき、俺たちが声を掛け合っていたのを見て思いついたらしい。それぞれ手に取って耳につける。


「範囲とかある?」

「ないにゃ! ここにいる限りどこでも聞こえるにゃ!」

「なんだかズルしてるみたいだね?」


 リオンがクスクス笑うと、「確かに」とみなで笑い合った。ココミからも回復薬等の供給をしてもらい出陣のときだ。


「上位目指して頑張ろうね!」


 コツンと拳をぶつけ、静かに闘志を燃やす。店の扉を出れば、もう広場近くは熱気に包まれていた。


「じゃあ、クズイくん。健闘を祈るわ!」


 リオンが白の猫耳マントを揺らして去っていく。背中を見送り俺も歩き出した。


「クズイ、頑張るにゃ!」


 店先でぴょんぴょこ跳んで応援してくれるシラタマに拳をを上げて返事をした。


 ……絶対、上位入賞してやる!


 広場に集まる参加者の中へと紛れていく。リオンと同じフィールドにならないように距離を取っておいた。


 簡単な説明のあと目を開けると、だだっ広い開けた場所にいた。俺はどうやらここから開始らしい。草原フィールドで、草は芝生くらいしかなく、隠れられる木は一本もない。こちらが視認できれば、相手からも必ず視認できる……いわば、デススポットのような場所だ。足が遅いココミなら……と考えると、ぶるっと体を震わせえる。


 ……隠れる場所は一切なしか。不利……とまでは行かないけど、それなりにめんどくさいな。


 俺は半径1キロ以内に氷柱の応用で壁を作る。MPもさほど使わずにできたのでまずまずだろう。大きな氷の鳥籠の中を索敵をし、「せーのっ!」で氷柱を地中からプレイヤーにお見舞いした。


 ……結構減ったんじゃないか?


 鳥籠の中には31人がいた。今、16人まで索敵に引っかかっているので、半数を削れたことになる。


 ……氷柱で死なないってことは、しぶといのもいるってことだよなぁ。あとはしらみつぶしに狩っていくだけだ。


 頭の中で何度もシュミレーションをした甲斐があったようで、スタートダッシュは上場。会場を沸かせていることはプレイヤーである俺は知らない。


 朝から牛とぶつかり稽古してたからなぁ。防御も結構上がったし、何よりこれはありがたいな。あとこれな!


 二層の草原を牛と戯れていたとき、たまたま、チーターのようなモンスターに出くわした。さすがというべきか、とてつもなく足が早い。負けてはいないと思ったが、反応がかなり遅れていた。

 一ヶ所に留まっていれば、勝手にモンスターが飛びついてくるので、ジッとしたのち、双剣の餌食となったのだ。

 このチーターはスキル持ちだったらしい。『加速ブースター』のスキルが手に入った。本来、モンスターの固有スキルのようだが、ネコネコシリーズで身を固めている俺のスキル欄に入ってきてスッと馴染んでしまった。


 加速とまらねー! あと、忍足もあるから気づかれねぇ!


 風が吹いたと思ったらプレイヤーはすでにエフェクトを撒き散らして死んでしまう。そんなふうに誰にも悟られないうちに静かに狩りをしていったので、会場で一部始終を見ていた者たちに『サイレントキラー』と異名をつけられたらしい。


「さてと、あとここには一人かな? 油断はしないほうがいいな。さっき見た感じヤバそうだ」


 通り様に最後の一人を見た。ガタイのいいおじさんで、デッカい戦斧を軽々持っていた。


 当たったら、ひとたまりもないよな。


 少し離れた後ろからジッと見ていた。視線を感じたのか、こちらに振り返る。全身筋肉の鎧に、軽い俺の攻撃は通るのか……? と疑問を抱えながら、大鬼を倒したことを思い出した。


 やれる! 大鬼も強かったんだ。


 気合十分、最初の一歩目から、最速ギアを上げ、大男に真正面から突っ込んでいく。

 ガキーンと金属音とともに双剣が弾かれた。


 見抜かれていたか。なら……。


 左足を軸にすぐさま反転し、再度切り掛かる。俊敏にはほど遠い大男はわざと切られたのかもしれないと思うと後ろにひく。


 刃を当てただけじゃ斬れない。なら、奥の手を使うしかない。


 双剣を前でクロスした。「エンチャント」と呪文を唱えると、黒い刀身が水色がかる。昼前の時間でいろいろ試したうちの一つだ。目を見張る大男は防御に入った。


「攻撃は最大の武器だってね!」


 加速とともに水で威力を上げた双剣で切り掛かった。大鬼を倒したときより手応えがあった。真っ二つになった大男は、その場でパクパクと口をしたあと消えていった。


「これでこの辺りは終わりかな? 誰か鳥籠に入ってくるまで待っていよう」


 そこからは、鳥籠にワザワザ自分から入ってきてくれたプレイヤーを狩っていく。今日1番はやはり、さっき倒した大男だっただろう。


 現実時間3時間。ゲーム内時間1日が過ぎていった。ラストは、上位5人のプレイヤーを集中砲火すべく、運営側が画策したらしいが、俺もリオンも関係なく、最後までフィールドに立ち続けていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る