第16話 宿題やるにゃ

 ボス部屋からシラタマを抱いたまま出ていくと、心配をしてくれていたリオンが駆け寄ってきた。


「クズイくん、だいじょ……ぶ、だった?」


 シラタマを見て、きょとんとしてしまったリオン。モフモフの猫は、俺に抱きつきながらも、先輩とやらから聞いていたリオンを見れた感動に浸っている。


「……このモフ猫は? 何? モンスター?」

「あぁ、えっと……ボス部屋にいた俺のナビゲーター」

「ナビゲーター? ゲームに入るときの案内してくれた子?」


 俺を訝しむように見ながら、モフモフとした猫をチラリと見ている。リオンもこのモフに魅入られたようだ。少し眉尻が下がり口角が上がっている。


「そう。名はシラタマ。なんか悪さして、ボスの手先に成り下がってた」

「にゃあ! 成り下がってないにゃ! みゃーは、先輩に言われて……それより、それより……、リオンにゃ?」


 シラタマは目を輝かせてリオンを見ているので、若干引きき気味にリオンは「そう」と返事をした。シラタマが嬉しいのは、腿にあたっている尻尾を揺らす激しさでわかる。


「……どうして、知っているの?」

「チュー子先輩の愛弟子だとか! みゃーは会いたかったにゃ!」


 握手を求めるかのように短い手を出すので、リオンの方へ少し寄ってやると、リオンはその手をギュっと握っている。


「チュー子っていうのね? 私のナビゲーターって」

「チュー子っていうから、ネズミ?」

「そう。ネズミだったわ。夢の国に来た! と思ったくらい可愛かったの」


「あぁ」と、とあるレジャーランドを思い浮かべながら頷いた。


「そういえば、ボスは見事倒せたようだね?」

「あぁこれね? 可愛いだろ?」


 俺の装備が変わったことを見ていたようで、リオンに苦笑いをしながらシラタマを肩に抱き、その場でクルっと回った。ネコネコシリーズ黒猫。どう見ても可愛いとしか形容の仕方がないのだが、リオンは羨ましそうに頬を緩めていた。


「それいいな! 私も欲しいな。これって、ネームド? 一点もの?」

「よくぞ聞いてくれたにゃ! これは一点もの! 世界に1つしかないクズイだけのネームドシリーズ」

「はっ? 俺だけのネームド、シリーズ?」

「そうにゃ! これからクズイが取るネームドの武具は、全部ネコネコシリーズになるにゃ! かわいいにゃ!」

「……聞いてないぞ? 俺、ずっと、可愛い系なわけ?」


 シラタマを睨むと、「そうにゃ! いいにゃ? 愛されニャンコ」と、どや顔でこちらを見ていた。


「ついになるものはあるにゃ。女の子用のが。でも、それはしばらく現れないにゃ」

「どういう……?」

「……ナビゲーターに戻れないにゃ。さっきから、何回か戻れるように呼び掛けているのに」

「それは、ご愁傷様です」

「……にゃあ。みゃーが認めたプレイヤーしか、このネコネコシリーズが取れないにゃ! だから……」


「取れない方がいいんじゃね?」と聞こえない程度で呟いたつもりだが、地獄耳のようで、シラタマが「罰当たりにゃ!」と怒った。


「まぁいいじゃない。可愛いんだし。どんな効果があるの?」

「結構優秀だよ。索敵もできるようになったし、耳も鼻もきく。目も夜目がきくようになったし、俊敏もさらに上がってる」

「すごいんだ。私とは全然違うものがドロップされたんだね?」

「コイツのせいでな」


 頭を小突いてやると、迷惑そうに「にゃあ!」と鳴いた。最初は警戒していたリオンもシラタマのなんとも間抜けさを感じ取ったのか、ほっこりとした表情で見ていた。


「……それより、リオンは俺がボス部屋にいる間は何してたんだ? 後ろのが気になるけど」


 触れようか触れないでおこうか迷ったのだが、さすがに目を引くので聞いてみたのだが、だいたい予想はできた。


「うん、ちょっと時間があったから、このあたりのモンスターを狩ってたの。クズイくん、レベル上がる速度が尋常じゃないから少しでもと思って」

「クズイは、みゃーのおかげでブーストしてるから、レベルはガンガン上がるにゃ」

「たぶん、そういうとこだと思うぞ? 戻れないのって」


 気づいてなかったのか、シラタマが「にゃあ」と落ち込んだ声で鳴く。俺にもどうしてやることもできないので頭を撫でてやった。


「その後ろのってアイテムだよな?」

「えぇ、アイテムボックスがカンストしちゃって。クズイくんのほうに余裕があったらお願いできる?」

「あぁ、いいよ」


 そういってアイテムを収納袋へ詰めていく。初期装備のこれも山のようなアイテムをどんどん入れていくので、リオンが声をかけてきた。


「クズイくん?」

「どうかした?」

「アイテムってそんなに入らないよね?」


 不思議そうにこちらを見ながら聞いてくるので、ストレージをみせた。まだまだ収納は可能と一目でわかるそれに目を見張る。


「何か変かな?」

「私も初期のものを使っているんだけど……そんなに入らないわ。このアイテムも手で持って帰るつもりだったのに」

「そうなんだ? まだいけるから全部入れてしまうな?」


 全部つめたところで街へ戻ることにした。歩いていても、リオンがこのあたりのモンスターを狩りつくしていたので一匹もモンスターが出てこない。街まで、二人と一匹の奇妙な帰路となった。


「ココのところにお願いされてた素材置いてくるね?」

「俺も一緒にいくよ」


「わかった」というリオンの後ろについて、ココミの店へと入って行く。ココミが、店の奥からひょこっと顔を出して、こっちこっちと手招いている。近寄っていくと「おっ、いい装備になった!」というので頷く。


「お願いされてたの置いておくね? クズイくんの方に入っている余剰分も出して」

「了解」

「うほぉー! すごい数じゃん! ありがとう!」


 頼まれていたものは、予想より多く手に入ったことに興奮をしているココミ。その耳元にリオンが何か耳打ちしている。ところどころ聞こえてくるのは、俺の名前と「一緒」とか「作って!」というもの。何を作ってもらうのだろうか? と二人を見ていたら、ココミがニヤッと笑う。


「わかった。依頼受けるわ」


 次の瞬間、俺をジッと見るココミ。隅から隅まで見られていてなんだか恥ずかしい。


「性能は、こっちで勝手にするわね?」

「うん……そのさりげなくだよ?」

「あぁ、はいはい。じゃあ、前金でありがとう!」


 料金を支払ったようで、二人のやり取りは終わったようだ。リオンがこちらを向き、少し先にあるカフェに向かうことになった。

 ココミに挨拶をして、店から出て同じように歩く。さすがに疲れて口数が減ったシラタマを抱きかかえてカフェに入り、店員に席へ案内された。


「……今から何をするにゃ?」

「宿題だよ? 高校生だからね。課題があるんだよ」


 そういってリオンが宿題を広げる。俺も倣って宿題を並べた。


「範囲同じ?」

「本当だ。わからないとこあったら教えて」

「いいよ。私がわかるところなら」


 向かい合って、宿題を始める二人の側で、牛乳をチビチビと飲むシラタマ。「人間は大変だにゃあ」と言いながら、その場へつっぷして眠ってしまう。その様子を見ながら二人で微笑み、宿題を仕上げていく。全く同じ問題にお互い不思議がりながら、「今日はここまでだね」とリオンがお茶を一口飲んだ。

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