第15話 お行儀よくするにゃ!

 宝箱を開けると、中に入っているものが見えた。引っ張り出すと、パーカーとかハーフパンツ、グローブに双剣などなどが入っている。リオンがここでドロップしたという『クリスタルソード』とは違うが、双剣が入っているので、俺の武器防具なのだろう。


「何々? 黒猫シリーズ?」


 中にあったものを全部広げてみた。猫耳のついたフードは可愛いが、俺が着るのか? と疑問しかなかった。


「あぁーっ! 黒猫シリーズはここにあったのにゃ!」


 シラタマが見覚えあるということは、ロクなことは起こらない……そんな気がした。


「ちなみに聞くけど?」

「にゃ?」

「これって……」

「みゃーが作ったものにゃ!」


 えっへんと胸を張って、すごいにゃ? と言わんばかりのドヤ顔をこちらに向けてくる。胡散臭そうに見ると慌て始めた。


「みゃーが作ったものを信頼してないにゃ? そういえば、あげた双剣も使ってないにゃあ……」


 意気揚々としていたシラタマの尻尾は地に落ち、先の方だけチョロチョロと動いていた。余程、俺が貰った双剣を使っていなかったことが、寂しかったのか全体的に萎んだ感じだ。


「剣だけよくても、この世界で浮くだろ? 装備が初期なんだし」


 流石に可哀想に思いフォローをすれば、さっきの悲しい顔はどっかへ飛んでいったように、耳も尻尾もピンっと立つ。


「ぼ、ぼ、防具が揃ったら、剣も使ってくれるにゃ?」

「ま、まぁな?」


 期待を込めた眼差しに負けたように肯定すれば、小躍りしそうなくらい飛び跳ねて喜ぶ。黒猫シリーズを使わないわけにはいかなくなった。


「説明してくれるか? せっかくだし」


 作った本人が目の前にいるなら、性能やら何やらを聞けばいい。話したそうにウズウズしてるなら、尚更だ。


「聞いてくれるにゃ?」


「あぁ」と相槌を打てば、その場にしゃがみ込み説明を始めた。


「ネコネコシリーズの中の黒猫だにゃ。一応、全シリーズに共通するのは、猫耳と尻尾にゃ」

「尻尾……それ、どうにかできないのかよ。可愛い女の子が着てたらもてはやされるだろうが、俺が着たら……」

「クズイは早さ重視で背もさほど高くないから似合うにゃ!」

「余計なお世話だっ!」


 俊敏を強化するために、風の抵抗を考え、ギリギリの背の高さにしてある。それをシラタマに指摘されると腹がたった。「にゃあ……」と可愛い声を出して、許してもらえると思っているのか? と、睨んでみたが、見た目がモフ猫なので許してしまいそうだ。思わず手をシラタマの顎の下に持っていって、カリカリと掻いた。案の定、気持ちがいいのか、我を忘れてゴロゴロと喉を鳴らしている。


「もっと、こっちにぁ……」

「完全に仕事忘れてる」


 シラタマの方からスリスリと寄せてくる感じ、欲求に忠実すぎると胡乱な目で見ていると、ハッとしたようにこちらに気がついた。


「く、クズイがいけないにゃ! みゃーをこんなに惑わすなんて……、こ、こ、今度やったら怒るんだにゃん!」

「絶対ないわ。今度会うときは、またたびでも用意しておくよ」


 キラーンと光る目は欲しいのだろう、またたびが。この世界にあるのかどうかは知らないが……とりあえず、仕事をしてもらうことにする。


「んで、この武具について教えてくれ」

「この黒猫のパーカーは、防御力もさることながら、俊敏の補正がかかるにゃ。ネコネコシリーズはどれも、猫のような動きを想定してあるから、早さはピカイチにゃ!」


 ビシッと親指を立てているようだが、ピンクの肉球しか見えなかった。


 あぁ、可愛い手だ。むにむにしたい。


 他所ごとを考えながら聞いていた。説明をしろと言ったわりに長くなりそうな気配に嫌気がさしてきたのだ。


「要するに、猫のような動きができるってことだな?」

「まとめると、そうにゃ!」

「着替えてみて感触掴むしかないなぁ。猫耳フードはいいとして、こっちのさ……せめて、スキニーとかにならない? ハーパンは流石に」

「ちょっと待つにゃ!」


 パンと手のひらを合わせた瞬間、黒い糸と布、針がでてきた。器用にお裁縫をしているシラタマをまじまじ見る。ものの数分で、スキニーに変えてしまったことに驚いた。


 いや、これ、ゲームなんだし、パンってしたらならないのか?


「出来たにゃ! これでどうにゃ!」


 どこにこんな才能があるのか……黒のスキニーに変わっただけでなく、黒い糸で目立たないように刺繍までされていた。かなりかっこよくなっていて目を見張る。


「すげぇーな! シラタマ!」

「当たり前にゃ! もっと、褒めてくれてもいいにゃ!」


 胸を張るシラタマの頭をわしゃわしゃと撫でる。黒猫のパーカーとスキニー、グローブ、ハイカットのスニーカーを履けば、全身黒ずくめだ。

 着た瞬間に、何やら補正がかかったようだ。


 さっき、シラタマが言っていたとおり、俊敏が上がったな。他にも索敵が可能になってるし、最適な狩場がわかるようになった。忍足なんてできるのか? それに暗視もできるから、暗がりでも普通に見えるようになるのか。なんだこれ。すげぇーいいじゃん!


「シラタマ!」

「はいにゃ?」

「無茶苦茶いいな、これ!」


 次の瞬間には、ぱぁーっと顔を綻ばせるシラタマ。褒められたことが本当に嬉しいようだ。


「武器はこれだよな?」

「それにゃ、それ……前渡したのと融合できるにゃ!」


 貸してくれと言われたので、両方の双剣を渡す。シラタマには大きいので持った瞬間にフラフラしてたが、地面に折り重なるように置き、また、パンっと手を叩く。次はハンマーが出てきて思いっきり打ち鳴らした。

 金属が当たる音が、ボス部屋に響いていく。何度となく響いたあと、どういう構造なのか、二対の双剣が一対となり、黒光りしていた。


「黒猫モードにゃ! ちなみに前のにも切り替えることができるから、試してみてにゃ!」


 渡されたそれは、初期装備とは比べものにならないほど軽い。持った瞬間、自身のために作られた武器ではないかというほどである。


「ヤバいわ、これ」

「スゴいにゃ?」


 ニヤニヤ笑うシラタマを抱き上げ、高い高いをしてグルグル回ると、「にゃにをしゅるーっ!」と慌てている。

 目を回したのか、地面におろしたら、ポテンと尻餅をついていた。


「大丈夫か?」

「……目が回るにゃ、ダメにゃ?」


 仕方がないので抱き上げる。何をされているかもわからない様子で、肩に頭を乗せて大人しくしていた。


「そろそろボス部屋を出ないと、待ってくれてる人がいるから」

「誰が待ってるにゃ?」

「リオンだ」

「リーオンにゃ!!」


 驚くシラタマ、その後は跳ねたりもみくしゃにされたりと乱れた毛並みをサッと整える。


「リオンに会いに行くにゃ! リオン!」

「お利口にな?」

「お行儀よくするにゃ!」


 シラタマが嬉しそうにソワソワしているのが、揺れる尻尾でわかる。


 可愛いな。


 黒ずくめになった俺は、真っ白なシラタマを抱き上げ、ボス部屋を後にするのであった。

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