第14話 ボス部屋は、なんか、ファンシーにゃ?

 パーティ解除をしたため、文字通り一人きりになった。扉が閉まった瞬間から、俺を殺すための部屋が出来上がっていき、その最奥から目覚めの咆哮があがる。


 ……いやいや、待て。おかしくないか? この設定。洞窟の奥だから、普通、岩とかゴテゴテのフィールドじゃないのか? トカゲとかさぁ? 蛇とかさぁ? あっ、あれでもいいぞ? 勝てそうなちびっこドラゴン!


 周りを見渡せば、子どものおもちゃ部屋のような空間に変わってしまった。どうみても、女の子の部屋だ。いや、女の子の部屋とか入ったことないけど……と、一人ツッコミを入れながら、変貌したボス部屋を見渡しため息をついた。

 フランス人形からぬいぐるみ、そのほか雑多に置かれたぬいぐるみやおもちゃが所狭しと置いてある。先ほど咆哮をあげた元クマのぬいぐるみが、赤い目でこちらを見据えていた。


 ……ファンシーなのに凶暴ってか? ぬいぐるみなら火の魔法一発で終わりそうなのに、俺は使えないしな。


 リオンと離れているので、使えない魔法を考えても仕方がない。双剣を握る手に力を籠め、睨んでいるクマを目掛けて駆け出した。


 ……本物のクマみたいだな。ぬいぐるみの跡形もない。


 爪は鋭く、口元から牙も覗く。荒々しいその姿は、可愛らしいテディベアと相反して、ヒグマのようであった。俺の動きに合わせて、向こうも襲ってくる。


 振り下ろされた尖った爪をひらりと避け、横薙ぎに双剣を閃かせた。ガードが甘いのか、腹に一線入り、中から白い綿が飛び出してくる。


 ……あれ見ると、ぬいぐるみなんだなぁーって思えるな。うん。そんなに強くなさそうだ。


 クマの動きも鈍いというわけではないが、敏捷さを生かして早さで翻弄して切り込んでいく。クマは対応しきれておらず、あちこちから白い綿を出しては、痛みに鳴いていた。


 楽勝じゃないか? そう思ったとき、あらぬ場所から槍が突き出てきた。エフェクトが自身から飛び散り、刺された場所を見れば、おもちゃの兵隊が、剣や槍、弓を構えていた。


 えっ? 飾りじゃなくて、コイツらも敵なの? 雑兵ってやつか。


 おもちゃの山をみれば、いつのまにか、息を吹き込まれたおもちゃたちが、ガチャガチャと動き始める。刺されたときのHPの減りは微々たるものではあったが、物量で俺を倒しにくるようだ。


「ひぃー、ヤバくない? あぁ、でも、小鬼の群れよりかはいいのか?」


 動き始めたおもちゃたちが、統制の取れた動きで俺を追い回す。一体一体の力は強くないが、倒したはずのものが、ゾンビのようにまた動いて襲いかかってきた。あちこち壊れているのに動き回るおもちゃたち。


 どうなってるんだ?


 周りを見渡しても、たくさんのおもちゃが襲いかかってくるだけ。あのクマですら、一度倒したはずなのに、原型もわからないほど綿だらけのまま、こちらに向かって襲いかかってきた。


 クマがボスじゃないってことだよな? もしかしなくても、どこかにコイツらを操ってる奴がいるのか?


 おもちゃを倒しながら、飛び跳ねて周りを見渡した。たくさんあるおもちゃの中、同じように混じっていてわからないようにしているようだが、ふと、今まで、襲ってきていない無傷のフランス人形が目に止まった。

 青い目をしたそれは、目があった瞬間、ホラー映画のような形相に変わりケタケタと笑い始める。


 ……ホラー映画だ。今晩、夢に出そう。


 プスっとふくらはぎに痛みが走る。俺から見つかったフランス人形が指示を出し、おもちゃの兵隊に襲わせたのだろう。次の瞬間には、体に警告がなる。毒かと思ったが、死の呪いがかけられたらしく、急激にHPが減っていった。


 あぁ、ヤバい、ヤバい、ヤバい! 死ぬじゃん、俺。


 1階層でうろついている割にレベルが高いが、経験がないから対処ができない。毒の攻撃があると言っていたリオンとは、もしかしたら異なるボスと相対しているの可能性がでてきた。俺には早さ以外に何か特化したものはなく、呪いなんてHPの減りがヤバいもの食らった日には、お陀仏まっしぐらだ。リオンがいれば、解呪してくれるかもしれないが、今は一人きり。


 フランス人形に向けて、握っていた双剣の片方を投げた。人形たちに阻まれるかと思ったが、投げた剣の方が早く意外とうまく体を抉っていったようだ。向こうもダメージを食らって、エフェクトが飛んでいる。

 そういえば、今まで倒したはずのぬいぐるみやおもちゃにはエフェクトがなかったことを思い出し、片方の剣を回収するべくフランス人形へとおもちゃをかき分け向かっていく。


「えいっにゃ!」

「いてっ、何すんだ!」


 思わず出た声に、「ごめんにゃぁ……」と情けない聞きなれた声が聞こえてきた。ぬいぐるみに混ざって今まで気が付かなかったが、見覚えのあるモフモフがそこに槍を構えて俺を突こうとしている。


「はっ? ナビゲーターはクビになったのかよ?」

「クビになってないにゃ! ちょっと、しぇんぱいに行って来いっていわれたにゃ! クビになんて……」


 べそをかきそうになりながら、俺に槍を突き出すシラタマ。それを剣でいなしてやると、涙をポロっと零す。図星を言われたことが余程悔しいのか、必死に攻撃をしてくる。


「モブモンスターに降格させられたのか。可哀想に……」

「そ、そんにゃことないにゃぁーーーーー!」

「まぁ、そう叫ぶなって!」

「えいっにゃ! クズイにゃんて、こうしてこうにゃっ!」


 突きまわすシラタマに「痛い痛いやめろって!」と言ったところで、「無理にゃ!」と騒ぐだけ。本当にモブにされたのか、フランス人形に操られているようだった。


「自由を奪われているのか?」

「……えいにゃい」

「わかった。ちょっと待ってろ!」


 シラタマの不安そうな目を見つめ頷いたあと、振り返ることもせず、おもちゃたちに守りを固めさせているフランス人形と対峙した。おもちゃたちはそれほど強くない。もちろん、あの気持ちの悪いフランス人形もそれほど、強くはないだろう。ただ、厄介な感じはするので、一気に距離を詰め首を刎ねる。


「最後はあっけないな?」


 次の瞬間には、動いていたおもちゃたちは動きを停め、ガシャンと崩れたあと、きれいさっぱりファンシーな部屋ごと消えていった。

 その場に残ったのは、他でもないHPの減りがギリギリのところで止まった俺とシラタマだけ。だいぶ暴れていたシラタマは、疲れたのか地面にペタリと座り込んでしまう。


「……おめ、で、とう……にゃ! 初めての、ボス部屋攻略にゃ!」

「ありがとう。まぁ、なんとかなったな」


 次の瞬間に、シラタマとの間に宝箱が現れる。俺は、それに近づき、宝箱に手をかけた。

 欲しいものは、ネームドの武器や武具。簡単に手に入るとは思っていなくとも、リオンもここで、『クリスタルソード』を手に入れたと言っていたので、何かしらいいものが入ってくれるように願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る