新作VRゲームβ版テストの抽選に落ちて、実力テストで赤点を叩き出した俺は、ゲーム禁止に? 3ヶ月間、憧れの戦士に会えることを楽しみにしていたのに、ログイン初日からパーティメンバーに固定されてました!
第13話 今日のところは、これで勘弁してやるにゃあぁぁぁぁ!
第13話 今日のところは、これで勘弁してやるにゃあぁぁぁぁ!
対峙したトカゲは、難なく倒すことができた。後ろでリオンが、「二日目、二日目……」と呟いているのは聞こえないふりをする。
「クズイくんって、レベルいくつ? あっ、言ってもよかったら……教えてくれたらいいから」
「パーティ組んでるから、リオンも見えるはずだけど……今、13かな?」
「……13? 昨日、始めたばかりだよね? それに、昨日、経験値が3千って言ってなかった?」
「あぁ……」と白状することにした。シラタマがくれたギフトはかなり優秀だった。ステイタスが見れるようにして、リオンの隣に並ぶ。俺のステイタスを見てとても驚いている。
「……これ、たぶんね? 三層にいる最前線のプレイヤーと然程変わらないと思うよ?」
はぁ……と大きなため息をついたあと、リオンのステイタスを見せてくれる。リオンのレベルは24。それぞれのパラメーターは、バランスよく振り分けられていた。
「ゲーム初心者って聞いたけど、パラメーターが凄くきれいだ。偏ってないっていうか」
「あぁ、弟にバランスよく育てたほうがいいって言われて。極振りっていうの? それもいいけど、向いてないと思うからって」
「弟さんは、かなりのゲーマー?」
「引きこもりだからね? このゲームは合わなかったらしくて、やってないけど、他ではトッププレイヤーだって」
「へぇ、すごいな。俺、好きでやってるけど、さすがに……トップは取ったことない。まぁ、いつかはあっち側に行きたいから、今は勉強も兼ねてやってるとこあるけど」
俺の話を聞いて小首を傾げている。リオンには、イメージがつきにくかったのだろう。ゲームを作る側になりたいということが。
「現実的じゃないって、思ってる?」
「いや、えっと……驚いただけ。高校生で、もう、何がしたいのかわかっているって……」
「将来なりたいものなんて、決まってなくてもいいと思う。それを見つけるために、寄り道したりしながら、見つけていけばいいんだし」
「そう、だね。漠然と生きてきたから、その」
「それに、俺だってゲーム制作会社に受かるとは限らないわけだし、作れる環境に身を置けるとは決まってないしさ……」
リオンの方を見て笑えば「そうね」と戸惑いながら微笑む。目指したいものがあるだけで、手が届いているかと言えばまだまだだ。そのためのインプットの時間という理由で、今はただ単に楽しんでいる。将来、リオンのようなプレイヤーが長く楽しみたいと思ってもらえるよう1作を作りたいから。
「俺、このゲームのβ版外れてさ……実力テストが赤点スレスレで親にゲームを禁止されてて、やっと、昨日ログインできたんだ。どれだけ、楽しみにしていたか……将来云々は言ったけど、今はプレイヤーとして、思いっきり楽しみたいんだ。リオンと一緒なら、それも……」
こちらを見上げて、目を見開いていた。何故か頬が少し赤いような気がするが、洞窟の中は薄暗い。発光している植物のおかげで見えてはいるが、はっきりしないこともある。
「な、な……」
「無限大に楽しいだろうな!」
ニィっと笑うとあわあわしているリオン。何がなんだかわからないが焦っていたはずなのに、次の瞬間には「そうね」とニッコリ笑っていた。
「そろそろ、他のモンスターも出てくると思うから、少し索敵しましょうか?」
「あぁ、お願いできるか?」
「……使えるようになった方がいいよ?」
「……それって買えるスキル?」
頬を掻きながら「欲しいんだけどな」と呟いたら、「帰ったら買いに行きましょ!」と背中をバンっと叩かれた。
……いてて。リオン、わりと本気で叩かなかったか? HPが減ってる。
雑談をしていれば、黒い影のようなものが動いた。
「あれっ! 経験値猫! クズイくん、いっけぇー!」
リオンに言われた瞬間には駆け出し、逃げ足の早い猫を追いかける。
……まぢで早くない? 足自慢の俺でもきついか? あのシラタマと同じ猫とは思えない!
追いに追うと、モンスターの塊に入って行く。猫の方も休憩をしたかったのだろうか? あの程度のモンスターなら易々と倒せるだろう。と、思っていたら、後ろから叫び声が聞こえてきた。
「大火球、れんっだんっ! クズイくん避けて!」
リオンがが魔法をぶっ放したようだ。メリメリと洞窟を燃やしながら近づいてくる大火球は、一つや二つではなく、どれほど魔法を練りこんだのだろう? と思うほどであった。ひらっと俺は避けた。
そのまま、トカゲたちへと大火球たちは飛び込んで行く。爆炎とともに火球は消え、その場には大量のアイテムや魔石が転がっていた。どうやら、猫も一緒に燃えてしまったようで、経験値がグワンと入ってくる。無機質な声が聞こえてきて、レベルが上がったことを知らせてくれた。
「いやーすごかったね?」
「……リオンが仕留めるなら、俺、追わなくても良かったんじゃ」
「クズイくんが追いかけてくれなかったら、猫はあのトカゲたちのところに合流しなかったでしょ?」
「……俺、囮てきな?」
「囮ではないと思うけど……まぁ、経験値もいっぱい入ったしいいじゃない」
そういう問題では……と思う反面、やはり、リオンは凄いなと強さにも憧れる。俺もと思いつつも、まだ、二日目。焦ることはないと、双剣を握り直した。
「今日のところは、これで勘弁してやるよ」
さっきのでレベルが上がったことを伝えたら、「えっ?」と驚いた。レベルって、そんなに早く上がるものではないことは、俺自身わかっているつもりでも、シラタマのおかげで瞬く間に15になった。
「……すぐに追い抜かれてしまいそうだよ」
へにゃへにゃ……となるリオンに、にぃっと笑いかける。微妙な表情をこちらに向け「あぁあ」と投げやりだ。
「まぁ、そういうなって。リオンがいてくれるから、レベル上げも順調なんだし、ここも、ほら、ボス部屋までこれた」
「……なんか、私、納得いかないけど。ボス部屋で叩かれてくればいいわ。パーティはここまで。ここからは、一人で行ってよね?」
「……怒ってません?」
「怒ってない! ここで、ネームドの武器が取れるかもしれないから、私とパーティは解除しておいて。じゃないと、私の武具になってしまうこともあるから」
「わかった。行ってくるから、待っていてくれるか?」
「ここら辺のモンスターがいなくならないうちに帰ってきてね。まぁ、モンスターなんて、すぐにポップアップするようになるけど」
「いってらっしゃい」と、回復薬を渡してくれた。それだけで勝てそうな気がしてくる。収納袋に回復薬を押し込む。
「あぁ、忘れてた。ここのボス、毒攻撃もあるからこれも」
毒消しも同じだけもらって、アイテムでパンパンになった袋に詰め込んで、「行ってくる!」と駆けだした。大きな扉を押せば、ぎぃーっと音がする。たった2日のダイブで、リオンのいない戦場は初めてだと気付いたとき、少しだけ、寂しいような不安なような気持ちで後ろを振り返った。変わらず、リオンは微笑み「頑張って!」と声をかけてくれる。優しさに頷き、一人、扉の中へ滑り込んだ。
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