ふぁんしーなんだな、うん。

第12話 レッツ洞窟! にゃん

 ブンブン丸を倒したあと、アイテム回収を終えて一息入れる。「疲れたと」地べたに座ると、どっと疲労感がやってきた。


「さっきの……」

「ん? さっきのって、さっきのブンブン丸のことか?」

「そう。すごいね? まだ、2日目でしょ?」


 あぁ……っと、言ったものの言葉を濁す。ステータスを教えたところで、リオンにとって何のメリットもデメリットもないことを考え言葉にした。


「俺、ここに来る前に、変な猫のチュートリアルを受けたんだよ」

「あっ、猫ちゃんだったの? 強いよね……私、全然勝てなかった」

「リオンでも?」


 こちらを見てクスッと笑う。チュートリアルで勝つ勝たないは、白黒つけないものだ。こちらもレベルなんていう概念もなく戦っているのだから、勝ち目はないだろう。


 ……確か、シラタマの先輩がリオンのナビゲーターだった気がする。


「どうだった? ナビゲーターとの訓練」

「んー、ためになったよ! 戦ったおかげで、格闘家ももらえたしね。クズイくんはどうだったの?」

「……俺? ……思い出したくもない」


「どうして?」と聞くので、調子に乗ったシラタマの話をすると、クスクス笑っていた。大鬼の話をしたころから、腹を抱えて笑い出した。目尻に涙を溜めて笑っていたので、リオンはさっと拭いて大きく息をして整えた。


「笑った笑った! すごい猫ちゃんだね?」

「すごいか? もう、散々だった……。おかげでいろいろオマケギフトはもらったけど」

「チュートリアルでレベル上げてくれるって、なかなかないよね?」

「なかなかじゃなくて、たぶん、前代未聞だと思う。どうせ、今頃、こっぴどく叱られているんじゃないか? くしゃみしてたら、おもしろいけどな」


 もうひと笑い終わったころ、立ち上がる。時間のころはちょうど19時だ。「一旦、飯休憩にしよう」と、お互いログアウトすることになった。



「……ん。もう、19時か。ココミの紹介があったとはいえ、3時間なんてあっという間だな」


 階下から、夕飯のいい匂いがする。それに釣られるように部屋を出て食卓についた。今日も遅いであろう父と兄の夕飯を横目に、母と話をしながら夕飯をとった。


「ゲームに夢中なのもいいけど……」

「わーってるって。でもさ、俺、やっぱりあっち側になりたいわ」

「あっち側って、作る方?」


 コクンと頷くと、苦笑いをしながらも「頑張りなさい」と言ってくれる母。否定はしないけど、努力は人一倍しろという視線に頷いた。


「将来の仕事のため、ちょっくら行ってくる」

「ほどほどにね。夜はちゃんと寝るのよ?」


「おう」と応え、また、自室に籠る。ベッドに寝転びスリープになっていたのを叩き起こした。視界が開けたとき、いきなり目の前に、目をぱちくりさせたリオンがこちらを覗き込んでいた。


「うっ、わおっ、な、なんだよ!」

「あっ、戻ってきた」


 約束の時間より早く帰ってきたはずなのに、すでに待っていてくれたようだ。


「早かったんだな?」

「そうだね? クズイくんとこは家族で食べる感じ?」

「そうだけど?」


 眉をハの字にして「どうかした?」と問えば、あはははとリオンは急に笑いだした。さらに、眉を寄せる。言葉では何を言ったらいいのかわからなかったからだ。


「いいね、家族とご飯。私、そんな時間あったことないや」

「一人で食うのか?」

「そっ、一人で食べるの。ゲームにハマる前は、友だちと食べに行ってたから、今更ね?」


 弟がいるとは聞いていたが、それほど仲がいいというわけではないのか?


 自身の兄との関係を考えながら首をかしげた。


「あっ、家族と仲が悪いとかではないの。私が、ただ、お年頃だから話し辛くてっていうのかな? 両親と距離を置いてる感じ」


 少し俯いたあと、ぺろっと舌を出してはにかんだ。リオンと呼びかけようとしたところだったが、余計なことは言わないでよかっただろう。


「じゃあ、今日のメインの狩場へ行こうか!」

「おう、それで、ここは何が出るんだ?」

「ここは、確か…トカゲとか蝙蝠とかあと、経験値ヤバい上に逃げ足早い猫とか出るよ」


 リオン、モンスターの名前覚えるの苦手なのかな? 芋虫くんとかブンブン丸とか……あぁ、うさぴょんもいた。だいたい、想像できるけど。

 それにしても、キリッとしているのに、そういうところ可愛いよなぁ……。


 大太刀スタイルのリオンは、魔剣士の装備に変えた。洞窟の中では、きっと『大蛇の大太刀』を振り回すには狭いのだろう。


「魔剣士になると、急に雰囲気が変わるな?」

「そうだね? こっちの方がしっくりするかな。大太刀のときの衣装も好きなんだけど、洞窟ってあんまりヒラヒラしたのは、向いてないから」

「大太刀が、振りにくいから変えたのかと思ってた」

「違うよ! どっちかというと防具のほうかな?」


 少し歩いていくと、何かが這うような音が聞こえてきた。きっと、リオンが言うところのトカゲなのだろう。戦うギラついた目に変わる。


「私はあくまで後方支援だから、クズイくん、行って!」


 コクンと頷くと、トカゲの前に出た。弱点は火であるが、魔法なんて使えない。後ろのリオンを頼るのもいいかもしれない。ただ、自身の力を見極めるには、一人で戦かったほうがいい。一歩目を大きく、走り出す。

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