第11話 Siriに引かれてるにゃ……
草むらから飛び出してきたのは、リオン曰く、『芋虫くん』。キャタピラーと名称もついているので、どちらかというと『アオムシ』だと思うが……とにかく、芋虫くんに向けて駆け出した。
「粘着糸に気をつけて! ベタベタするから気持ち悪いの」
「りょーかいっと!」
言ってる側から、芋虫くんは糸を吐き出した。俺が走るところ全てに追いかけるように糸が迫る。とうとう足場がなくなりかけたとき、芋虫くんへ一気に距離を詰める。スピードに乗ったまま、左足を軸に右足を振り切る。サッカーのシュートをする要領で、ボールサイズより少し大きめの芋虫くんの頭を蹴れば、体は浮き上がり、そのまま高速で遠くの木にぶつかり、ぐしゃっと嫌な音をたてた。
「初めてにしては上出来だね! さすがクズイくん!」
リオンに褒めてもらい、恥ずかしく頬をかいていると、その頬の数センチの場所をナイフが飛んでいった。
ギギギ……と機械の油切れのような音が聞こえるているのではないかと思いながら、ナイフが飛んでいった方向を振り返る。その先では、芋虫くんがナイフに刺されて悶え、息絶えるところところであった。
視線を戻すと、リオンがニッコリ笑っている。
……俺、笑えてる? リオンが投げたナイフ当たったら、俺もあぁなる自信しかないんだけど?
「危なかったね! 油断大敵だよ!」
投げたナイフを回収に向かうリオンとすれ違った。なんだか、とても上機嫌でダンスのステップでも踏んでいるかのように軽やかだ。
「後ろからとびかかろうとしてたんだよ。クズイくんが倒した芋虫くんの方見てきて!」
「……あぁ、わかった。アイテムも回収してくる」
「お願いね〜」と軽い感じで駆けていくリオンに、ちょっとした恐怖を覚えた。
……投げるなら投げるって、言って欲しかった。こえーよ……まぢで。
リオンから見えない場所で握っていた手を広げてみた。手が微かに震えているのがわかったが、今の話は胸の中にしまっておく。
芋虫くんの亡骸もといアイテムを確認しようと草むらを掻き分けると、ブンブンと羽虫の羽根を動かすような音が無数に聞こえてくる。ゆっくり見上げると、俺が知る蜂の何倍かわからないほど大きなものが、こちらを睨みつけるように飛んでいた。
……狙われてる?
数を数える限り10体はいる。リオンがいる方へ逃げることも考えたが、それも許してくれなさそうなほど、蜂たちはお怒りだ。
戦うしか、ないのか……?
双剣を手に見上げ、跳躍でなんとかなりそうな高さだと確認できた。
……あのシラタマのおかげで、現状、何ができるかわかるのが癪だよなぁ。
はぁ……とため息をついたあと、トントンっと足慣らしをして、ブンブン飛び回る蜂に攻撃を仕掛ける。相手は数が多いので、飛び上がっているうちに毒針攻撃やたいあたりを仕掛けてきた。攻撃を見越して、ただ跳躍するだけでなく、回転をかけていたおかげで、襲ってきた蜂のほとんどは倒せたが、腕や足に刺されたような痛みがはしった。
……やべっ、これ……毒くらって。
まだ、半数近くいるんだと見上げたところには、先ほどより多くの蜂が集まってきていた。
毒針での攻撃をされたことで、少しずつだがHPが下がってきている。それと比例するかのように、蜂が増えていった。殺された仲間のためとか、殊勝なことを考えているとは思えないが、一斉攻撃をしかけてきた。主に毒針での攻撃が多く、薙いでも、切っても、数が減ることはない。
……ここで、死ぬのかな?
回復薬を飲みながらも応戦してはいるが、刺された箇所が多くなっていくからか、回復が追いついていかない。
小憎たらしい猫の顔を思い浮かべ、少しでも減らすように剣を振り回す。無機質な女性の声が響いた。それと、同時にニヤッとする。ただ、それでも、ピンチなことには変わりはない。
『毒軽減を獲得しました』
ありがたいっ! 軽減ってどれくらいなんだ?
感覚で、HPの減り具合を確認していくと、さっきより少しだけHPの減りが少なくなっている。
これ、いけるのか? ブンブン丸だっけ?
増え続ける『キラービー』を睨み、その場から跳躍する。パッと見たところ、どう考えてもさっきの5倍には増えている。
……どこから、わくんだよ? 数、増えてんじゃねーか?
芋虫くんがぶつかった大きな木の回りをぐるっと回りながら戦っていると、大木の上の方に大きな蜂の巣がある。
理科の教科書もこんなでっかい巣なんて見たことないぞ?
ここから、どんどんと出てきていることはわかったので、落とすことにした。
手持ちはねぇから……、あっ、いいじゃんこれ。このサイズ完璧!
「いっけぇーっ!」
足元に落ちていた手ごろな石を投げる。プロ野球の投手もビックリな球速で蜂の巣を貫通していく。ちょうど、木と繋がっていたところを貫通させることができたようで、グシャっという音と共に、蜂の巣は落ち、蜂蜜のようなものが地面に広がる。
……ココミに頼まれていた蜂蜜って、地面に広がってるあれのこと? やらかしたかな……?
やってしまったことは、後悔しても戻らない。それより問題なのが、一際おおきなブンブン丸……もとい、女王蜂が現れた。頭に王冠をかぶり白い襟巻をしているので、間違いなくこのブンブン丸たちの親玉だろう。
「『クイーンキラービー』ね。言われなくてもそれってわかるのありがたいけど、さしずめブンブン丸のかぁーちゃんってとこ?」
なんとかいけるか? さっきから、ブンブン丸の数は増えていないみたいだし。
何度も何度も跳躍を繰り返し、数を減らしていく。エフェクトとともに、散っていくブンブン丸どもは、とうとう30あたりまで数を減らした。
「クズイくーん、遅いと思ったら遊んでいたの?」
「リオンっ! この状況で……」
「空を飛ぶからやっかいだよね? そこにいるのは、女王蜂ってことは蜂の巣がある?」
「悪い、下に落とした……」
「そっか、りょーかい。あとで、回収するとして……」
ニヤッと笑ったリオンが、「はい、どいてー」というと無詠唱で火球を何個も発現させる。
「虫ってさ、火に弱いの知ってる?」
「……そうなのか? でも、ここ、森だぞ? いいのか?」
「大丈夫。火も得意だけど、水もいけるから!」
次の瞬間には、ブンブン丸たちはリオンが発現させた大玉の火球により、一瞬で燃えてなくなった。
「じゃあ、女王蜂だけクズイくんやっつけちゃってよ! ここで負けるようだと、この先も厳しいからさ」
リオンがわざと残した女王蜂に向かって跳躍する。ただ、女王蜂も必死のようで、さらに高く飛び上がり逃げようとする。
「逃がすかよっ!」
大きな木から跳躍をして、女王蜂の背中に飛びついた。そのまま、首に双剣を重ねて差し込む。首が落ちた瞬間、エフェクトとともに掴まっていた体から空中に放り出される。
「わぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!」
「んっしょっと」
跳躍したリオンが、空中で慌てていた俺をお姫様抱っこする。
「へっ?」
「捕まえた!」
そのまま下へと降りて行き、トンッと地面に着いたとき、リオンと距離が近いだけでなく、お姫様抱っこをされている羞恥から飛びのいた。
そんな俺をクスっと笑っているリオン。「残念だな。現実では無理でも、こっちでは私が男の子をお姫様抱っこできるんだね」なんて、笑っている。
……恥ずかしすぎる。
羞恥に俯いているとリオンが回復薬を渡してくれたので、減ったHPをめいっぱいにする。
「私がちょっと目を離したすきに、相当暴れていたみたいじゃない? ほら、アイテム回収を急いでして洞窟へ向かおう!」
リオンがいそいそと回収をしているので、俺も倣って、収納袋へと入れていく。ココミに頼まれた素材だけでなく、他にもたくさん取れたのでなかなかの収穫だった。
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