第49話 最強の盾と最強の剣
地面にあぐらを組んで不思議な呪文を唱え始める月守さん。
こちらに凄まじい勢いで飛んできた物体が少しずつ見え始めた。先程妹の攻撃によって吹き飛ばされた魔王だ。
ただ、全身がボロボロになって、目も真っ赤に染まって怒りに顔が支配されているのが分かる。
焦っているのか真っすぐ俺に向かって飛んできた魔王の前に大盾を展開させて受け止める。
被害はないが周囲に広がる音圧と風圧が凄まじい。台風でも起きたんじゃないかと錯覚するくらい周囲に広がっていく。
焦っているのか、甲高い声を発しながら俺の大盾を何度も殴ってくる。
「――――――蒼空くん! これから発動させるぞ! 究極陰陽術『天地反転の術』!」
月守さんから前方に薄い緑色の結果が広がる。大きさは体育館一つ分の大きさだ。戦うには少し狭いと感じるがこれくらいあれば十分だ。
結界の中には俺と魔王のたった二人。
「あまり時間がないんでな。最後の決めにかかるぞ? 魔王。俺の両親の、凪咲の両親の仇は取ってもらう。いや、お父さんたちが守りたかったこの世界を守らせてもらうぞ!」
そして、俺は体の中にある巨大な力を呼び覚ます。
――【天能『絶対防壁』の第一形態から第三形態へのモード変換を受領しました。実行しますか?】
ああ。実行する。
第二形態『迎撃』モードは固定砲台として凄まじい一撃を放つ代わりに動けない。そして力を象徴する色は赤色だ。
第一形態『通常』モードは自由に動けるが
そして、最後。
第三形態。
――【第三形態『
ダメージ無効は変わらない。通常モードでは基本的な装備は大盾になる。その大盾が迎撃モードになると固定砲台になるのに対して、強襲モードになると大盾が上下に二分して、上部は背中に、下部は二つに分かれて右手と左手に付けられる。
強襲モードの象徴する色は――――白。
俺の両手に真っ白に伸びる
このモードの最も大きな特徴は、背中の羽根による超高速移動が可能になり、両手に展開された剣は最強の武器となる。
危険性を感じ取ったのか、魔王が震えはじめ何かを叫び続ける。
本当ならもっと早くこの力を解放したかったけど、さっきの魔王ならこの力でも勝てなかったと思う。
月守さんが展開してくれた結界のおかげで魔王が随分と弱体化してくれたおかげで、強襲モードで上回ることができる。
もしこの状態で逃げ回られて
「行くぞ。魔王!」
「キシャアアアアア!」
魔王と激突する。
これまで硬すぎて貫くことができなかった皮膚も迎撃モード中の白光剣によって、容易に貫通して傷を負わせる。
魔王の紫の血がその場に散らばる。痛みで声をあげる魔王が俺を殴ってくるが、今の俺は最高の速度も手に入れている。結界内の魔王よりも早く動けるので、簡単に避けられる。
「痛いのか? 痛いだろうな。今までここまで大きな傷を負ったことがないだろうからな」
避けた腕を白光剣で斬り落とす。
悲痛な叫びをあげながら、それでも殴り掛かる魔王にどんどん切り傷を増やしていく。
「お前がいままで人類にしたことがどういう意味なのか。それくらい理解しながら滅べ」
両腕、両足を斬り落とした魔王が叫びながら俺を見上げる。
お前にやる慈悲は――――悪いが、ない。
俺は両手の白光剣を魔王の頭部に突き刺した。
剣を突き刺した部分から禍々しいオーラが放たれて周囲に広がっていく。
魔王の力が抜けていくのが感じられる。
いずれこのまま死んでくれると思う。
だが、その時――――――周囲の結界が硝子が割れる音とともに、割れて単片となり落ちて行った。
「す、すまない! ここが限界だった……よう……だ…………」
力を使い果たした月守さんがその場に倒れ込む。
そして、不運なことに、俺の心臓に大きな負担がかかり、その場から崩れてしまった。
まだ魔王にトドメを刺せてないのにも関わらず、白光剣を抜いてしまった。
瀕死の状態の魔王だが、魔物が人間を喰って体を回復させるという研究結果が出ている。魔王は――――真っすぐ倒れた月守さんに向かって飛んでいった。
「ま、待っ…………っ!」
全身が痺れて強襲モードが強制的に解除され、通常モードに戻される。
まだ持って数十秒だったか…………何とかいなければ…………だがこのままでは俺の体は動かない。それに通常モードの俺は攻撃ができない。そもそも強襲モードは本来の防御を捨て攻撃に転じたモノであり、俺自身の体への負担が大きすぎるのだ。
最後の一手――――その希望にすがるように月守さんに向かう魔王の頭が見える。だが残念なことに、お前は既に詰んでいるんだ。
「凪咲!」
俺の合図に合わせて月守さんの前に透明になっていたテンペストが現れ、そこに跨っている美しい赤髪の美少女が姿を現す。
ゆっくりと落ちた凪咲が魔王に向かって歩き出す。
魔王は凪咲に飛びつける距離に着いた途端、凪咲に向かって飛びついた。
――――。
――――。
左腕を出して、魔王に噛まれる。
魔王は必死に凪咲の血を吸おうと齧り続けるが、凪咲本人は何ともないように笑みを浮かべた。
「どうしてそこまで生きたいのに、誰かを傷つけたの? 痛いのは嫌だと分からなかったの? 君によって酷い目にあった人達が沢山いるの…………だからちゃんと反省して欲しい。それと私は食べれないわよ? だって私には――――――蒼空くんがいるから」
俺の『共有』によって60秒間無敵となった凪咲が微笑んだ。
そして、ゆっくりと右手で刀を抜き始める。
「来世までちゃんと反省して、これからは悪事はしちゃダメだからね? ――――――」
彼女によって空高く打ち上げられた魔王の頭部は、美しい刀によって真っ二つに斬られ、長い戦いに幕を下ろした。
ゆっくりと俺の方に歩いてきた彼女は、全身が痺れて動けずに仰向けになっている俺の顔を覗き込んだ。向きが反対になっているので、彼女の顔が反対に見える。
「ねえ、蒼空くん?」
「ん?」
「みんなのために頑張ってくれてありがとうね」
「大したことはない。味方を守るなら痛いくらい何でもない。それに痛くもないし」
「ふふっ。君はいつもそうだね。でも君が頑張ってくれたから私達は生き残れたし、両親の想いも受け継ぐことができたと思う」
「それを言ったら、ずっと我慢して力を温存して『溜め斬り』をずっと続けてくれたのは助かったよ」
「えへへ。いつか魔王を一撃で倒せるくらいになるまでね。だって私は――――貴方のために最強の剣になるの」
そう話した彼女は、愛おしく笑みを浮かべて、俺の唇に自身の唇を重ねて来た。
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