第47話 魔王②
周囲に土煙が広がってる中、木山先生も清野の浮遊魔法を受けてからか、こちらに飛んできた。
「蒼空くん。あまり手ごたえがない。もっと集中して攻撃した方が良さそうだ」
木山先生の言葉が終わるとすぐにそれを証明するかのように土煙の中から黒いビームのような魔法が放たれてきた。
「さすがにあれでも無傷か……」
魔法の勢いで土煙が全て消え、怒りの染まった表情で俺を睨んでくる。
清野たちもやってきて全員で魔王に対峙する。
「ギャアアアアアア!」
強烈な咆哮が周囲に風圧を広がらせる。それに耐えてその場で浮いているのも大変なくらいだ。
魔王の頭に生えていた三つの角が少しずつ大きくなり、ヤギの角のように一回転して天を貫く形になった。
――――来る!
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで木山先生を目掛けて飛んでくる。
急いで大盾を張ったまま、間に張り込む。
大盾に魔王が直撃する音が響くが、大盾の特性上全てのダメージを無効化しているので衝撃は一切ない。真っすぐぶつかってきた魔王だが、痛みなどないかのように俺の大盾にぶつかったまま手を伸ばして俺を掴みにきた。
振りほどこうとしたが、魔王の方が一歩早く腕を掴まれた。
ダメージはないにしろ、魔王の力によって体の自由が奪われてしまって、真っすぐ地面に勢いよく投げ飛ばされた。
地面に吹き飛んでいる間に魔王と対峙する木山先生と清野たちが見えた。
俺の体は地面にぶつかって大きな砂嵐を起こして地面に埋まっていく。
何とか大盾でその場に止まったが、随分と地中に埋もれてしまった。
地中から空は見えなくなったが、強烈な打撃音が聞こえて来る。
レベル45で獲得した痛覚無効のおかげなのか、痛覚は一切ないけど感情で焦ってしまう。土の中からどうやって外に出たらいいか悩む。
「蒼空くん! 聞こえる?」
「凪咲!」
「今からチェーンを下すから!」
「分かった!」
穴の上から一本のチェーンが下まで降りて来る。こういうことも想定しているテンペストはさすがだと思う。
降りて来たチェーンを握る。
「凪咲! チェーンを受け取ったぞ!」
すぐにチェーンが引き上げられ一気に穴の中から地上に出た。
「ありがとう!」
「ううん! 私はこのまま地上で待機していていいの?」
「そうだな。凪咲はこのまま力を温存してほしい。必ず君の力が必要な時が来るから」
「分かった。蒼空くん……頑張ってね」
凪咲に見送られながら、そのまま空を飛んでいく。チェーンを渡してくれたのはどうやらアイだったみたいだな。
空中で戦っている魔王と木山先生が見え始めた。
ただ魔王の両手に最強天能を持つ清野たちの頭が握られている。
「――――スキル『共有』!」
俺がレベル50――――最大になった時に覚えたスキルは、効果時間は60秒で、再使用まで600分もかかるが、効果は絶大なものであり、俺の視界で味方だと判断した人達全員のダメージを
肩代わりしたダメージも当然全て無効されるので、事実上60秒間味方全員が無敵になる。ただダメージはなくても吹き飛ばされたり、俺の視界が届く範囲内から外れてしまうと強制解除されてしまうデメリットはある。
「六十秒だけ痛みは感じない! ここで戦っている間だけは好きに戦っていいぞ!」
俺の言葉がみんなに届いたようで、全員が攻勢に出る。
最強天能による絶大な攻撃が魔王に襲い掛かる。
初めての無痛状態に戸惑うことなく、全員が勇敢に魔王に攻撃を続ける。
やっと追いついた俺も魔王の上部から地面に目掛けて体当たりを実行して吹き飛ばした。
下で待機していた清野と木山先生の同時攻撃によってさらに叩き下すことによってより吹き飛ばしを加速させて地面に叩き込んだ。
「共有の時間はもう終わった。これからダメージの肩代わりはできないので気を付けてくれ」
全員が大きく頷いて応えてくれた。
恐らくこのままでは終わらないはずだ。
地面の奥から禍々しい気配と共に、真っ赤なビームのような魔法が放たれる。定期的に使われている攻撃だが、見た目以上に凄まじい火力があるようで掠っただけで致命傷になりかねない。
清野たちを守るために最前線に立ちながら、魔王の動向を目で追う。
「蒼空くん。このまま聞いてくれ。清野くんによる飛行魔法だが、これにも限界がある。これ以上空中戦はあまり好ましくない」
なるほど。清野が全身汗ばんでいたのはそういう理由なのか。息まで荒くなってきた。
「せ、先生! 俺はまだ――――」
「いや。清野の戦力は温存した方がいい。清野の魔法は決定打にもなる。急いで地上に降りよう」
「…………分かった」
意外と素直に聞いてくれるんだな。
このまま慣れない空中戦もあまり続けたくはなかったので、地上に降りると魔王を地面に叩き落とした時にできた大きな穴から魔王が悠々と上がって来た。
ただ体中に傷を多く負っている。少なくとも俺達の攻撃がちゃんと届いている証拠だ。
だが――――魔王がその場でまた大きく咆哮をあげると、頭の三本の角が取れて、その場から落ちていく。
魔王の体から骨が折れる音が鳴り響いて、魔王の全身が不思議な角度に変化し始める。まるでこのまま滅んでいくかのようだが、なぜか魔王からは絶望的なプレッシャーがますます増えていく。
「もっと強くなるのかよ…………」
ボソッと聞こえた声と同じ感想を抱いてしまった。
もしかしたら勝てるかも知れないと思っていたのに、まだ届かないのかと絶望を抱くには十分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます