第45話 絶望と希望の光
まさかあいつらが参戦するとは思いもしなかった。
見送ったヘリコプターを見て、中から感じた気配は試練ノ塔で何度も感じた彼らの気配だったけど、どうやらそれが正解のようだ。
僕の力は完全な防御。
それに対して彼らの天能は全て攻撃に特化した天能だ。
魔法、剣術、槍術、武術、弓術、銃術。
いくつもの広範囲攻撃が炸裂して巨大な亀の魔物すら一瞬で倒した。
「元の仲間達だよね?」
一緒に窓から眺めていた凪咲が声をかけてきた。
「ああ。どうやら木山先生のおかげで元に戻ったみたいだな」
「…………試練ノ塔でのことは想像しかできないけど、彼らと初めて会った時の印象から、きっと許されるはずのないことをしたと思うけど、蒼空くんはそれでいいの?」
「全く気にしていない……といえば嘘にはなる。ただ、それくらいあの塔は大変だった。あの時の空気感は今でも忘れられない。人を簡単に絶望に陥れる。彼のやり方は嫌いだったけど、もしそうしなかったら、俺は多分――――――逃げていたんだと思う」
「逃げていた?」
「あの頃は痛いのが嫌で、でも七海が待っていてくれるから戻らなくちゃいけないと分かっていても…………痛みが終わるなら死んでもいいとさえ思っていた時期もある。もし彼らがいなかったら、清野くんが強制的にも俺を盾として使ってくれなかったら、俺は自分の力と向き合うことができなかったんだと思う」
ずっと彼を恨んでいた。でも得体の知れない試練に入れられた政府の方が許せなかった。
清野も生きるために必死になっていたからこそ、仲間思いよりも俺を盾する残酷さを選んだのだと思う。
だから、一人の人間を特定して嫌うつもりはない。
「蒼空くんは強いね…………」
「結果的に帰って来れて七海に会えたからな。それに――――」
「それに?」
綺麗な赤い瞳が俺を見つめる。
「あの日、あの時、もし違う時間に帰ってきたら、凪咲と出会えていなかったかも知れないからな」
「えへへ…………嬉しい」
「絶対に生きて帰ろう」
「うん! 蒼空くんに助けられた命、大切にするから」
凪咲の笑顔が咲く。
絶対に世界を守ってみんなが笑顔で居られる世界を作りたい。
その時、
外から息すら吸うことが困難なくらい、圧倒的な絶望のプレッシャーが俺達を襲う。
多くの魔物がいてもそれらがまるで玩具のように、ただひとりの存在のためだけに存在しているのだと分かる。
「アイ! 出撃だ!」
「かしこまりました。マスター。目標を『魔王』に設定します」
「凪咲!」
「!? は、はいっ!」
凪咲に手を伸ばす。
彼女の暖かい頬に触れると、震える体が手を伝って感じられた。
「凪咲。怖いなら残ってもいい」
「――――――それは死んでもいやだ……いや。絶対にいや! 私は蒼空くんの隣にいたい」
「そうか。分かった。凪咲は俺を絶対に守る。だから――――行こう」
「うん!」
ハッチが開いて、俺と凪咲のテンペストが走り出す。
最初から全力疾走で魔王の気配がする方に走り始めた。
「七海! 俺の声が聞こえるか!?」
「に、にぃ!」
「魔王の気配がする方に銀牙を放ってくれ!」
「わ、分かった!」
姿は見えないけど、慌てている声が聞こえる。
それもそのはずだ。
魔王が放っているとんでもない気配に、この場にいる全員が絶望的になるのは当然の結果かも知れない。
だから――――――俺達には希望の光が、明日に繋がる希望が必要だった。
結界の中。
キラリと一筋の光が輝く。
次の瞬間、美しい銀色と金色が織りなす弾丸が空を切り裂きながら、魔王がいる方向に飛んでいく。
二発の弾丸は俺達の心の不安を払拭するかのように、空気を割る音を響かせながら飛んでいく。
「彩姫! 味方にアナウンスだ! ――――『俺達の希望の光』はまだ残っていると!」
「か、かしこまりました!」
いつも気丈に振る舞っている彩姫でさえも足が止まっていたみたいだ。
だが、もう大丈夫。
妹が放ってくれた銀牙の光はみんなにとって、大きな希望になったはずだ。
「アイ。味方の状況は?」
「はい――――――――――、止まっていた攻撃が再開されました。魔王出現の前よりもより洗練された攻撃になっております」
「そうか。やっぱり七海はみんなの希望になってくれたな」
「えっへん! 私に掛かれたこんなもんだよ~!」
イヤホンを通して妹のドヤ顔が見えた気がした。
それにしても魔王の姿が全然見えない。気配はまだあるから銀牙の銃弾でやられてはいないようだが……。
「マスター。既に魔王と対峙している人が八人がいます」
「八人!?」
「はい。メンバーの確認をします。メンバーは――――――――
最強天能組六人と、木山先生、月守当主様となります」
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