第43話 想い

「これから作戦を変える。これから七人にはこのエリア以外のエリアを担当してもらうぞ」


「は~い。せいぜい頑張ってね~最強天能くん~」


 意外とあっさり七人が俺達から離れていった。


「もっとゆっくり紹介してあげたかったけど、すまなかったね」


「いえいえ。それにしても全方面から魔物がやってくるとは驚きました」


「恐らく魔王の仕業なんだろうね。それよりも全方面を守りつつもこちらに他の全戦力を集めるから、蒼空くん達にも協力をお願いすると思う」


「もちろんです。俺達ができることは何でも言ってください」


「ああ。心強いよ。ただ魔王に対抗できるのは恐らく蒼空くんだけだと思うので、魔王が現れるまでは俺達で頑張ってみるさ」


 少なくとも痛みはあるけど死なない体を持つのだから、相手が魔王でも問題ないと思う。が、今まで魔王と戦った事がないので絶対なのかは分からない。


 でも俺にできることがあるならやらないといけないと思っている。


 七海が住むこの地を、凪咲や彩姫が住むこの地を守りたい。


 遠くから見える土煙はどんどん広がりはじめ、水平線上に魔物の群れの姿が見え始めた。


 どんどん数を増やす魔物の群れの多さに多くの人が驚きの声をあげる。


 これが全方位だととんでもない敵勢力だ。彩姫の力による結界があるとはいえ、あの数の魔物に取り囲まれたら彩姫の力を持ってしても破れるかも知れない。


「七海は基本的に彩姫と一緒に動いてくれ。前線には俺と凪咲が出る。彩姫は結界を優先で、七海は迎撃を力を極力温存させながら行ってくれ。銀牙のタイミングはまたタイミングを見て送る」


「「「了解!」」」


 返事と共に妹が俺に抱き着いてきた。


「七海?」


「…………にぃ。絶対に勝とうね」


「もちろんだ。あの時みたいに無事に勝ってくるさ」


「うん。信じてる。私はここからしか援護できないけど、必要になったらすぐに呼んでね」


「ああ。七海がで待っていてくれるだけで、俺は十分力を貰えるさ」


 七海が安全な結界の中にいるという事実が一番安心感がある。


 それはここに来るまでにみんなに伝えている。


 最初は外で一緒に戦いたがっていた七海だが、俺が七海の安否を気にしてしまって余裕がなくなると伝えると、七海は渋々納得してくれた。


「少しクラスメイトたちを鼓舞しに行かなくちゃな。七海。絶対に帰ってくるから」


「約束だよ! いってらっしゃい!」


「いってらっしゃい」


 七海と彩姫に見送られて、凪咲と共に一階に降りていく。


 降りていく景色のエレベーターの中、凪咲と二人きりになった。


「凪咲」


「私は一緒にいく」


「…………」


「ねえ。蒼空くん。どうして私が貴方の隣にいるのか分かる?」


 彼女の決意に満ちた瞳が真っすぐ俺の目を覗いてくる。


「私の力は――――剣。敵を滅ぼすための力なの。ずっとこの力を使う場所を探していたんだ。両親の仇を取るだけ。両親が守りたかったこの世界を守りたかっただけ。でも…………私の剣が戻れる鞘はあるのだろうかとずっと考えていたんだ」


 彼女の力は圧倒的なものでも、それを逆手にとって動けなくなった彼女に手を出そうとする人がいた。


 それは結局触られるだけで終わったけど、もし藤原くんの助けが入らなかったら今頃どうなっていたか分からない。


 魔物がいる外に身を置いているにも関わらず、誰も信頼できなくなってしまったはずだ。


 それを知った藤原くんが気を利かせてくれて常に一緒にいてくれたけど、それは彼を危険に晒すことになる。だから凪咲は自分の剣を振るう場所に制限されていると言っていた。


「貴方に初めて会った時、私がいるべき場所は貴方の隣だと思った。だから私は貴方を探したの。蒼空くん。貴方は私が戻るべき場所。隣に立つ場所。私にとって――――一番大切な場所なの。だから貴方の隣からは絶対に離れない。もし私が邪魔で死にかけたら見捨ててもいい。私はずっと貴方を追いかけるわ」


「分かった。凪咲の覚悟。しかと受け取った。でも見捨てたりはしないし、凪咲には死んでほしくない」


「死んでほしくない?」


「ああ。七海も凪咲のことを気に入ってくれてるみたいだし、彩姫も凪咲がいないと寂しいと思う」


「――――――蒼空くんは?」


「俺は――――――君が生きている世界を守りたい。父さん母さんが守りたかった世界だけど、今の俺には大切なものができたから。七海と彩姫と君がいるこの世界を守りたい。君が笑っていられるように」


 いつの間にか俺の中でも凪咲という存在は大きくなっている。


 まだ出会ってから日数はそう経っていない。でもどうしてか彼女の好意が心温まるもので、その理由はもしかしたら同じ苦境だからかも知れない。でもどんなに理由を並べても、俺は凪咲に幸せに生き続けて欲しいし、それは七海や彩姫に向いているものと同じでみんなが俺の中で大切な人になっているからだ。


「嬉しい。ちゃんと帰って来よう。その時は――――もっと伝えたいことがあるから」


「そうだな。俺もだ」


 そして、エレベーターが一階に着く。


 外にはクラスメイト達が不安そうに外を眺めているのが見えた。


「みんなどうしたんだ? そんな暗い顔をしていて」


「「「お兄様!」」」


「心配するな。魔王は絶対に俺が止めて見せる」


「分かりました! 私達は自分達ができることを精一杯頑張ります!」


「お兄様! 絶対に死んじゃダメですからね!? 私をお嫁さんにしてくれるまでは死んだら許しませんから!」


 クラスメイト達を励ましに来たはずなのに、何故か逆に励まされた気がする。


 彼らに挨拶を終えて、俺と凪咲はテンペストが待っている倉庫に向かった。


 四台あるテンペストのうち、俺と凪咲のテンペストの最終点検が終わったようで、小野寺さんと握手を交わすとみんなさんはまた違う場所に移動していった。


 テンペストから見える外の景色を凪咲と二人で見守った。

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