第42話 始まりの音
毎日レベルを上げながら日々を繰り返していたある日。
遂に緊急招集が掛かった。
集まった場所には大きなモニターがあり、月守さんが映し出されていた。
「諸君らにはこれから起きるであろう絶望に立ち向かうために毎日厳しい日々を強制させてしまい心からお詫びしよう。ただ…………
声はあげないが会場全体から強張る気配が広がっていく。
できれば、
それが現実となり、こうして俺達の前に牙を向けようとしている。
「都に向かってくるのは――――魔王。諸君らも知っているようにSランク魔物である魔王は知恵を持ち、圧倒的な力を持つ。そんな災厄の魔王がこちらに向かっていることが分かった。魔王が着くまで十二時間。それまで大勢の人々を批難させ、諸君らは結界の中から戦ってもらう。諸君らにだけは伝えておくが、結界は無敵ではない。魔物に毒され続ければいずれ壊れる。だからこそ諸君らには都を守ってもらいたい!」
会場から驚く声が響く。
魔物が都を覆う結界を通れないというのは、もし何かあったら逃げ道があるという心の支えになっている。
それが実は偽りだと知った人は逃げ道を防がれて、絶望に陥るのは簡単な話だ。
「この事実を知って恐怖を覚える人も多いだろう。だが! 我々にも希望はある! 一年前に生まれた『最強天能』を持つ子がいる。彼は大いに成長を遂げた。自らの意志で我々の
会場に大きな歓声が上がった。
実は月守さんの
俺の存在を大っぴらにはしないが、心の柱になれるならと存在を伝える許可を出した。
今回の戦いは人類の総力戦。ここで勝てないと我々に未来はない。
月守さんの演説が終わり、エリア住民達の避難が始まった。
続いて、都内にも緊急警報が発令されて、十時間以内に住処に戻るように指示が出された。
都では十年ぶりの緊急警報に驚く人も多くいたけど、東京という狭い世界の中、国に反対の声をあげられる人はなく、それぞれが自分の存在意義を全うしようと帰っていった。
今回戦いに参加するみんなは広い会場に集められ、高級な食事を振る舞われた。
何だか最後の晩餐会のように見えるけど、意外とこういう事が大事だという。
俺達だけは別の会場に案内されて個室で食事を取る事になった。
そこに月守さんと臥竜岡さんや結城先生までやってきてくれた。
珍しい食材の料理を堪能しつつ、戦いが終わってからの事を話し合う。
クラスメイト達との交流も増やして欲しいと結城先生から直々に言われたのには、少し苦笑いがこぼれた。
食事が終わり、それぞれの人が魔王が来る方向に集まって、その時を待つ。
「来た」
誰かの声が響く。
地平線から広範囲で土煙があがり、少しずつ姿を見せるのは大勢の魔物だ。
今まで見た事もない数の大勢の魔物。
以前守護神を倒した時ですら比にならない。
そんな中、遠くからでも分かる程に圧倒的なプレッシャーを放つ存在が感じられる。
まだ姿は見えないが、群れの中に存在する圧倒的な強さを持つ魔物――――魔王が感じられる。
「彩姫。魔王ってどういう姿なんだ?」
「そこまでは見えませんでした。ただ、大きさはあまり大きくないかも知れません」
「大きくない?」
「はい。多分私達と同じくらいの大きさかも知れません」
なるほど……強い魔物だから大きいかも知れないという固定概念があったけど、強さにサイズは関係ないからな。
「蒼空くん」
後ろから臥竜岡さんの声が聞こえて、振り向くと何人かの軍人さんと共にやってきた。
「臥竜岡さん。遂に来ましたね」
「そうだな。蒼空くんに紹介しておこう。こちらの七人が現状我が国の最強戦力達だ」
軍服で身を纏ってはいるが、全員個性的な軍人さんだなと思ったら、最強戦力の人達だったようだ。
「ふう~ん。そいつが『最強天能』ね~」
「思っていたより、ずっと
「臥竜岡さんに言われたから見に来たら、ちょっと期待外れじゃ?」
面と向かって弱いと言われて少し悲しく思えるが、彼らから感じる力は間違いなく最強を示すかのように凄まじい力を感じる。
正直にいうと、俺よりも彼らの方が余程魔王に対抗できる気がする。
「こらこら、俺もだが――――彼は木山さんに認められているんだぞ?」
「えっ!? まじで?」
「嘘…………ふう~ん」
木山先生の名前が出ると、みなさんが見る目つきが変わった。
「蒼空くん。これからの戦いに色々不安もあるだろうと思うが、こちらにも大きな戦力がある。蒼空くん達は自分達ができることを精一杯頑張って欲しい」
「分かりました」
これだけの戦力が揃っていれば――――――
その時、スピーカーから慌ただしい声が響いた。
「全軍に告ぐ。全軍に告ぐ。魔物の群れがエリアAからだけでなく全方位から押し寄せてくる模様。作戦をAからCへ変更する。直ちに作戦変更を命ずる。繰り返す――――」
どうやら目の前の敵だけが全てではないらしい。
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