第40話 レベル上げ
午後からは特別校舎の生徒達を乗せたバスが学園から都外に出て、真っすぐエリアを突き抜けて魔物エリア近くに止まった。
その場所は既に軍によって簡易建物が建てられており、境界線ギリギリで魔物をこちらにおびき寄せていた。
というのも、軍に所属している人々もレベルを上げるためにやっている装置だ。
バスを降りるとすぐに、「お兄様~! テンション上がるっす~!」とライくんが声を上げる。
クラスメイト達も少しワクワクしているようだ。その原因となったのは、間違いなく先輩達のおかげだ。
身近なライバルでもある二年生と三年生のおかげで、よりテンションを上げているのだ。
「それにしてもお兄様のバイク、めちゃかっこいいっすね」
「ああ。彩姫のお父さんから借りてるものなんだ」
「すげぇっす~!」
バスの近くにテンペストを待機させて、俺達も生徒達と一緒に結城先生の後を追う。
移動中にテンションを上げていた生徒達であったが、境界線が目の前になり、多くの人々が戦っている姿を目の当たりにして、真剣な表情を浮かべて腕を鳴らし始めた。
「みんな。戦いは決して無理をしない事。一人で突撃しない事。いいね?」
「「「「はいっ!」」」」
「では移動中に組んだパーティーに分かれて、三年生のパーティーリーダーに従って動いてね」
バスの中でパーティーを組んでいるようで各学年から数人ずつでペアを組んで、全部で4つのパーティーが出来上がっていた。
「では、狩り開始!」
最初に歩き出す三年生の後を追いかける二年生と一年生。
まだお互いの実力は知らないだろうけど、特別校舎の生徒である以上、お互いをリスペクトしているからこそ、スムーズに行動できる強みは凄いなと感心するばかりだ。
「俺達も遅れるわけには――――と、その前に七海」
「あ、あい…………」
「ひとまず銀河はダメな?」
「あい…………」
肩を落とす七海の頭を優しく撫でてあげる。
まだ守護神と呼ばれても困るからね。
ただ、そんな七海の口角が少しだけ上がっているのに、何か企んでいるのが分かる。
俺達も境界線を越えて魔物エリアに入っていく。
肌を包んでいた空気が、ぬるっとして泥沼に落ちたような感触に変わる。
この感触はいつ感じてもあまり好きではないな。
他のパーティーとぶつからないように進める。
魔物エリアは大半が森になっている。他にも山になっているエリアもあるけど、大半が森と言っても過言ではない。
森だからこその弊害は視界だ。
魔物の場合、視覚よりも嗅覚の方が発達している場合が多いため、森の中ではいつ強襲されてもおかしくない。
だからパーティーの中には必ず索敵メンバーがいる事が、エリア攻略組である『挑戦者』達の中では常識である。
ただ、今回はエリア攻略ではなく、あくまでレベルアップを目的にしているので、ゆっくりとやってくる魔物を祓うのが目的だ。
少し待っただけで木々の奥から魔物の群れが押し寄せて来る。
「意外と多いな?」
「多分近くの魔物エリアが攻略されたからだと思います。文献によると魔物エリアは広がれば広がる程、エリアから現れる魔物が弱くなるとされていました」
現れる魔物の強さに違いもあるのか……なるほど。
やってくる魔物に対処しようとしたその時、近づいて来た魔物の体に大きな穴が開いてその場に倒れ始めた。
一匹、一匹、どんどん進んでいく。
隣で不敵な笑みを浮かべていた七海を眺める。
「新しい武器なのか?」
「えへへ~! そうなの~! 銀河が使えない七海はただのお荷物と思われたくないからね! ナギ姉とサキちゃんと相談して準備した新しい武器だよ!」
と言いながら自慢するように俺に向けるのは七海の手のひらサイズの――――――エアガン用のBB弾が沢山入ったケースだった。
一発ずつ取り出せる出し口があって、それに指を揺れて指で押しやって加速させていると思われる。
「思っていたよりも小さいサイズだから飛ばしやすいし、加速も乗りやすかった! でも小さすぎてあの速度で飛ばすとなると、銀河と似たくらいの力で加速を与えなくちゃいけないから、銀河の練習にもなるかも!」
「そうか。色々考えて出した答えなんだな。偉いぞ。では彩姫はこのまま七海の隣にいながら、魔法で援護してくれ」
「了解~!」
「凪咲は左手と右手どっちがいい?」
「私は左手を請け負うよ!」
「分かった。じゃあ、正面は七海、左手は凪咲、右手は俺で対応する。正面の敵が漏れてきたらすぐに呼んでくれ」
「あいあいさ~!」
テンペストから離れているけど、テンペストで使っているイヤホンを持ち出しているから、少し距離が離れても声を届けることができる。
その日から、俺達のレベル上げの日々が始まった。
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