第37話 秘策、宙返り反転作戦

 俺を乗せたテンペストが巨大亀の股を通り後ろを目指す。凪咲達が逃げた場所とは正反対側である。これから俺が考えた作戦を実行する。


 テンペストの速度であっという間に亀の尻尾部分に辿り着いた。


「アイ! ここでストップだ」


「かしこまりました!」


 そして、俺はその場で――――大盾を展開した。大盾を展開していると踏みつぶされる心配はない。


 ただ、その目的は踏みつぶされないためのモノではない。


 大盾は俺の意志で向きを自由に変えられる。必ず前に張り続けるわけではない。


 俺は大盾を上向き・・・に設置する。


 どうか作戦通りに事が運んで欲しい。


「――――――行けえええ! シールドバッシュ!!」


 大盾を尻尾の方から腹の方に薙ぎ払う・・・・


 鈍い音をたてながら大盾が巨体に直撃する。


 そして、俺が持つスキル『体当たり』が大盾に反映され――――――巨体が宙に浮いた。




 俺が考えた作戦として、亀がひっくり返って起き上がれない事を思い浮かんだ。


 巨体をどうやってひっくり返そうかと悩んでいた時、試練中に自分よりも遥かに大きなブラックドラゴンを吹き飛ばした事を思い浮かんだ。


 だからこそ、吹き飛ばし効果があるシールドバッシュを斜めに吹き飛ばしたらひっくり返るんじゃないかと画策したのだ。




 作戦通り巨体が綺麗な帆を描いて宙返りで反転する。


 俺はテンペストに乗り込み、全速力で巨体亀から離れた。


 ひっくり返った亀によって、魔物達が踏みつぶされ、猛烈な爆風が周囲に広がっていく。


 巨体なだけあってとんでもない勢いで周囲に爆風が巻き起こり、まるで巨大な台風が起きたかのような地獄絵図に変わった。


「蒼空くんってたまにとんでもない事を考えるよね……」


 ボソッと凪咲の声が聞こえてきた。


「みんな無事か?」


「無事よ」「無事だよん~」「無事です!」


 何も言ってはいないが、全て計算してくれたみたいで、高速移動で動いてくれたのは助かった。


「では最後のトドメと行こう。七海は銀河で亀の頭から撃ってくれ!」


「もう正面で待機しているよ!」


 さすがアイちゃん達だ……!


「銀河を撃った後、動けなくなるはずの七海の護衛は二人に任せた」


「「了解!」」


 この世界で最も大切なモノと聞かれれば、真っ先に口から出るのは七海の命だ。


 動けなくなった七海を任せられると思うくらい、俺は凪咲と彩姫を信用しているということだ。


 それには自分でも驚く程で、これからも信頼し続けるだろう。


 銀河の射線上からすぐに避難を終えると、遠くから爆音と共に爆炎の突風が巨大亀を貫いた。


 亀の悲痛な叫びが周りに響き、またもや爆風が凄まじい勢いで周囲に広がっていく。


「――――マスター。残念な知らせがございます」


「ん? 残念な知らせ?」


「はい。銀河射撃により巨大亀に大きなダメージを与える事に成功しましたが、どうやら一撃死はできなかった模様。このままでは――――――回復されます」


「なっ!?」


「もう一撃、巨大亀の頭部に撃ち込めば倒せると思われます」


「七海! 今の声は聞いたか?」


「うぅ……にぃ…………ごめん……無理ぃ…………」


 イヤホンから辛そうな妹の声が聞こえてきた。


 やはり二発目は無理か。


 くっ…………どうしたら…………。


「蒼空くん! 私の剣なら銀河と同等の威力の攻撃が繰り出せると思う!」


 凪咲の焦った声が聞こえてくる。


 だが、それでは凪咲も動けなくなってしまう。つまり、凪咲も七海も守れるのは彩姫しかないが、彩姫は戦闘力は皆無だと話していた。どちらかというと、補助魔法のような力を持つ。小さな結界を張って暫く耐える事はできるが…………いくらテンペストが全自動とはいえ、動けない人を乗せて移動できるほどではないと思う。


 次なる手はないものかと頭を回転させる。




 …………。




 …………。




 あった!


 どうして忘れていたんだ。


「凪咲! そのまま七海を守ってくれ!」


「えっ!? いいの!?」


「もちろんだ。七海の攻撃で亀は暫く動けない。となると――――アイ。頭部に向かってくれ!」


 テンペストの後輪が音を上げて、一気に高速移動に入る。


 横に見える反転した甲羅は不思議な山のように見える。


 向いている視界の空を埋め尽くす程の巨体。これ程の巨大な魔物が俺達が住んでいる街のすぐ近くにいたとは思いもしなかった。


 ふと、月守さんが話していた魔王の事を考える。


 守護者ですらこうも強い。なら、本来の魔王はどれくらい強いのか。


 凪咲からの情報によると、魔王は思考能力がかなり高いという。人間並みに、いや、それ以上に残虐で冷血で卑劣な性格だという。


 亀は遅かったし、攻撃も大振りで単調だった。


 それが全て上位交換となると、とんでもない相手だと思う。


 考え事をしていると、巨体亀の頭部近くに辿り着いた。


「マスター頭部に辿り着きました」


「ありがとう。後は近くで待機してくれ」


「了解」


 アイが俺から少し離れて待機する。


 ふう――――一度深く深呼吸をする。


 この力を使うのは初めてだな。まだ説明文しか見てないから、実際の実力がどんなモノか分からないからな。


 目の前に少しずつ、でも確実に回復している亀の消えた頭部を見つめた。

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