第36話 エリア守護者
暫く休んでいると、遠くから地鳴りの音が聞こえて来て、俺達が休んでいた場所も地面の揺れを感じた。
向けている視線の先に小さいが丸い山が見え始めた。
山はゆっくりと、でも確実にこちらに向かって歩いてくる。
「にぃ? あれって魔物なの?」
「どうだろう。でも動いている以上魔物なのは間違いなさそうだな」
「蒼空くん。あれはフロアのボス魔物です」
祈りを捧げていた彩姫が祈ったまま答えた。
彩姫はこのエリアを調べると言って祈りを捧げていた。
「ボス魔物か……つまりSランクの魔王か」
しかし、月守さんが言っていた魔王とは違う感じもする。
「Sランクではあるんだけど、Sランクにも二種類があって、あれはフロア守護の魔王なんで、どちらかというと守護者だね」
「守護者か……つまり、災害級魔物とは違うエリアを守るためだけの魔王か」
「そうよ。七海ちゃんが魔物を殲滅してくれたから誘き出せたみたいだね」
誘き出せたというか、勝手に出て来たというか、こちらを強敵と認定したのは間違いなさそうだ。
「!? い、急いで逃げますよ!」
急に驚いて声をあげた彩姫がテンペストに合図を送ると俺達の前にやってきた。
彩姫が意味もなく逃げるとは思わないので、素直に指示に従う。
「全速力で向こうに行ってください!」
彩姫が指差すのは元のエリアではなく、むしろ遠く離れ――――エリアの中心部に向かう方向だ。
木々を通り抜けてちらほら見える魔物を上手く避けながらテンペストが森の中を駆け抜ける。
暫く走ると、空から轟音が鳴り響いた。
次の瞬間、俺達がやってきた場所を目掛けて巨大な爆炎が通り抜ける。
抉られた地面からは爆炎の威力を物語っているかのようにぐつぐつとマグマのように燃えていた。
「エリア守護者からの爆炎ブレスです。蒼空くん。このまま倒さないとエリアから都に向かってブレスを放ってきます!」
「分かった! このまま守護者に目掛けて仕掛ける! 俺が前衛を担当する。凪咲は中衛、七海と彩姫は後衛からの援護だ」
「「「了解!」」」
アイも命令を受領したようで、並んで走行していた四台のテンペストがそれぞれの方向に離れた。
俺のテンペストが前衛として最前線に向かう。
森を抜けると、遥か遠くだった山はどんどん大きくなり、やがて姿形が分かるようになってきた。
二度目の爆炎ブレスを上手く避けて辿りついた山は――――――とんでもない大きさの亀だった。
「いくら何でもデカすぎだろう……」
多くからだとただの山に見えたが近づくにつれ、圧倒的な大きさの巨体を目の当たりにする。
前方の空が見えなくなる程の、本物の山のような大きさだ。百メートルくらいありそうだな……。
「蒼空くん! どうするの?」
イヤホンを通して遠くにいる凪咲の声が聞こえてくる。こんなに離れていても会話ができるのはとてもありがたい。
それと一つ確実なのは、痛覚軽減があってもあれに踏まれたら絶望的な痛みを
「にぃ! 多分動けなくなるけど、一発なら撃てるよ!」
「分かった。でも確実に倒せないと怖いから、銀河は一旦保留にしよう」
「蒼空くん! 遠くから魔物達が集まって来ます!」
やっぱり集まってくるよな……。
「雑魚魔物達は放置していい! 凪咲は彩姫達の守りを重視してくれ!」
「了解!」
魔物が集まって来て、目の前に巨体が佇んでいる状況をどう打破しようか脳を動かし続ける。
目の前の巨体の魔王の唯一の救いはその遅さだ。
挙動一つ一つが遅くて、踏まれたり叩きつけられたりはしない。
一番危険視するべきは口から放たれる爆炎ブレス。だがそれも連射はできないようで、二回目の爆炎ブレスの後は静かになっている。
動きが遅いなら……それに俺のスキルでならもしかしたら何とかなるかも知れない。
「アイ! これから周囲の魔物を一か所に集める! 向こうから反対側まで
「計算致します――――――可能です」
「よし、走ってくれ!」
「かしこまりました。高速移動に移行します」
命令を受領したテンペストが真っ赤な光を灯す。
後ろに背中が開いて光の粒子が溢れ、テンペストは高速移動を始める。
最初は左手に見えていた魔物の群れの前に着く。
テンペストがドリフトしながら駆け抜ける。
俺もすかさずスキル『挑発』を発動させる。
俺の全身からも赤いオーラが溢れて、テンペストと共に駆け抜ける。
魔物達が俺に向かってくるがテンペストの速度に追いつくはずもなく、テンペストは円状を描いてぐるっと周り、元の場所にやってきた。
たった30秒。
それでも俺のスキルで釣られた大量の魔物が俺の後ろに大量に群がる。
「凪咲! 七海! 彩姫! 全速力で
「「「了解!」」」
「アイ。このまま――――――」
一網打尽の策を始めた。
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