第34話 テンペスト
小野寺さんに案内された場所には四大の大型バイクが置いてあって、真っ白な布が被されていた。
各バイクの後ろには研究者っぽい白衣を着ている人達が立っていた。
「さあ、皆さん。これから皆さんに乗って頂く全自動大型二輪車――――通称『テンペスト』でございます!」
事前に打ち合わせしていたかのように紹介と共に、照明が消えて全自動大型二輪車にスポットライトが当たる。
後ろに立っていた人達が白い布を取り払った。
中から現れたのは、試走した全自動大型二輪車のフォルムをより美しくして、黒色赤色の調和が取れたカラーリングのものだった。
一言で言えば――――
「カッコいい~!」
妹が声を上げる。
ああ。俺も全く同感だ。
姿形のイメージはまるで忍者のような風貌で、男女関係なくカッコイイと思える。
それぞれのテンペストに案内されると、正面部分に画面が浮かび上がって、丸っこい人形のようなグラフィックが浮かびあがる。
「蒼空様。アイです。これからよろしくお願いします」
「こちらでは顔まで映れるのか。よろしく頼む」
「はい! 運転席の正面を開きます。中に入っているイヤホンを装着してください」
本来メーターなどがあるはずの場所に小さな箱があり、扉が開くと中にイヤホンが両耳用に二つ入っていた。
装着すると、アイの声がより近くから聞こえてくる。
「蒼空様のパーティーメンバーも登録が終わりました。これからイヤホンを通して走行中も話し合う事ができます」
「それは助かる。みんな。俺の声が聞こえるか?」
「「聞こえる~」」「聞こえますわ」
全員が出発の準備が終わったようで、正面の大きなハッチが開いて、外の眩しい光が暗い倉庫内に降り注いだ。
「小野寺さん。素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「はい! 我々もテンペストがこれから皆様の役に立てる事を祈っております。テンペストたちのメンテナンスもこちらで勝手に行いますので、安心して利用してくださいませ」
「はい。皆さんもありがとうございました!」
研究者達も光を受けて輝いているテンペストを見て感極まって泣く人まで出る程だ。
「では、ひとまず都外と目指して走行致します」
「ああ。よろしく頼む」
「リーダーを蒼空様に登録。以降指示系統は蒼空様のAIのアイが担当致します」
そして、俺達を乗せたテンペストが研究所を後にした。
◆
「凄い快適だね~」
「うんうん! バイクに乗れるなんて想像もしなかったけど、凄く楽しいかも!」
凪咲と七海が嬉しそうに話す。
レベルを上げるための狩場までどう行けばいいか悩んでいたけど、これなら楽でいい。
そういや、学園にも乗って行けたりするのかな?
「アイ。うちの学園にも乗れるのか?」
「もちろんでございます。既に学園には許可を取っており、駐輪場も確保しております」
本当に有能なんだな。
アイもそうだが、恐らく小野寺さん達の力も大きいと思う。
「蒼空くん。もう少し先でエリアの外に出ますわ」
「そういや、ある意味エリアの外に出るのは初めての事だな」
試練の帰りは意図していなかったから、自らの意志で出るのは初めての事でもある。
我々がエリアを『エリア』と呼ぶには理由がある。
何故なら、しっかりと境界線が存在するからだ。
境界線は視認はできないけれど、地面に太さ二メートルくらいの赤い線が描かれている。
踏んでも何がある訳ではない。ただ味方のエリアから敵――――つまり、魔物が支配しているエリアに入ると肌を刺す雰囲気に包み込まれる。
俺達の視界に赤い境界線が見えた。
凄まじい速度で進んだテンペストは赤い境界線を通ってすぐに停車した。
「蒼空様。ここから魔物のテリトリーとなります」
「ありがとう。アイ達はどうするんだ?」
「ここから蒼空様達の近くを追いかけます」
「なるほど……乗ってなくても動けるんだからできて当たり前か。悪いがよろしく頼む」
「承りました」
みんながテンペストから降りて正面を睨む。
ここからでも分かるくらいに魔物の気配が肌を刺すかのように伝わってくる。
そもそも魔物が支配しているエリアは、入っただけで空気がピリピリする。
「お兄ちゃん! 前方から何かくるよ!」
「魔物の軍勢みたいだな。聞いていた通り、とんでもない数の魔物がいるんだな」
エリアから一歩出ただけで無数の魔物が襲ってくる。
たまに境界線を越えた魔物の中でもS~Aランク以下の場合、人間側エリアでは能力値が半減する。
ただ、魔物エリアでは本来の力を発揮するので、普段戦う魔物達よりもずっとずっと強い。
「皆さん。お待ちください。先に私の力を――――」
彩姫が不思議な光を放ち始め、俺達を包み込み始める。
体の中から不思議な力が湧き出てくる。
「これで皆さんの能力がさらに上昇しているはずです。効果は半日程持ちます」
「ありがとう。ではこれから狩りと行こうか」
「「「お~!」」」
三人娘が可愛い声で応えてくれた。
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