第33話 試走
練習用全自動大型二輪車に跨る。
練習用なだけあって真っ白で模様とかも全く無い。
跨った目の前に不思議な画面が現れる。
事前に渡されたイヤホンから無機質な女性の声が聞こえて来た。
「初めまして。登録者名『水落蒼空』様でございますね?」
「ああ。蒼空だ。よろしく」
「私は知能AIでございます。名前を付けられる際は自由になさってください」
「そうだな。じゃあ、アイと名付ける」
「かしこまりました。これより登録者『水落蒼空』様の専用AIとしてアイと名乗らせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしくな」
声は無機質なのに、どこか人間味を感じるのは、流暢に喋っているのと、礼儀正しさのおかげだと思う。
これから俺の全自動大型二輪車は全てこのAI――――アイが操作してくれる事になる。
「大型二輪車の乗車経験はございますか?」
「いや、初めてだ」
「かしこまりました。では初心者と登録致します。まず、全自動大型二輪車は前方に風除けなどが施されておりますので、ヘルメット類の着用も必要ございません。移動中は常に私から報告と表記させて頂きます」
「分かった」
バイクといえばヘルメットがセットなイメージなのに、渡されないままに乗るように勧められたのはそういう意図か。
そもそもバイクという扱いではなくてタクシー的な乗り物の扱いか。
「ではハンドルに軽く手を触れて、楽な体勢をとってください」
言われた通り、両ハンドルを軽く握る。
握り心地はとても良くて、座っている椅子もふかふかしていて長時間移動にも問題なさそうだ。
「では身体をスキャンしますので少々お待ちください――――――――完了しました。椅子の調整を行いますので楽に座ったまま待機してください」
元々座り心地は悪くなかったのだが、椅子の高さが少し調整されてより座り心地が良くなった。
「ではゆっくりと試走します。こちらでも常にメディカルチェックを行っておりますが、少しでも気持ちが悪くなったらすぐに言ってくださいませ」
「ああ。よろしく頼む」
「では試走を始めます」
どうやら凪咲達も最初の対話が終わったようで、ほぼ同時期に走り始めた。
こちらに笑顔で手を振るのは妹だけで、緊張感一つ見かけない。
少し緊張していたのが一瞬で飛ぶくらいには、妹の笑顔に癒された。
全自動大型二輪車はゆっくりとコースに入る。
アイが言っていた通り、走っていても全く向かい風を受けない。
どういう作りなのかは全く分からないけれど、乗り心地は最高にいい。都をぐるっと回っている列車よりも乗り心地が良い。
「走行中にタイヤの部分を調節して乗り心地をよくしておりますが、調整の限界もございますので大きな揺れがある場合がございます。移動中に話される場合は気を付けてくださいませ」
なるほど。車体で調整しているからこんなにも乗りやすいのか。
それに不思議とハンドルは全く動かずにタイヤだけが横に曲がって曲がって行く。
俺はただハンドルを真っすぐ握っているだけで全自動大型二輪車が前に進むのは、何と素晴らしい事だろうか。
「では慣れてきたため、速度を上昇させます」
「分かった」
少しずつ前方の景色が通り過ぎる速度が上昇していく。
ちゃんと画面には速度が書かれていて、最初の10だったのがどんどん増えて20、30、40と上がって行く。
上がる度に感じる景色が楽しいとさえ思える。
「メンバーの方々も慣れたようなので、連携移動に移行します」
連携移動?
すると俺の隣に七海と凪咲、彩姫が横に並んできた。
三人ともだいぶ余裕が生まれたらしく、ハンドルから手を離してこちらに笑顔で手を振る。
俺も手を振って応える。
それにしてもこんな至近距離で並んで走れるのだから本当に凄いな。
凪咲曰く、都内では色んな開発が続いていて、その集大成が全自動大型二輪車だと言っていた。
それを体験してみると本当にその通りなのだと納得できる。
「では最後になります。連携高速移動に移行します」
「了解」
後部の背中部分から小さな翼のようなモノが出現する。
次第に青く光り始める。
そして――――――俺達は普段体感する事のできない速度でコースを三週程走り回った。
四台の全自動大型二輪車は綺麗に並んで走り抜ける事ができたので、技術の高さに感動すら覚える。
試走が終わり、元の場所に帰って来た。
「凄く楽しかった~! メイちゃん! これからもよろしくね!」
妹のAIはメイちゃんというのか。
「これならいつでも現場にすぐ駆けつけられるわね。よろしくね。シイちゃん」
凪咲のAIはシイちゃんか。
「これからもお世話になります。よろしくお願いしますね。ミイさん」
彩姫らしい可愛い名前だな。
「アイ。これからよろしくな」
「こちらこそよろしくお願い致します」
俺達の前に小野寺さんがやってくる。
「みなさん。試走は楽しめたみたいですね。最後に試した高速移動ですが、あれはいつでも行えるモノではありません。政府から緊急時の発表があった上で、高速移動可能な場所でしか使えないと思ってくださいませ」
「分かりました」
どこででもあの速度で走り抜けるのは危険だからな。
それから全自動大型二輪車の簡単な説明を受けて、
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