第28話 フェーズ4

「本日は会議に参加してくれて感謝する。休日ではあるが学生で参加している者もいるので、この日となった事をお詫びする」


 こじんまりとした会議室に俺と七海、凪咲だけが座っていて、目の前のスクリーンに月城さんが映っている。


 本日は緊急会議ということで、凪咲と一緒に参加している。


 月城さんからはこちらは見えていないが、俺達の参加は伝えている。


「では手短に説明に移る。本日の緊急会議の内容は、最近の魔物の襲来が活発化した事だ。十年前に現れたSランク魔物――――魔王パズズから日々増加の一途をたどっている。そして、一か月前から始まった強力な魔物が出現し始めている現状に政府は遂に重い腰を上げた。緊急フェーズ。4を発動する」


「4!?」


 凪咲が驚くからには、余程大きな事項なのだろうな。


「緊急フェーズはね。1から5まであって、5は…………未曾有の大災害レベルを意味するの。つまり4はその一方手前で、災害レベル。つまり、いつでもエリアが崩壊し兼ねないって事なの……!」


「っ!?」


 凪咲の説明を図っていたかのように月城さんが続ける。


「一か月前から毎週Aランク魔物が一体ずつ現れている。なのに、昨日は体が出現した。――――パズズが出現した時と同じ現象が起こっている。あの時も多大な犠牲があった。この中にもその被害者は多くいるだろう。だからこそ、我々はその悲惨を繰り返さないように対策を進めなくてはならない。これから――――――っ!? あ、貴方様は!?」


 話している途中、月城さんがその場で立ち上がり、目を大きく見開いた。


「すまないが、作戦はわしから伝えさせてもらっても?」


「もちろんでございます」


 画面に映っていた月城さんが移動し、一人の男性が姿を見せた。


 彼は美しい着物を着ていて、慈悲深さが顔に出ている。


「初めましての人も多いだろう。わしは神宮の大宮司だいぐうじを務めている月守つきもり志郎しろうという」


 神宮? 神を祭っているあの神社を総括する機関か? どうしてこのタイミングで神宮の者が出て来るのだろう。


「わしの事を少し説明しておこう。都を守っている結界を維持しているのが、我ら月守家だ。その詳細はまたの機会にするが、今回新たな魔王襲来を予測して諸君には日本の命運を賭けて戦ってもらわねばならない。だが、十年前の悲劇で多くの戦士を亡くした事もまた事実。それを踏まえた上で、今回の戦争は極力被害を出さないような戦いをしたいと思う」


 俺はまだ幼かったから分からなかったけど、十年前…………両親が亡くなった時の戦いはそれ程に激しかったのだろう。


 それを踏まえた上での作戦には期待が持てる。


「単純ではあるが、これからエリアに住む全ての人々をシェルターに移動させる。全エリアを放棄して結界で受けようと思う。ただし、都を守っている結界は無敵ではない。魔物によって浸食されるといずれ壊れる事になる。それを踏まえた上で迎撃戦を行おう。ただ、この作戦にはどうしても欠かせない戦力がいる。迎撃が出来ても、肝心な魔王を倒せなければ、無限に出現する魔物を相手にする事になる。そこで迎撃組と魔王討伐組を分けて作る。その人選は月城くんに伝えている。みなの協力を頼む」


 深々と頭を下げる。


「表では四年に一度変わる総理が一番だと思われるけど、この国のトップは間違いなくあの人なの」


「そう……なのか?」


「うん。都の結界を守っている一族なんだ。だからこそ、彼の意見一つで全てが変わると言っても過言ではない。そんな方が頭を下げて頼み込む程の問題なんだろうね。フェーズ4の理由が分かったよ」


「そこまで深刻な状態か…………」


 人選は既に決まっていると言っていた。


 確証はないけど、その中に凪咲が入っていそうな気がした。


「七海」


「う、うん?」


「恐らく凪咲も選ばれていると思う。だから、俺も参加できるなら参加したいと思う」


「「!?」」


「何より…………俺は守りたい。七海が笑って過ごせるこの街を。この世界を」


「にぃ…………それなら! 私も参加する!」


「七海!?」


「そうなれるように強くなる。にぃが納得できるくらい強くなる。それならいいでしょう?」


 いつの間にか、七海は俺の後ろに隠れているだけの存在ではなくなった。


 俺のわがままかも知れないけど、七海には都内で安全に暮らして欲しいと願っている。


 でも彼女はそれを望んでいない。


 それに…………七海を一人にするくらいなら、一緒に戦って俺が守ればいい。それくらい俺が強くなればいい。


「分かった。まだ時間は残されているはず――――――日々レベルアップを目指していこう」


「「お~!」」


 俺達の方向性も決まった。


 まだ見ぬ魔王の襲来を切り抜けるために、今を生きて必死に抗ってみせる。

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