第27話 残酷な現実
「「ただいまー」」
家に入った途端に凄まじい風圧――――ではなく、妹の突撃を受ける。
「心配しなくても大丈夫だぞ。凪咲のおかげで簡単に倒せたから」
「ううん。蒼空くんのおかげで簡単に勝てたよ。やっぱり七海ちゃんのお兄ちゃんは凄いね」
「えっへん! にぃは凄いんだから!」
心配していたはずが、すっかり顔色が明るくなる。
「二人とも、お腹空いてない?」
「そこまでではないかな」
「分かった。風呂はできてるからね」
「あ、凪咲が動けないから七海に手伝ってもらわないと……」
「ん? 力を使ってから十五分くらいで戻ると言ってなかっけ?」
ん? 十五分?
「あ、あはは……蒼空くん。ありがとう。そろそろ歩けそうだよ」
ひょいと俺の腕の中から降りる凪咲。
ゆっくり帰りたいと申し出があったから、ここまで三十分くらいゆっくりと歩いてきたはずだ。
まさか…………。
それから順番に風呂に入る。
ゆっくりと湯舟の中に入ると、今日の出来事が頭の中に浮かんでくる。
試練ノ塔以外での強敵との戦闘。
凪咲が持つ力。
凪咲の両親の事情。
天能を授かった日。こういう事になるとは一切思わなかった。
◆
次の日。
休日なのもあり、いつもよりも少し遅く起き上がる。
リビングには既に美味しそうな朝食の匂いが充満していて、七海の鼻歌が聞こえて来る。
「おはよう。七海」
「おはよう~にぃ」
「今日は朝から豪勢な作りだね?」
「もちろん! 昨日大変だったみたいだから、朝配達で頼んだカニの味噌汁だよ~」
カニの香ばしい匂いで目覚めたばかりの身体を呼び起こす。
洗面所に向かうと、凪咲が髪の手入れをしていた。
「「おはよう」」
少し待った方がいいかなと思ったけど、少し横にずれた彼女は、いかにも入ってこいとばかりに視線を送る。
あまり女性の指示を無視すると痛い目に遭うので、素直に彼女の隣に立つ。
無言のまま、歯磨きをしながらお互いに目が合う。
同じ屋根の下で住めば、こういう事もあるだろうと思ってたけど、鏡に映る彼女は現実離れしたモノを感じる。
妹が用意してくれた美味しい朝食を食べ終えて、昨日の魔物の件もあり、俺達は家を後にしてDエリアの基地に向かった。
基地に着いて早速案内されたのは、昨晩倒した巨大トカゲが横たわる場所だった。
透明な硝子で覆われていて、中に横たわる亡骸を見るだけしかできない。
おそらく匂いが酷いのだろうから、こういう処置をしているのだろう。
「ほえ~大きいね」
「そうだな。あの穴が凪咲の攻撃だったりするぞ」
「ほえ~ナギ姉凄いわね~」
「ありがとう。それにしてもAランク魔物がここに現れるって珍しいわね」
その時、後ろから慣れ親しんだ声が聞こえて来る。
「Aランク魔物は珍しいが、最近頻繁して出現しているな」
「月城さん。おはようございます」
「おはよう。蒼空くん。凪咲くん。昨晩は感謝する」
「いえいえ。近くて良かったです」
ここが正反対側のエリアAとかだと絶対に間に合わなかったはずだ。
「月城さん。一つお願いがあるんですが」
「うむ?」
「またこの素材は俺達が貰えるとかですよね?」
魔物は戦った人達で分け合うのが普通のやり方ではあるが、有効な攻撃を与えられなかった場合、貰える権利がなくなる。
今回のように先に止めていた隊員がいたとしても、止められなかったという事はAランク魔物に傷を負わせられなかったから素材を手に入れる権利がないのだ。
ただ、政府としてはそういう守護者が帰還した場合、強敵を止めてくれた報酬を別で支払っているので、損ばかりではない。
今回巨大トカゲの有効打となったのは凪咲の攻撃のみ。他の攻撃はあまり有効打にはなっていないと判定が出ている。
それと俺の大盾に自滅した分や、吹き飛ばしたり止めた功績から、巨大トカゲの素材は俺と凪咲で半分ずつ分け合う事に決まったそうだ。
「ああ。こちらとしては、このまま素材として売ってもらいたいがな」
「爪を全てもらいます」
「そうか。分かった」
他はそのまま売り払うという事で合意して倉庫から離れて待合室で待つ事に。
テレビが二つ設置されていて、いつものニュースが流れているテレビと、もう一つは『守護者』のためのテレビでここ最近起きた魔物の侵入や被害、現状などが事細かく流れていた。
俺達が昨日戦った巨大トカゲの被害者の名前や人数も流れた。
暫く待っていると、制服を着た男性が加工した爪10本を持ってきてくれた。
爪を受け取って、俺達はそのまま――――――
「こちらは今回現れた魔物の爪で作ったペンダントになります。お守りとして使ってください」
目の前には泣きすぎて目が真っ赤に晴れても尚泣き続けている女性と子供達がいる。
彼女に爪で作ったペンダントを一つ渡して、また別の家族達に爪のペンダントを渡した。
今回巨大トカゲの襲来で俺達が駆けつけるまでに亡くなった守護者は全員で十名。
彼らの家族に勇者の証としてペンダントを渡す。
それが俺と凪咲で決めた……せめてもの贈り物だ。
俺の両親も凪咲の両親も挑戦者として亡くなっているが、その間も守護者としてずっとエリアを守り続けていた。
きっと仲間も沢山亡くなっていたに違いない。
知っていたはずの現実を目の当たりにして、凪咲や藤原くん達が日々守護者として戦っている理由が少し理解できた。
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