第26話 凪咲の想い

 倒れ込む凪咲を抱きかかえて、ここまで来た車両まで運ぶ。


「蒼空くん、ありがとう。ちゃんと倒せた?」


「ああ。凪咲の一撃。凄かったぞ」


 以前、俺が使った『デッドリーバレット』に似てるというか、あれは自分の体力を使い、一撃を放つのに対して、凪咲が使った斬撃も高威力なのにその場で倒れ込むほどだ。


 車両を囲んで多くの守護者達が俺達に感謝の言葉を伝えてくる。


 だが、いつも守ってくれているのは彼らだから、俺から感謝を伝えたいくらいだ。


 巨大トカゲの後始末は守護者達で行うという事で、俺達は一足先に戻る事になった。


 基地に着いても凪咲は動く事ができなかったが、そのまま送るというのに、不思議と凪咲が反対して、なぜかお姫様抱っこしたまま歩くことになった。


 今日の功労者なので、素直に聞くことにするが、動けない美少女を一人で抱えていいのだろうか。


 ゆっくりと街並みを歩いて行く。


 外を歩いている人は誰もおらず、道を照らす街路灯だけが続いていた。


「凪咲。一つ聞いてもいいか?」


「うん?」


「凪咲の力って、いつもああなるのか?」


「…………うん。実はね。私の力は諸刃の剣なんんだ」


「諸刃の剣?」


「名前は大層なモノで『絶対切断』という名前で、効果も絶大なモノに違いないんだけどね。その力を使うたびに私のスタミナが一気に減ってしまうんだ。だから力を使えば使う程、パーティーメンバーに迷惑をかけてしまう弱点があるの」


 相手が一体だけの魔物ならまだ知らず、複数相手で急に動けなくなったらメンバーも困るだろうな。


 それに運ぶ車両があるならまだしも、歩いて向かったら中々難しいだろう。


「それに制限はもう一つあって、私の力を発動させるまで、5秒間力を蓄えないと使えないというデメリットまであったりするんだ」


「なるほど。あの気配は力を蓄えていたからか」


 あの時、隣に立つ凪咲からは圧倒的なまでの気配を感じられていたからな。


 強い力だからこそ感じられた信頼度は高かったという事か。


「藤原くんなら信頼できるんだけどね…………あまり人の前で力は使えないんだ」


「っ…………すまない。嫌な事を思い出させてしまったな」


「ううん。あの時も藤原くんのおかげで未遂に終わったからね。胸を揉まれただけで済んだけどね」


 状況を想像するだけで嫌になる。


 確かに凪咲は美少女であるが、同意もないしそういう事をする輩がいることに怒りを覚える。


「ふふっ。蒼空くん――――――触ってみる?」


「触らないよ!」


「そっか~私の胸はそれくらいの魅力か~」


「そ、そういう訳ではないけど、そういうのって順番があると思うんだ。いくら同意があっても動けなくなった女性の胸を触りたいとはならない」


 顔はうずくまって見えないが、小さく笑った気がした。


「そういえば、どうして家で住む事になったんだ?」


「七海ちゃんから聞いてない?」


「全く聞いてない」


「そっか~私ってさ、一人暮らしなの」


「そうだったのか。両親の事を聞いても?」


「うん。――――――『挑戦者』として亡くなっているんだ」


「っ!?」


 思わず、その場に立ち止まった。


 そう珍しい事ではない。


 両親が『挑戦者』として選ばれて亡くなる人もそれなりにいるが、どうしてか彼女の言葉が深く俺の心に刺さった。


 もしかして…………。


「月城さんから聞いたんだ。蒼空くん達の両親が…………私の両親と友人だった事を」


「えっ!?」


「えへへ、だからね? 一応、私達の初対面はあの時ではないんだ。私は忘れていないんだけど、蒼空くんはすっかり忘れていたみたいだね?」


「い、いや、待ってくれ。いつの話だ!?」


「ん~4歳ん時?」


「…………」


「あの時に結婚の約束もしているよ?」


「ええええ!?」


 いやいや、全く覚えていないし、そもそも4歳児の約束なんて…………。


「もしかして約束覚えてないの? 私ずっと10年以上待っていたんだけど…………」


「ええええ!? い、いや、ご、ごめん。正直に覚えてない…………本当にすまん…………」


「ふふっ。そうだろうと思ったよ。私の名前を聞いても全く反応しなかったし……でも私は何となく君だと知っていたよ。あの時、私を助けに来てくれた時にね」


「そ、そうか……なんかごめんな」


「ううん。それで月城さんと藤原くんとも色々相談して、それを全部七海ちゃんに伝えたら、一緒に住もうって言ってくれたんだ」


 妹が許可を出したのは知っていたけど、まさか誘った側だとは思いもしなかった。


 あれ……もしかして…………。


「ふふっ。顔に全部出てるよ? 七海ちゃんは私の事情を聞いた時、全部思い出してくれたよ? まだ3歳だったのに」


「ぐうっ……」


「でもね。それも分かるというか、私達の両親が亡くなった時のショックは大きかったからね。だからそれまでの事を忘れようとしていたと思うから、蒼空くんが私を覚えてなくても納得できるよ。だからね。一から始めたいし、蒼空くんになら全て委ねられるんだ」


 そこまで俺を信用してくれる事が嬉しいと思う。


 同じ屋根の下で住んだり、こうして動けなくても男に身体を預ける彼女が少し心配だったけど、それにはちゃんと理由があるんだなと納得できた。


「だからね。これからもよろしくお願いします。それにね」


「ん?」


「私が持つ力を蒼空くんとなら最大限に活かせる気がするの。だから――――――
















 私は蒼空くんの最強の剣になりたい。ううん。絶対になるね。だからもう少し……私を隣に置いて欲しい」


 彼女がどうしてここにいるのか。彼女がどういう人なのか。彼女と一歩近くなったのを感じた。




――――【お願い】――――


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