第24話 幸せな日々

「えっと…………一つ聞いていいかな」


「いいよ?」「どうぞ?」


 家に帰って来てソファに座っている二人の美少女を見ながら、俺は疑問を口にする。


 とてもじゃないが、ただ遊びに来たようには見えない。


 その理由としては――――――


「その荷物は?」


「お引越しの荷物だよ~?」


「…………七海?」


「どうかしたの? にぃ」


「いや、七海がこれでいいならいいんだけどさ」


「でもこんな美人と一緒に暮らすからって、鼻の下を伸ばしすぎるとダメだよ?」


「…………やっぱりうちで暮らすのか」


 思わずため息を吐いて、ソファに座る美少女――――天王寺さんを見つめる。


 その隣には遊びに来たとは思えない程の荷物があって、家に帰って来たタイミングでいくつかの荷物が届いた。


 小ぶりな段ボールが三つ程だったので、何かと思ったらそういう事だったのか。


 というか、いつの間にうちで暮らす話になったのだろうか……。


「ちゃんと生活費は多めに支払うからね!」


「ま、まぁそれはいいが、天王寺さんはそれでいいのか?」


「それでいいのかと言うと?」


「いや、同じ屋根の下で男と一緒に過ごす事になるのだけど」


「それが嫌なら来ないでしょう?」


「それもそうか。もし不満とかあったら遠慮なく言ってくれ」


「こちらこそよろしくお願いします」


 礼儀正しいというか、深々と頭を下げる天王寺さんを見て、隣の妹がドヤ顔をしている。


「蒼空くん。一つお願いがあるんだけどいいかな?」


 早速何かを思い出したかのような表情でこちらを見つめた。


「ああ。何でも言ってくれ」


「――――――凪咲。凪咲と呼んで欲しい。できればこのまま呼び捨てでいいからね?」


「!?」


「同じ家に住んでいるのに、距離感を感じるから。ね?」


 妹と同じタイミングで首を少し傾ける仕草がまた可愛らしい。


「わ、分かった」


 思っていたよりもぐっと距離が近づいてきた彼女に驚きながら、妹とも仲良くなっている事に驚く。


「じゃあ、早速料理するから、待っててね~!」


「手伝うよ~」


「ダメっ、ナギ姉は荷物の整理からね! にぃ! 私の部屋に案内してあげて!」


「ん? 七海の部屋で一緒に暮らすのか?」


「うん!」


 妹に言われた通り、凪咲の荷物を持ち、妹の部屋に運ぶ。


 後ろから彼女の小さな息遣いの音が聞こえてくる。


 今まで妹と暮らして来て、女性に興味を持った事はないが、これから同じ屋根の下で暮らすとなると少し緊張してしまう。


 妹の部屋に久しぶりに入ると、相変わらず可愛い人形が沢山並んでいて、綺麗に保たれた部屋に妹らしいなと思いながら、荷物を部屋の片隅に置いた。


「聞いてはいたけど、ベッドは大きいんだね~?」


 七海のベッドを見た凪咲が疑問を口にする。


「ああ。一緒に寝る時も多いから、七海の意向でベッドは大きなサイズを買っているんだよ」


 まだ両親が亡くなって間もない頃、一人で眠れない妹のためにずっと一緒に寝ていた。


 中学生になってベッドの買い替えをする時に、一緒に寝る時のことを想定して俺も妹のベッドも大きめなベッドにしている。


 そのおかげもあり、妹と凪咲が同じベッドで眠っても問題ないサイズになっている。


「それにしても、まさか凪咲が家に来るとは思いもしなかった」


「ふふっ。驚かせたくてね~七海ちゃんを説得するのは大変だったのよ?」


「だろうね。朝はあれだけ威嚇していたのにな」


「実技授業のおかげかな?」


「あの短い時間でよくそこまでできたな」


「こう見えても『守護者』の中ではエースですからね! それに私は七海ちゃんと戦いたい訳じゃないからね。お互いに目指す場所は同じなら、それは仲間だという事だから!」


 同じ場所を目指すなら仲間か…………。


 ふと、清野達の事を思い出した。


 今頃どうなっているのだろうか。


 木山先生の事だから大丈夫だとは思うが、清野達だって最強天能である事に変わりはないはずだ。


 しかも俺とは違い、攻撃的な天能を持つ彼らを上手くまとめられているのだろうか。


 そんな事を思いながら、リビングに向かうと、早速美味しそうな匂いが充満していた。


「俺は風呂掃除に行ってくるよ」


「私はテーブルを掃除しておくね~」


「ああ。頼んだ」


 いつもなら全部自分でするのだが、一人増える事で手分けするのが不思議な感覚に陥る。


 風呂掃除を終えると既に夕飯の事前準備が終わったテーブルと、妹の指示で色々忙しく動く凪咲を見て少し苦笑いがこぼれる。


 俺としてはお客様として接するべきかなと思ったけど、妹の遠慮のなさに、寧ろ清々しさすら感じる。


 当の本人もそういう待遇を楽しんでいるかのように、自然に笑みを浮かべたまま、妹の指示に従って動いていた。


 暫くして空腹をより感じさせてくれる美味しい匂いがする料理が終わったようで、運ぶのを手伝う。


 そしていつもなら妹と向き合うテーブルには、もう一人が増え、三人で同じタイミングで「いただきます」と手を合わせた。


 どの料理も美味しくて、ずっと栄養学を学んでいる妹だからこそ、バランスの良い食事に凪咲も思わず声を上げた。


 食事が終わり、俺が皿を洗って、隣にいる凪咲に渡すと水滴を拭く。


 分担作業のために妹はソファで休んでもらってるけど、どうしてか刺すような視線を感じるが仕方ないじゃないか。


 皿洗いも全部追いつけるわけにはいかないし、何となく共同作業になってしまった。


 それからはテレビを付けてたわいないことを話しあって、夜が深まりそれぞれ眠りについた。


 帰って来てずっと妹と一緒に寝ていたから、久しぶりの一人になった部屋で暗くなった天井を見つめる。


 試練ノ塔ではこういう日に戻れるとは正直思ってなかった。


 絶対に帰ってやるとは思ったけど、こうして帰ってきて妹に会えたのが奇跡にも思える。


 そんな幸せな日々をかみしめながら、眠りについた。

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