第23話 新しい先生?

 午前中の授業が終わると、食堂が少し騒がしい。


 食堂に入るや否や俺達の前に現れたのは、やはり天王寺さんだった。


「七海ちゃん。私も一緒に食べていいかな?」


 ただし、真っ先に妹と目線を合わせてそう話した。


 妹より身長が高い天王寺さんは少し足を曲げて、妹と同じ目線の高さに合わせるのは、それだけ妹に寄り添った行動に見える。


 意外な事に、妹は文句一つ言わずに快く承諾した。


 てっきり嫌がるとばかり思ったのだがな。


 相変わらず俺の食べる分は全て妹が用意してトレーを渡される。


 その姿を見て、小さく笑った天王寺さんは、妹に自分の分もお願いすると、渋々天王寺さんの分も妹が選んであげた。


「七海ちゃんって凄いね。もしかして栄養学を学んだの?」


「うん! にぃの食事は私が守るからね~」


「そっか! 七海ちゃんって偉いわね~」


「えへへ~」


 妹の向かいに座った天王寺さんが妹を褒めちぎる。


 彼女が話した通り、妹はずっと前からうちの食事を全てこなしていて、幼い頃から食事のバランスをずっと研究していた。


 両親の件で生活費は潤沢にあったため、妹は色んな食事を作り試せていたから、そこに面白さを見出して生き甲斐にしているとばかり思っていたけど、数年前ふとした時に「七海。料理って好きだよね」と話すと「そうでもないよ?」と返され、あまりにも意外な返事に驚いていると「にぃの健康のためだけに頑張ってるからね。料理しなくてもいいならしないよ~」と言われた。


 少し複雑な思いではあったけど、妹の優しさに少し泣きそうになったのを覚えている。


「それで、先輩ってずっとこんなに見られるんですか?」


「ええ。なんなら外を見ると分かると思うけど…………一般生徒からも一目見ようと集まるかな」


「あ~あの騒ぎってそういう事なんですね。学園に入るまでも先輩は有名でしたからね」


「そうなのか?」


 ふと気になって聞いてみる。


「うん。にぃが試練ノ塔に入ってから、その代のSランク天能持ちは微妙と言われてたけど、それを全て跳ねのけたのが凪咲先輩なんだよ。テレビでも凄く放送されてた」


「あはは、あれは私のビジュアルばかり取り上げていたけどね」


「うんうん。超美人最強高校生とか言われてた」


 そう言われるのも納得いくというか、天王寺さんは一目見ただけで忘れられないくらい美人だ。


 天能発現後は髪が燃えるような真っ赤な色になり、存在感はますます増えたのだろうな。


「七海ちゃんって今はなんの武器も使ってないんだよね?」


「そうだよ~」


「じゃあ、私からプレゼントしてもいい?」


「え~! いいの?」


「うん! 任せておいて! 七海ちゃんの天能にピッタリな武器があるから。というのも使い古したモノではあるんだけど」


「新品より中古の方が好き~」


「じゃあ、明日にでも持ってくるね」


「わい~! ありがとう!」


 すっかり仲良くなった二人が微笑ましい。


「それにしてもやっぱり七海が一番可愛いな~――――――でしょう?」


「へ?」


「蒼空くんの心を読んだの」


「うぐっ……否定できないな」


「ぷふっ。でも七海ちゃんは可愛いから仕方ないわね」


 少し顔を赤らめた妹がさらに可愛かった。




 午後の授業が始まり、短い座学の後、実技授業の時間となった。


「おお~! 天王寺先輩だ!」


「みんな静かに! 今日から・・天王寺先輩が色々手伝ってくれる事になったわ。困った事があれば、何でも聞いていいからね」


「「「はーい!」」」


 妙にやる気を出したクラスメイト達に、結城先生が小さく溜息を吐く。


 授業が始まって早々、クラスメイト達が天王寺さんを囲んで色々質問攻めをする。


「先生。対人魔法の練習をしたいんですけど、いいですか?」


「あら、珍しいわね。対人なんだ?」


「あまりないと思いますけど、人型魔物もいるかも知れませんから」


「色んな事態に対処するのは良い事だわ。行きましょう」


 普段なら独り占めにできないので、天王寺さんには感謝するばかりだ。


 個室で暫く結城先生が放つ無数の魔法を避けたり防いだりしたけど、結城先生の卓越した使い方に何度か当たった。


 試練ノ塔の魔物から受けた激痛とは同じ痛みに、久しぶりに心に火が付く。


 暫く訓練を終えると、なにやら集団練習が始まっていた。


 5人ずつ分かれて対戦をしている。


 結城先生と共に、彼らの対戦を眺める。


 天王寺さんから両方に色々アドバイスを送っていて、見ているだけでみるみる動きが良くなっていく。


「さすがね。私は個人行動が多いから、チームでも行動が多い凪咲ちゃんならではの授業だね。これはとても助かるわ」


「結城先生もこういう授業に振り替えようとしたのでは?」


「ふふっ。そうね。でも私はまだ早いと判断していたけれど、そうでもなかったのだから、凪咲ちゃんには感謝というべきかしら」


「なるほど……人に何かを教えるって難しそうですね」


「まぁ、請け負った以上、そこはしっかりしないとね。そういう意味では凪咲ちゃんは指導員に向いているだろうけど、あの実力はもったいないわよね」


「それを言えば、結城先生と木山先生もじゃ?」


「あら、今日は珍しく私をおだてるわね?」


「俺は元々お二人のこと尊敬してますよ?」


「真顔でそんな嬉しいこと言ってくれちゃって………………まぁ、元々貴方達――――最強天能のためにとある家から頼まれたからね。3年契約でね。おかげで4年に伸びたけど」


「とある家?」


「知らない方がいいわ。まぁ蒼空くんならいずれ知るだろうけどね」


 ものすごく気にはなるが、いずれ知るのならその時で良いだろうと、それ以上は聞かない事にした。


 みんなの訓練も終わったようで、妹がやってきて楽しかったと嬉しそうに色々話してくれた。

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