第21話 両親の旧友

 俺と天王寺さん達はその足で軍の基地に向かった。


 普段から入る事のできない場所だが、目の前を歩く天王寺さんと藤原くんの顔パスだけで中にすんなり入れてくれた。


 その中でもひと際大きな建物の中に入った。


「隊長~ただいま~!」


 広い建物の中に藤原くんの声が響いていく。


 少しして奥からいかつい顔の巨体男が現れた。


「今日は早かったな? ん? そちらは?」


「やっと見つけられた! こちらが例の少年の蒼空くんだよ~」


「おお! 君があの時、凪咲くんを助けてくれた少年だな!?」


 しょ、少年!?


 一瞬で間合いを詰めて来た男から握手を求められて握り返す。


 ごつい手は分厚い肌を感じさせてくれた。


 それだけ彼が普段から武器を握っているのが分かる。


「初めまして。水落蒼空です」


「水落!?」


「えっと?」


「す、すまん。俺は『守護者』の隊長をやっている月城つきしろがいという。知り合いに水落という者がいてな……その息子の名前もソラと言っていた気がしてな」


「もしかして、うちの両親と知り合いだった・・・んですか? 父が優斗ゆうと、母が一花いちかと言います」


「っ!? 本当に水落夫妻の倅なのか!」


 月城さんの両目には大きな涙が浮かび――――そのまま俺を抱きしめた。


 一瞬の出来事に戸惑ってしまったが、どうやら両親の知り合いのようで、暖かい気持ちが伝わってくる。


 両親はここで多くの知り合いと繋がっていたのだな。




 我に返った月城さんが俺を離してくれる。


「取り乱してすまなかったな。水落夫妻とは仲間だったものでな。そうか……あの時の子供達が、もうこんなに大きくなったんだな。気づかないモノだな」


 恐らく両親の葬式に来てくれたのだろう。


 俺も妹もまだ幼かったから誰一人覚えていないけど、両親の葬式には多くの人が参列してくれた。


「もう十年以上経ってますからね」


「そうか……もうそんなになるか…………歳は取りたくないものだな。それにしても、まさかあの夫妻の倅が、英雄となるとはな」


「英雄……ですか?」


「なんだ。凪咲くん達から聞いていないのか?」


 後ろから藤原くんはいたずらっぽく「まだだよ~」と話す。


 月城さんに連れられ、広い倉庫のような場所を歩き進め、とある場所にやってきた。


 暗くて中が見えないスペースの前でボタンを押すと、眩しい光が点灯して中身を映し出す。


 そこには何かしらの大きな素材が綺麗に並んでいた。


「こちらは蒼空くんが倒したエンペラーフロッグの素材だ。こんなに綺麗に素材が取れるのは珍しい程だ。それもたった一撃で倒したからこそだろう」


「普段は難しいんですか?」


「当然だ。Aランク魔物は魔王とまでは行かないが、言い方を変えれば魔王を除けば最強種だ。それをそう簡単には倒せないだろう。まさかAランク魔物が出るとは思わず、あの時の『守護者』を必要最小限に送っていたからな。本来なら――――全滅していてもおかしくなかった」


 月城さんの言葉が重くのしかかる。


 全滅という言葉。


 両親の葬式が一瞬思い浮かんだ。


 あの時、もし俺が通りかからなかったら、天王寺さんも藤原くんもこうして会えていなかったのかと思うと、安堵感と共に、悔しさも感じた。


 どうして人は魔物に勝てないのだろうかと、どうすれば魔物の脅威から自分達を守れるのだろうかと。


 その時、俺の顔を覗く天王寺さんの笑顔があった。


「だからね? 私達を救ってくれて本当にありがとう。蒼空くんが現れてくれたおかげで私達は誰一人欠ける事なく帰還できたんだ」


「あの時は本当にたまたま…………」


「そういや、どうしてあんな場所にたまたまいたのか聞いていなかったけど、聞いてもいい?」


「…………最強天能を知っているか?」


「あ~恵比寿学園のでしょう?」


「ああ。俺はその一人なんだ」


「そうなの!?」


 声には出してないけど、藤原くんも月城さんも目が大きく開く。


「知っていると思うけど、あの日は俺が帰還した日なんだ。たまたま帰り道に天王寺さんと出会って、あんな風になってだけだよ」


「そっか…………蒼空くんが強い理由は分かった。そっか……最強天能だったんだ…………妹さんもとても強い天能を持っているみたいね?」


 ちらっと後ろにいる妹を覗く。


「えっへん! 私も強いよ~?」


「まだ開発途中な」


 優しく妹の頭を突く。


「むぅ! すぐに強くなるんだから! にぃは私が守るから、天王寺さんはもう関わらなくていいよ!」


 相変わらず敵意むき出しだな。


「そうね。私なんかいなくても蒼空くんは一人でこんな凄い魔物も倒せるからね~」


 と少し寂しい表情を浮かべる。


 ただ、一つ誤解がある。


「残念ながら、俺が倒せるのは――――、一体までなんだ」


「えっ? 一体まで?」


「ああ。あの・・力には制限がある。使えるのは一日一回が限度だ」


 あの時、巨大蛙を仕留めたスキル。絆スキルの『デッドリーバレット』には秘密がある。


 火力は恐らく申し分ないというより、かなり高い部類だろう。なにせ巨大蛙を一撃で倒せたんだから。


 だがこれ程の力、そう何発も打てるモノではない。


 あの力は――――本来俺が受けるはずのない体力を減らす。つまり、自分がダメージを受ける代わりに攻撃を行えるのだ。


 一度使っても天能のおかげでダメージを受ける事はないので心配ないだろう。


 でも二度目を使うと、俺は死んでしまう。


 だから体力を回復するまで再度使う事はできず、制限付きの攻撃になるのだ。


「だから、七海には期待しているんだよ? 俺が守るから――――――最強の剣となって欲しいんだ」


 妹が満面の笑顔を浮かべて「うん!」と元気よく答えてくれた。




 その時、俺の後ろで俺を見つめる天王寺さんの表情が大きく変化した事に、俺が気づくことはなかった。

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