第20話 繋がる絆
「ありがとう」
妹が淹れてくれた紅茶を差し出すと、満面の笑顔でしっかり妹を見つめて挨拶する美少女。
その隣の美少女もまた同じ事を繰り返す。
俺と自分の分も用意した妹が勢いよく流れるように俺の隣にくっついてきた。
こうも敵意をむき出しにする妹は初めてみる。
「自己紹介がまだだってね。僕は――――
活発な方の美少女が藤原さんで、赤い髪の美少女が天王寺さんだ。
しかし、妹が不思議そうな表情で藤原さんを見つめる。
「えっと、一つ聞きたいんだけど、二人とも僕の事、女子だと思ってる?」
「えっ!?」「へ!?」
「はぁ…………」
わざとらしく溜息を付いた藤原さんが続ける。
「僕は――――――男子だよ。女子じゃないからね!?」
「「ええええ!?」」
今世紀一番の驚きだったかも知れない。
こんな美少女――――いや、美男子(?)を見るのは初めてだ。
てっきり、ボーイッシュな女子だと思っていたのに、まさか男だとは…………。
「それって事は……もしかしてお二人ってカップルですか!?」
「ぷふっ」
隣の天王寺さんが吹き出すくらいクスクスと笑い始めて、藤原くんはますます困った表情を浮かべた。
「違う違う。僕にこんな美少女で最強剣は身が重いし、凪咲ちゃんもあまり男性に興味がないからね」
「私は興味がないんじゃなくて、私より強い人にしか興味がないよ?」
「いや、それが興味がないって事でしょう」
「う~ん。そんなことはないと思うんだけどな……」
色々ツッコミたいことはあるけど、非常に興味深いのは、最強剣という言葉だ。
最強という言葉は、文字通り、最強でないと基本付ける事はない。
例えるなら、清野や俺が持つ最強天能。
自然系天能が最強と言われる中、俺達六人の天能こそが最強だと政府は言っていた。
それに俺が知る範囲で、俺達が持つ天能は間違いなく最強である理由がある。
彼女の最強剣という文言から、彼女が高い戦闘向き天能なのは想像ができる。
たしか初めて出会った時に、自分の背よりも長い刀身を持つ刀を持っていたのを覚えている。
「じゃ、じゃあ! 今日はどうしてここに来たんですか!? にぃは渡しませんからね!?」
「ありゃ……お兄ちゃんが大好きな妹さんだったのか」
「はい! 藤原さんは男なんでいいとして、天王寺さんはどうしてここに来たんですか! にぃは渡しませんからね!?」
今までこういう姿を見せていなかった妹が、一年見ない間にこうなってしまったのは、きっと俺のせいだ。
だから、今は妹が落ち着くまで従おうと決めてはいるものの、お客様相手に威嚇するのはどうかと思ってしまう。
紅茶を優雅に飲む姿でさえ美しい絵になる程の彼女が、紅茶カップを置いて真っすぐ俺を見つめた。
「私は君のお兄さんに助けられたの。あと一瞬遅かったら私の命はもうないだろうね…………だから、君のお兄さんに感謝を伝えに来たんだ」
「な、なるほど。にぃ? 私、聞いてないんだけど?」
「え? いや、話したでしょう。帰ってくるまで大きな蛙から人を助けて来たって」
「あ~あれか!」
「ごほん。その大きな蛙の事もこれから話したい内容ではあるんだ。それより、悪いけど二人の名前を聞いてもいいかい? 水落さんなのは表札で見たけど……」
「そういえばすっかり名乗るタイミングを見失いました。俺は蒼空。妹の七海です」
「二人とも高校生だよね?」
「俺は二年生で妹は一年生なんだけど、色々あって、俺は留年することになって、今は同じクラスなんです」
「なるほど~! という事は、蒼空くんは僕と凪咲ちゃんと同じ歳だね~」
「えっ!? 同級生?」
てっきり、二人とも成人しているとばかり思っていた。
妹もそう思ってたみたいで驚いた表情を浮かべている。
「そうだよ。ちなみに言っておくけど、僕達も――――――恵比寿学園だったりするよ」
「「ええええ!?」」
「二年生になると、課外実習に自由に参加できるんだけど、僕と凪咲ちゃんは学園で色々あったから、毎日課外実習で『守護者』として活動しているんだ」
天王寺さんも頷いて肯定する。
「それで、Aランク魔物のエンペラーフロッグに殺されそうになった僕達とエリアAも甚大な被害が出そうだった所を、颯爽と現れた蒼空くんが助けてくれたのさ。それで大きな問題が二つあって、素材は全て蒼空くんのモノなのに、肝心な貰い手がどこにいるか分からなかった事。もう一つはAランク魔物討伐貢献者の報酬も渡さないといけないし、実際助けて貰った僕達も感謝を伝えきれないまま帰ってしまったからね」
「あはは……そんな事になっているとは…………」
二人が顔を合わせると、その場に立ち上がる。
そして、
「「助けていただき、ありがとうございました!」」
深々と頭を下げた。
たまたま通りかかっただけで、助けに向かったのとは少し違うが、帰って来て初めて出会った人を助けられて良かったと思っている。
それがこうして会いに来てくれて、感謝まで伝えてくれて、試練ノ塔での出来事など、ちっぽけなモノだったんだなと思えるくらいに、幸せな気分になった。
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