第19話 これまでとこれからと再会

「水落くん。すまなかったね」


 職員室に入るや否や木山先生が謝ってくる。


「いえいえ。木山先生が出てくると色々大変だったので、むしろ我慢してくださってありがとうございます」


 二階にある職員室は窓から外が眺められる。


 玄関口のいざこざが聞こえないはずもなく、窓からこちらを見つめている木山先生を確認している。


 真っ先に木山先生に来ないで欲しいと合図を送っていなければ、仲裁したのは間違いなく木山先生だろう。


「中での事は今日の事で大体察しが付いた」


「先生。それはもういいんです」


「水落くん!」


「あの場所は…………正直地獄でした。帰る事もできず、すぐ隣には死があります。俺は痛みこそあれど、死ぬという恐怖はなかった。でも彼らはその恐怖の中、数か月も過ごしたんです。清野くんや他が変わったとしても仕方ないモノだと思います」


「…………」


「ですから彼らを責めないでください。代わりに、失った理性をもう一度取り戻して、これからは人の役に立つように指導して欲しいと願っています」


「…………分かった。俺が責任を持って、水落くんの気持ちを彼らに伝えていこう」


「よろしくお願いします」


 気絶した清野くんは木山先生に渡して職員室を後にする。


 扉を開けるとクラスメイト達が雪崩れてきた。


「みんなして何してるんだ?」


「あはは……お兄様。気にしないでください」


「そうか? まぁ、俺の心配をしてくれてたんならありがとうな」


 顔色が変わるくらい怒っている妹の頭に優しく手を挙げる。


「もう過ぎた事だ。こうして無事に帰ってきたし、七海が怒ってくれただけで十分だから、もう怒るなよ?」


「でもっ!」


「それよりもそろそろ行かないと、ほら」


 職員室の扉を占拠している俺達を見下ろすかのように睨んでいる結城先生を指差す。


「早くしないと結城先生にボコボコにされちゃうぞ~」


「それは怖い! 急いで戻ろう!」


 すると奥から「なんですって!?」って結城先生の声が聞こえたので、俺達は急いで教室に戻って行った。




 ホームルームが始まって、今日から清野達も復学する事を教えられた。


 ただし、クラスは別になって、彼ら五人は木山先生がそのまま担当するという事で、これから実技授業には顔を出せないと聞かされると、みんなからはブーイングが飛び交った。


 結城先生は「私に文句言わないでよ! 私では不満なの!?」って怒っていたけど、結城先生が嫌というより木山先生が出来過ぎな気がする。


 それと、どうやらあの5人は校舎まで変わるらしく、学園の敷地外に出されるそうだ。


 そりゃ……人に平気で魔法を放つ清野なのだから、あのまま学園内に置くのはデメリットでしかないよな。


 それから授業が始まり、午前中は筆記授業が続いて、昼食を取った後の午後からは実技授業の日々が繰り返された。




 ◆




 学園での生活も二週間が経過した。


 楽しい日々が続いていて、クラスメイト達もどんどん強くなるのを感じながら、自分のスキルの使い方もどんどん上達させていく。


 一人で悩むより、誰かと一緒に悩む事がこんなにも素晴らしい事だとは思わなかった。


 今日も授業が終わり、妹と共にエリアDに帰って来た。


 いつもの道を歩いていると、前方からこちらに向かって勢いよく走ってくる土煙が見える。


「にぃ? 何か来るよ?」


「敵意はなさそうだけど、一応身構えておこう」


「わかった」


 こちらに走ってくるのは、黒と白がベースとなった軍服のような衣装を着た人だった。


 その衣装にはとても見覚えがある。


 エリアに住んでいる以上、彼らを見かける事はとても多い。


 彼らは――――戦闘向き天能を持つ『守護者』達である。


 いや、『挑戦者』という線もあるが、どのみち、どちらかに所属している人達の制服なのだ。


 俺達の両親も昔はあの制服に袖を通していた。


 段々近づいて来た彼らは間違いなく俺達を目掛けて走ってきた。


「ねえ、君!」


 爆速で走ってきた彼女は、ビタッとその場に止まった。


 土もないのに土煙が上がる程の勢いで走ってきたのに、まさか一瞬で止まれるとは。


「俺達に何か用ですか?」


「大あり! 僕の事、覚えてない?」


「?」


 誰だったかな……?


 その時、彼女の後ろからもう一人の女性が現れた。


 真っ赤に燃えそうな美しく伸びている長髪は一度見た者は、忘れる事ができないだろう。


 ルビーよりも突き通った赤い瞳が俺を見つめた。


「久しぶり。私の事、覚えていないかな?」


「えっと…………天王寺さんでしたよね?」


 試練ノ塔から帰って来て、一番最初に出会えたのが彼女だ。


 それに彼女の姿はインパクトが強く、一度見れば忘れる事はないだろう。


「凄く探したんだよ?」


「そ、そうなんですか?」


「ふふっ。やっと――――――」


 眩しい満面の笑顔を浮かべる彼女の前に黒い影が一人割り込む。


「ちょっと!」


 何故か怒っている妹が間に割り込んだ。




――――【後書き】――――


 本日を持ちまして一日二話更新は終わります。

 明日から毎日7:07に投稿されますので、楽しんで頂ければ嬉しいです!

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