第18話 久しぶりの“元”絶望
初日はクラスメイト達から誘われて、ライくんの奢りで歓迎会となった。
最初は敵意むき出しだったけど、一年早かったら彼らが最強天能になったはずだから、そう思われても仕方ないがない。
それでも木山先生との模擬戦を見て、みんなも天能の差ではなく、天能を操る人の差だと納得してくれて、クラスのまとまりは非常に良いモノになった。
ライくんは大手企業の三男らしく、こういう宴会は任せてくれと話していた。
俺の隣に座って抱き着いていたさくらちゃんを見て、悔しそうに俺を睨んでたりしていたけど、まさか…………。
楽しい時間を過ごして妹と一緒に帰宅した。
今日もまた同じ部屋で寝ると言い出して、そこは妹の機嫌が戻るまで素直に従う事にした。
次の日。
今日も登校してクラスに向かう。
しかし、校舎の前でクラスメイト達がなにやら揉めていた。
「ん? 何かあったのか?」
集団の一番後方にいたクラスメイトの
「あ、おはようございます。お兄様。偉そうな
最強という言葉に、思わず思い浮かぶのは5人の顔。
みんなの間を割り込んで前に出る。
ライくんの怒っている声が聞こえて、それと一緒に長い間俺を怒鳴っていた声が聞こえてきた。
「お前みたいな雑魚が俺様の前に立つんじゃねぇ!」
「ふざけるな! ここは俺達の校舎だ! てめぇ誰だよ!」
「ふん。雑魚如き、俺様を知らないのも仕方ないだろうな」
今にも殴り掛かりそうな勢いを見てられなくて、彼らの前に歩き出した。
「ライくん。そこまでにしておけ」
「お兄様!?」
「ん? お、お前は!?」
「久しいな――――――清野」
久しぶりに見る
とりわけ清野に限っても、今にも吐きそうな表情をしている。
「清野。
「っ!? ――――――ふ、ふ、ふざけんなあああああ!」
そう叫んだ彼の顔色が、俺が知っている顔色に変わっていく。
頭に血が上って、目が少し充血して赤く染まった。
「てめぇみたいな雑魚が俺様に指図くるんじゃねえええええ!」
「……俺にとっては何もかも懐かしいと感じてしまうな」
想いのほか――――彼の威圧が怖くない。
むしろ、可愛いとさえ思えた。
俺がずっと相手していた魔物達は、吠えるより先に俺を殺そうと走って来ていた。
敵意むき出しで、目の前からやってくる死に何度も直面していて、傷は付かないにしろ、激痛に耐えながら日々を頑張った。だからこそ、彼の威圧はあまりにも弱いモノだと思う。
余程頭に来たのか右手に魔法陣が浮かびあがる。
「ライくん。こちらに」
急いでライくんをこちらに連れ戻して、直後に飛んできた魔法を大盾で防いだ。
「なっ!?」
間抜けた声を発する所も、何もかも子供の駄々こねにしか見えない。
「平気で人に魔法を撃つなと学校で学んだだろう? もう忘れたのか?」
「だ、黙れ!」
「悪いが天能を理由もなく人に向けるやつをほったらかしにはできない。制圧させてもらう」
「!?」
次の魔法陣が現れるが、魔法が放たれるようにも俺の動きの方が速かった。
一瞬で間合いを詰めた彼をシールドバッシュの横なぎで吹き飛ばす。
清野の身体は投げたボールのように地面に叩きつけながら何度かバウンドして遠くに飛んだ。
「…………お前達もやるのか?」
「!? ま、待ってくれ! 俺達は何も戦いたい訳ではない!」
「なら良かった。すまないが今すぐ職員室の木山先生に向かってもらえるか?」
「わ、分かった!」
「ありがとう。お前達とは争いたくはなかったから。俺はこれから清野を制圧して連れていくよ」
五人は逃げるかのように中に急いで入っていった。
俺はそのまま大きく吹き飛んで気を失っている清野に近づいた。
いくら試練ノ塔ではああいう目にあったとはいえ、天能で人を傷つけたくはない。
だが、戦闘向きの天能持ちには『天能を無暗に人間に向けてはならない』という法律が存在する。
俺達は15歳になった時、誰しもがその法律を厳しく聞かされ守る事を強要される。
もしこの法がなければ、今頃力がある者が人を見下したりするはずだ。
現に試練ノ塔の中ではそういう現実があったから、その法律を作った人の先見の目は凄いモノだと思う。
地面に伸びている清野を持ち上げて肩にかけて校舎を目指すと、ライくんが目をキラキラと光らせて隣にやってきた。
「お兄様! 凄かったっす!」
「あはは……ありがとう。ライくんはどこかケガしてないかい?」
「全くです! あの魔法を防いだのは、お兄様の力ですよね? 盾みたいなやつ!」
「ああ。俺のスキルなんだ。というより、あれが俺の力の本懐というべきかな」
「かっこいいです!」
「ライくんの天能もこれから伸びると誰も勝てない強い天能だと思うから、お互いに頑張っていこう」
「はいっ! 一生お兄様について行きます!」
ライくんの大袈裟な言葉に苦笑いがこぼれると、後ろからもクラスメイト達から「私達もお兄様について行きます!」と声が聞こえてきた。
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