第17話 先生との模擬戦
「水落くん。用意はいいかね?」
「はい。いつでもどうぞ!」
木山先生は普段から優しい笑みを浮かべている先生だ。
でもその
先生はさくらちゃんと同じポーズで足を踏み込んで、一気に間合いを詰めて来た。
さくらちゃんと同じく左足で蹴りかかってくる。
右手で防ごうとした瞬間の事、先生の右手が俺の右手を握り左足が蹴りではなくフェイントだと知る。
知った時には既に身体が反応しきれず、俺の身体をねじる形で視界が上下反転していく。
たった一瞬で自分の身体が一回転したのが分かった直後に、周囲に轟音が鳴り響く。
痛みは全くないが、先生の追撃だと思われ、周囲を確認したところ、先生のかかと落としが俺の脇の地面を叩きつけていた。
「水落くん、大丈夫かい?」
「はい。まさか本命だと思われた攻撃はフェイントだとは、驚きました」
「ふふっ。水落くんは今まで魔物ばかり相手してきたようだね」
先生が手を伸ばしてくれて起き上がると、クラスメイト達は憧れの眼差しを向けていた。
「多くの魔物は愚直な動きが多い。だが人との戦いではそうはいかない場合が多く、知能が高い魔王クラスの魔物となると、魔物の力を持ちながらこういった手を使ってくる。一手二手先を読み、自分の力でどう騙すかを考える事で最強天能にも相対できるのさ」
大きな拍手があがり、やる気を出した全員が訓練場に散り、それぞれ模擬戦を始めた。
こうやってやる気を引き出す事こそが、木山先生が先生として素晴らしい人である事の一つだ。
実力だけが最高峰ではないのが憧憬の念を抱くには十分だ。
「水落くん。君からみて、このクラスはどうだい?」
「荒れているかと思いきや、みんな互いを認めていて、良いクラスですね」
「ふふっ。初日は酷いモノだったぞ~」
「もしかして全員ボコボコにしたんですか?」
先生……その笑顔で親指を立てないでくださいよ……。
「試練ノ塔は俺が思っていたよりもずっと大変だったようだね」
「ん? どうしてですか?」
「一年前と比べて、水落くんの強くなった度合いが想像をはるかに超えていたから」
「でも一瞬でやられてますよ?」
俺の頭に先生の左手が置かれる。
「本気を出したら俺でも勝てるかどうか。それくらい簡単な手合わせでも分かるのさ」
「…………最強天能は元々の力が最強だと思ってました。でもそれは俺の思い違いで、やはりレベルが上がっていく度に最強に近づいている気がします」
「うむ。学園では魔物を倒す訳ではないのでレベルを上げる訳ではない。でも力の使い方を学んでおくことでレベルが上昇しても使いこなせるようになるだろう。水落くんもこれから沢山学んでいってほしい」
「もちろんです。それに――――――妹が見る前でやられてばかりじゃ、兄として面目が立ちませんから」
「うむ。俺も全力でサポートしよう」
木山先生とまた一つ距離が縮んだ気がした。
「……………………」
後ろから視線を感じるが振り向いたら負ける気がする。
木山先生も同じ事を思っているようで、焦ったように苦笑いを浮かべている。
「先生。まず後ろを何とかしてくださいよ」
「いやいや、俺には難しいよ。ここは水落くんじゃないと難しいと思うのだが……」
「それこそ厳しいです。俺、今日初対面なんですよ?」
「大丈夫。水落くんはイケメンだから、彼女もきっと――――」
さ、殺気がどんどん大きくなっていく。
「ふ・た・り・と・も?」
「「ははっ!」」
急いで振り向いて、結城先生の前に正座する。
「はぁ……私だけ除け者にして話を進めないでくれますか!?」
「「は、はいっ!」」
「全く…………蒼空くんはこれから私も模擬戦ね」
「ひい!?」
「なによ。私では不満?」
「い、いいえ! 大変光栄でございます!」
俺達のやり取りを見てクラスメイト達から笑い声が上がる。
それから結城先生との模擬戦が始まった。
結城先生は特殊系天能の魔法使いタイプだった。
身体能力も高く、速度で追いつく事も難しく、放たれる魔法がどれも強力な魔法ばかりで、俺の天能がダメージを無効化できなかったら一瞬で灰になったかも知れない。
そもそも模擬戦なのに個室に入る時から不安だと思っていた。
色々鬱憤が溜まっていたのか、結城先生の魔法は容赦なく降り注いでいたから。
訓練が終わり、今日の授業が終わって帰る頃、クラスメイト達から再度挨拶を受ける。
初日に木山先生にボコボコにされて自分達の器の小ささを感じたらしく、強い天能だけで強くなったつもりにはならないとの事。
俺も自分の天能に慢心する事なく、これからも頑張っていこうと思う。
だが、そんな俺の決意とは裏腹に、再び絶望が俺に降りかかろうとしていた。
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