第16話 妹の実力
訓練場が笑い声に包まれる。
どうやら自然系天能を持つライくんだが、この中では最弱らしく、雷の電圧もチクりするくらいしか出せないそうだ。
一体あの自信はどこから来たのか……。
少なくとも現状で物理的に一番強いさくらちゃんがクラス内では一番強いらしい。
「さくら! にぃにくっつかないでよ!」
「え~いいじゃない。減るモノじゃないし~」
「んもぉ~」
俺の右腕に抱き着いている七海が不満を口にしながら、反対側の左腕に抱き着いているさくらんちゃんを睨む。
そもそも授業中だというのに、どうして二人ともこうもくっつくのか。
結城先生からも殺気めいた視線を送られるけど、こればかりは俺の力では引き離せられない。
俺の出番は終わりらしく、他のメンバーの模擬戦が始まった。
俺のためにわざわざ名前まで告げてくれて、覚えやすくて助かる。
元々10人いたところに俺が入っているので、11人となったが、俺とさくらちゃんとライくんの模擬戦が終わったので、丁度人数に合うようになった。
最後は青い髪の男子と七海の模擬戦が始まった。
「
「水落七海!」
静かに告げる彼とは対極に、妹は元気いっぱい手を挙げながら名前をあげた。
そもそも俺のために名乗ってくれているんだから、妹は名乗る必要はないと思うんだが、雰囲気というのがあるからかな。
「ななみん。顔は禁止だからな」
「は~い!」
結城先生に注意されて、二人の模擬戦が始まる。
真っ先に両手に少し黒みかかった水の弾丸を作り投げつける。
ライくん程ではないが、かなり早い速度で飛んでいく。
いつも笑顔が素敵な妹の表情が――――戦う戦士そのものになっている。
飛んできた弾丸を簡単そうに避ける。
と同時にポケットから小さなライターのようなモノを取り出して、水滴を一滴吐き出させた。
宙に飛んだ小さな水滴を右手の手のひらで――――叩きつける。
手のひらから一瞬で飛ばされた水滴が雨宮くんに向かってとんでもない速度ではじき出された。
狙いを知っていたかのように横に大きく飛んで避ける。
しかし、妹の連続射撃が続いて必死に避け続けるが最終的に身体に水滴が直撃した。
ただの水滴とは思えない程の音が響いて、雨宮くんの身体が後方に大きく吹き飛んだ。
「ななみんって可愛いのに、やることはえげつないわね~さっすがSランク~」
まさか妹がここまで強いとはな。
「さくらちゃんは七海に勝てるのか?」
「ん~距離次第ですね~遠すぎると絶対に勝てないです。あの水滴の弾丸ってものすごく痛いですからね」
「ああ。空気を割る音からして凄かったからな」
あんな小さな弾丸が空気を割って一瞬で飛んでいく様は、自分の天能がなければ恐怖でしかない。
それに水滴の質量は相当低いはずで、あれがもし鉄の弾や本物の銃の弾丸とかだととんでもない事になるはずだ。
勝って来た妹が頭を撫でて欲しいとねだってきたので、頭を撫でてあげる。と共に結城先生の刺すような視線が痛い。
「さて、みんなもこれで分かっただろう? 水落くんの実力の差をね」
「質問~! お兄様の天能ってどういう能力なんですか?」
みんなの視線が俺に集まる。
「私の一撃をいとも簡単に止めていたから、どういう力なのかな~って」
「そういうさくらちゃんはどういう天能なんだ?」
「私の天能は――――自身の体重を変化させる事なんです。飛ぶときは軽く、攻撃するときは重く。部分に体重を集める事もできますよ~」
なるほど。だから彼女の一撃からは、見た目以上の重みを感じたのか。
「俺の天能は『絶対防壁』。あらゆるダメージを無効化するんだ」
「何それ~! チートじゃないですか!」
「まぁ代わりに色々制限はあるが、最強天能の一つだからな。自分でもズルい力だとは思ってる」
「ほえ~でもその力をしっかり使いこなせるのはお兄様器量の高さなんですよね~」
使いこなせているのかは分からないが、皮肉にも試練ノ塔での経験は良い経験となっているのは確かだ。
それにスキルのおかげなのか、痛みもあまり感じなくなった。
彼女の重いキックを片手で止めても、痛みは大したモノではなかった。
「こほん。みんなが持つ才能は国内でも随一の才能なのは間違いないだろう。最強天能を持つ水落くんにも匹敵するのは間違いない」
「木山先生! お兄様の天能に勝てる気がしません!」
「ふむ。その差というのは、天能による差ではない。天能を使いこなしているかどうかだ。さくらさんにも天能を上手く使えば、水落くんに勝てる方法もある」
「本当ですか!?」
「例えば、水落くんの天能は一見最強に思える。事実、ダメージを貰わないのは確かな強みだ。しかし、それだけで勝てるとは限らない。これからそれを証明しよう。さくらさんのやり方でね」
木山先生が立ち上がり、俺に前に出るように合図を送ってくる。
俺としても木山先生と――――学園最強と手合わせできるのはありがたい。
その実力差を体験したいと思っていたから。
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