第14話 訓練①
簡潔に自己紹介をして授業に入る。
昼食後という事もあって、軽めの歴史の授業だった。
まだ新学期が始まったばかりで、中学でのおさらいのような内容で、一週間くらいはこういう感じで進むと言っていた。
数十分の授業の後、短めの休憩を取り、このクラスの一番の授業である訓練の時間となった。
特別クラスは高い戦闘向き天能を持つ者達のクラスでもあるので、訓練に割く時間の方が多い。
更衣室で訓練用戦闘服に着替える。
こちらは魔物の素材と特殊な天能を持つ職人が作り上げた戦闘服で、見た目以上にずっと丈夫で着心地もよく柔らかいのに外的衝撃は金属以上に防ぐ優れものだったりする。
しかも色まで指定できて、俺は布地を青色で申し込んでいるので、青色が目立ち、そこに赤色や黒色の線や装飾部分でどこか映画に出て来るような不思議な衣装となっている。
都内に住んでいればこういう戦闘服とは縁が遠いから、学園や軍隊、挑戦者、守護者くらいしか目にする機会はないかな。
一つだけ気になるというなら、裸のまま装着する感じで着るので、少しだけ恥ずかしさを感じたりする。
男子用も女子用も色々補完されていて、何かとは言わないが、もしもの時でも問題ない作りになっている。なった事はないけど。
着替え室を後にすると、一緒に向かうクラスメイトの一人から敵意むき出しの視線で見つめられるのが後方から感じられる。
廊下を歩き進み、訓練場に入ると、意外にも女子組の方が先に着替えを終えて集まっていた。
「にぃ似合う~!」
すぐに飛んできた妹は、生地は明るい赤色をベースにしていて、妹の黒い髪色に相まって目が離せられないくらい可愛らしい。
自分の妹ながら、世界で一番可愛いと思う。
そういえば、妹の赤色の戦闘服で以前出会った赤髪の女の子を思い出す。
確か名前を天王寺さんと言っていたっけ。
急いでいたけど、彼女もまた妹に負けず劣らず綺麗な人だった。けど、妹の方が可愛い。
全員が集まったタイミングで、結城先生と共に木山先生もやってきた。
すぐにクラスメイト達に囲まれる木山先生を見て、少し驚いていると近づいて来た結城先生から「彼は学園内でもトップクラスの実力を持っているからね。彼らにとっては目標の一人だから」と教えてくれた。
去年、俺達のクラスとなったのも、学園内で最も実力がある先生として担任となったのだ。天能持ちに興味がある人なら先生の名前くらい聞いた事がない人はいないと思う。
「さて、今日は久々に水落くんが帰って来てくれたので、ここは一つ、実力を見ておこうか」
結城先生もそうだけど、木山先生も煽るようにクラスメイト達を奮い立たせる。
一つ疑問に思うのは、二人ともどうしてわざわざ煽るのかという事だ。
クラスメイトと仲良くと言いながらも煽ることで、俺に何かを期待している節もある。
「先生! 最初の相手は私がしてもいいですか~?」
真っ先に手を挙げたのは、妹の友人でもあるさくらさんだ。
「さくらくん。彼は強いぞ?」
「それを試したいんですよ」
俺を見つめる目が本気である事は、視線だけでも分かる。
ほどほどに手合わせという訳にはいかなさそうだな。
「では最初の模擬戦は水落くんとさくらさんで行うけど、他の人は問題ないわね~?」
黄色髪の男子だけは凄まじい形相で睨んでいるけど、不満はでず、模擬戦は予想通り俺が一番最初となった。
「お兄様~手加減なんてしませんから、怪我してもななみんを説得してくださいよ~?」
なるほど。彼女も随分と自信に満ちているようだな。
他のクラスメイト達の視線もそれが当然のように見ているから、彼女の実力が相当高い事を示している。
そもそもここに集まっているクラスメイト達は、天能を開花させてそう経っていないはずだ。
一年分の経験がある分、俺の方が有利だと思うのだが、それでも自信があるという事は、ここに来るまでの間もそれだけ努力を積み重ねて来た証拠だろう。
「構わない。全力で向かってくれ」
「へへっ…………私、手加減はとても苦手なのでねっ!」
言葉が終わると共に右足で地面を蹴る。
たった一瞬。
圧倒的なスピードで正面から蹴りが飛んできた。
残像すら見てないくらいの速さに一瞬驚いてしまったが――――試練ノ塔での魔物達より速いかというと、そうでもない。
熊魔物とかなら分かるけど、虎や狐の魔物は彼女よりも遥かに速かった。
横から飛んできた左脚を右手で止めてみる。
右手にぶつかった瞬間に空気が吐き出されて、轟音が響く。
それだけ彼女の攻撃が強いのが分かる。
しかし、正直ここまで――――痛くないとは思わなかった。
左脚をそのまま握り返す。
「えっ!? きゃあああああ」
そのままぐるぐるっと回して右側に放り投げてみた。
そのまま地面に叩きつけられるかと思うと、空中でうまく体勢を整えて悠々と着地した。
「へ、へぇ…………お兄様。凄いですね」
「そうでもないさ。俺よりも木山先生の方が遥かに――――」
彼女の隣に駆け寄る。
自分でも驚くくらい視界が一瞬で変わる速さ。
「強いからね。僕もまだまださ」
彼女が身体を動かす前に――――――頭に優しく右手を挙げた。
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