第11話 恵比寿学園
列車が中央駅に着いて、長い廊下を歩いて進む。
廊下を出ると広い敷地と巨大な建物が数棟も見え始める。
東京屈指の能力者養成学園である。
天能は人それぞれ違う能力が与えられるが、中でもこと戦闘に有効な天能が存在する。『鑑定』というのを行ってそれらをランク付けするのだ。
例えば、妹が持つ『加速』はSランクという。俺の場合は特殊なランクなので政府はXランクと表記していた。
恵比寿学園はSランクからCランクまでの判定までしか入学できない。
特に中からランクが上がっていく度に入学費用が軽減されたり、Sランクの生徒は奨学金という名目で支援金すらもらえる立場になれる。
そもそもSランクを開花する人はごく僅かで、それだけで将来が約束されているのだ。
民間の契約能力者となれば、収入は莫大なモノになるだろう。
国としても『挑戦者』や『守護者』のためにも、こういった人材を確保するのに血眼になっていたりする。
派手な校門を通り過ぎると校舎まで続いている道は綺麗に整えられていて、美しい花や木々が植えられている。
日本の伝統的な花である桜の花びらが空から舞い降りて、生徒達を歓迎するかのようだ。
美しいピンク色の道を大勢の生徒達が向かっている側ではなく、右手側に見える建物に向かう。
本校舎より一回り小さいが、Sランク、Aランクの天能を持つ生徒達を集めている校舎だ。
校舎に入ると、身体認証システムが発動して入館できるようになる。
入ってすぐに職員室に向かうと、慌ただしい音を鳴らしてやってきたのは――――俺達の担任である
「水落くん!?」
「お久しぶりです。木山先生」
「ぶ、無事だったんだね!? 他のみんなも昨日帰って来たと連絡があった! 水落くんも無事で本当によかった……」
「…………」
木山先生に当たっても仕方ないのは知っている。
でも試練ノ塔に
その時、隣にいた妹が一歩前に出る。
「先生! にぃはあの塔から一年も閉じ込められたんです! その責任は取って貰えますよね?」
「っ!? あ、ああ。もちろんだ。――――――信じて貰えるかは分からないが、あの塔がまさか入ったら出られない塔だとは知らされていなかった。だからこそ、我々も君達が塔に入ってから政府に嘆願していた。ただ、いくら私達が声を大きくしても君達が帰って来れないのは事実だったからな。もし帰って来れた時の事は政府と話し合っているよ。さあ、これからその件を話させてくれ」
何となく木山先生からも誠心誠意が伝わってくる。
俺達が入学した時は、最強天能という事もあり、情熱を感じられていたのだが、今日の先生は俺が知っている姿ではない。
少しやせ細っていて、目元にくまができている。
隣で代わりに怒ってくれる妹と共に、木山先生に連れられ職員室に向かった。
職員室では俺の姿を見た多くの先生が驚いた表情を浮かべたが、妹の可愛らしい威嚇にすぐに苦笑いを浮かべていた。
妹がこの学園に入った理由が何となく分かる気がするよ。
テーブルを前にソファーに案内されて座ると、木山先生はとある紙を持ってきて渡してくれた。
「その紙は君達が帰って来た暁に政府が保証してくれる内容になっている。いや、既に君達は東京のネットワークに登録されていて、そこに書かれている事は全て受けれるようになっているはずだよ」
手に持った紙に視線を落とす。
妹も腕に顔を当てて紙を覗き込んだ。
「東京内に住む権利を保証。一生分の全ての税金免除。兄妹(水落蒼空、水落七海)共に戦闘配備強制を免除。特別守護年金受給。政府は君にこれだけの条件を提示している。他のメンバーも同じ内容になっているはずだ。君の場合だけ、妹さんの部分も入っている」
そこに書かれている内容だけでも、破格な内容なのはまだ成人していない俺でも分かる程だ。
ここまで勝ち取ったという事は、この学園で待っていてくれた木山先生の努力の結晶だと簡単に分かる。
「学園として生徒を意図してない危険に晒してしまった上、一年という大切な時間を無駄にしてしまった事。心よりお詫びさせてくれ。これは学園からせめてもの報いとして受け取って貰えると嬉しい」
「…………分かりました。正直、
腕に抱き着いている妹を見つめる。
天能を授かる年齢になって、どこか一皮むけて大人の雰囲気を醸し出している。
「どうしたの?」と言わんばかりに可愛らしく首を傾げる妹が愛おしい。
「でも、こうして七海と一緒に自由に過ごせるなら、あの地獄を勝ち抜いた事の報いは十分だと思います。学園も想定していなかった出来事に俺達のために必死になってくれた事。感謝しています」
木山先生の目頭に涙が浮かぶ。
「ああ。ありがとう。これからは君の自由に生きていいんだ。誰も強制する権利なんてないから」
「はい。それにもう一つ良い事があったかも知れません」
「もう一つ?」
「俺達が帰ってくるまで一年も掛かってますよね。となると、授業日数とか足りないでしょうから――――――きっと留年になりますよね?」
「う、うむ? それはそうなると……思うが…………」
俺は妹の頭に優しく手を上げて撫で始めた。
「もしかしたら七海と同じクラスで過ごせると思うと、あの一年を生き抜いた一番のご褒美かも知れませんから」
木山先生は困ったように「ああ、そのように計らう事にしよう」と言ってくれた。
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