第12話 突如な訪問者
木山先生と丁度話し合いが終わった頃、職員室が少しざわついて、こちらの扉からノックの音が聞こえた。
そして、開いた扉からは――――――
「失礼する」
軍服に身を纏わせた目が鋭い男が入って来る。
入った瞬間に妹が「しゃー!」って威嚇する。
ちょっと可愛らしいけど、敵意をむき出す当たり、きっと俺達にまつわる政府の人なんだろう。
「水落蒼空であっているかな?」
「はい。俺が蒼空です」
「まず試練ノ塔の生還。国を代表して嬉しく思う」
「っ…………」
「木山さんから政府からの報酬の件は聞いているのか?」
「ええ。ちょうど今聞いた所です」
一瞬木山先生が割り込もうとするのを制止する。
少なくともここで話をややこしくするのは良くないと思うので、このまま彼と話を進める。
「うむ。それによってこれから政府としては君に何かを強制する事はないだろう。ただ、その前にあの中で何があったのかを聞かねばならない」
「…………」
彼の鋭い眼光が俺の目を真っすぐ見つめる。
「どうしてか、君以外の子は全員固く口を閉ざしていてね。あの塔での出来事を全く話そうとしなければ、家から出ようとすらしていない。しかし、君はここに来ている。試練ノ塔で何があったのか、聞かせてくれ」
「…………その前に一つ、質問いいですか?」
「構わない。全て答えよう」
「あの塔が一度入ると出られない事は分かっていたんですか」
「…………ああ。知っていた」
彼の返答に木山先生が今にも殴り掛かりそうに席を立つ。
俺は急いで先生を止める。
「水落くん!?」
「先生。大丈夫です。落ち着きましょう」
首を横に振って、俺にそういう意志がない事を伝える。
先生は静かに元の場所に戻って行った。
俺達の事、ずっと心配してくれたからこそ、政府に対する怒りも理解できる。
だからこそ政府の言い分を知っておく必要がある。
「あの塔に入って、俺達は6人で進みました。最後の選択肢で最後の魔物と戦うか
微動だにせず俺の目を真っすぐ見つめる。
「そして、
「なるほど。だから君達は一斉に帰ってこれたのか。その件は俺から国に報告するとしよう」
「お名前を聞いても?」
「
「俺にですか?」
臥竜岡さんは腰の後ろに付けていたポーチからとあるモノを取り出してテーブルの上に置いてくれた。
「これは?」
「………………軍の推薦状だ」
「!?」
「ふざけるな!」
ずっと我慢していた木山先生がその場に立ち上がる。
「生徒達が一年間死線を潜り抜けて来たのに、また命をかけて戦えというのか!」
その声に、今まで微動だにしなかった臥竜岡さんが大きく息を吸い込んだ。
自分を落ち着かせるようにゆっくり息を吐いてこちらを見つめた。
「今の日本の現状は、女神歴が始まって
臥竜岡さんが話した事は、俺達が想像していた現状ではなかった。
都内の住処が少なくなって、外に出された人ももちろんいる。
でも政府の方針として、開拓を目的とし、都内の少なくなった住処はあと500年は問題ないと発表しているからだ。
つまり、臥竜岡さんが話した現状は、ずっと酷い現状である事を示している。
「国内の戦闘に特化して天能持ちはありがたい事に日々増えている。だがそれでも足りないモノがある。――――――それは、圧倒的な恐怖に対峙できる圧倒的な力だ。現状、国の最高戦力は
言葉の重みが押し寄せて来る。
現状を知っていて、
「俺は『挑戦者』の仲間が目の前で散っていくのを何度も見ていた。――――――水落夫妻。彼らもまた」
「!? お父さん達を知っているんですか?」
「もちろんだ。もし俺にみんなを守れる力があったなら、ここまで後悔まみれの人生ではないだろう。だからこそ、目の前に人を守れる可能性があるなら、批難されようがそこに手を伸ばそう。蒼空くん。君には人々を守れる力がある。契約上、君達には平穏を約束している。が、前線に出て欲しい」
木山先生が拳を握り、臥竜岡さんを睨む。
でも言葉を出せないのは、臥竜岡さんが見せた深い悲しみを垣間見えたからだろう。
「もちろん無理強いはしない。だが、ズルい言い方になるが、君の後ろには守らなければ生きていけない子供達が沢山いる事を忘れないでくれ。このカードは軍部に無条件で参加できるカードだ。もし困った時はそれを見せれば、優先してくれるはずだ。俺からは以上だ。何かあったら軍部の臥竜岡を訪ねて来るといい」
そう言い残した臥竜岡さんが部屋を後にした。
「木山先生。心配しないでください。俺は元々――――――平穏に暮らしたいと思っていませんから」
両親が『挑戦者』として守りたかった世界を、俺も守りたいと思う。
自分の隣で不安を抱えている妹を守るためにも。
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