第9話 ただいま

「初めまして。君のおかげで助かったよ」


 右手を前に出す女の子と握手を交わす。


 ショートボブの髪が活発な性格のイメージを持つ可愛らしい女の子だ。


「たまたま通りかかっただけですから」


「たまたま通りかかっただけ……ね…………ふ~む。住んでいるエリア・・・を聞いても?」


「Dエリアです」


「…………こことは真逆だけど?」


「あはは……ちょっと色々事情がありまして、これから帰りたいと思ってます」


「そっか。ひとまず、こちらで休んで行ってね? お礼もしたいしさ」


「いえ、先を急いでいますので。ではまた」


「え!? ちょっ!? 君いいいい!」


 今は誰よりも先に妹に会いたい。


 それ以外は全く興味ないので、それはそこから東京に向けて走り続けた。




 数時間も走っていると、見慣れたエリアが見え始めて、前方に見える風景の上部――――ビル群が見え、その風景とはまるで違うボロボロな家が並んでいる風景が目の前に広がっている。


 現在の日本は東京を中心に周囲のエリアを支配して、そこに沢山の人達が住んでいる。


 中と外で違うのは、金を持っているか、持っていないかの差だ。


 一番違うのは、中は安全が約束されているので、その分税金がものすごく高い。


 代わりに外は税金はなく、支援金を貰って生活ができる。


 魔物に襲われて命を落とす危険はあるが、人によってはこちらの生活を選ぶ人も少なくない。


 全世界にはエリアという物があり、しっかりエリア境界線というのも存在し、境界線は目視すらできる。


 東京の周りは全部で六つに分かれていて、A~Fが存在しており、そこからもっと外に進出したいと政府は話していた。


 その希望となるのが清野達や俺だったりするのだけれど。


 そういや、試練ノ塔から帰ったあいつらはどうしているのだろうか。


 まぁこれから関わらない連中のことなんて、どうでもいいか。


 俺達の家があるDエリアの正反対側にあるAエリアが見える。


 ここから正反対側のDまで行くとなるとさらに数時間かかりそうだが、ここまで来れば、列車を利用できる。


 結界の外に列車を作るのは魔物に壊される可能性があるからと、結果のぎりぎりの部分に円形状に張られた結界をくるくる回る列車が存在する。


 それを利用すれば各エリアを行き来しやすかったりする。


 政府の方針によって東京外のエリアも重要視するために、エリアを繋ぐ列車は無料で開放していたりする。


 Aエリアに入り、真っすぐ駅に向かって走り続ける。


 通り抜ける大通りの人達から驚いた視線が届くが、妹のために気にすることなく通り抜ける。


 それにしても走り続けても疲れない身体って凄い便利だな。


 駅に付いて、ぎりぎり閉まりそうな列車の扉に飛びついた。


「ふぅ……」


 間に合ったのだが、急な登場で周りの視線が痛い。


 でも仕方ないだろう……少しでも早く帰りたいんだから……。


 椅子は全て埋まっていて、立ったまま列車の中で揺れ続けた。


 進んでいる方向の右側を見つめると、ハイテクで高層ビルが並んでいる東京の街並みが見え、左を見ると正反対に低い建物、ボロボロになった建物が目立つ。


 魔物に襲われる以上、丈夫に作るよりは簡素な作りにならざるをえない。


 その分、家を持つのもタダだし、『守護者』のおかげである程度安全は保障されている。


 緊急時に逃げる場所も用意されてはいるが、エリアの外側に住んでいる人が緊急時に東京結界内に逃げるのに時間がかかるので、命の危険が常に付きまとっているのだ。


 似た景色が続いて、エリア表記がAからBに変わる。


 どんどん列車が進み、Cとなり、遂にDとなった。


 扉が開くと同時にスタートダッシュを決める。


 全速力で街並みを駆け抜けて、駅から近いとある家に駆け込んだ。


七海ななみ!」


 人体認証システムが確立されているので扉が俺を感知して開いた。


 すぐにリビングのところに入ると、俺の大きな写真がいくつか並んでいて線香が上がっている台座の前に、手のひらサイズの俺の写真を抱きしめて涙を流していた少女が俺をを見つめる。


「え……にぃ…………?」


「七海!」


「えっ? にぃ? ほ、本当に?」


「ああ。ただいま。遅くなってごめんな?」


「にぃいいいいいいい」


 俺の胸に飛び込んできた妹は、大声で泣き続けた。


 妹の泣き声でようやく現実に戻って来て、ここに帰って来れた事をやっと実感して俺も涙が溢れた。


 俺と妹はただただお互いに会えた現実が嬉しくて、日が落ちるまでずっと泣き続けた。




 ◆




「本物のにぃ?」


「ああ。本物だぞ?」


 また目に大きな涙を浮かべる妹の頭を優しくわしゃわしゃ撫でる。


「これからはどこにも行かないから。だから心配しないで」


「うん……! 政府の人に……死んだって……言われたから…………」


「そっか。俺は死んだこと・・・・・にされたんだな。でもあれじゃ仕方ないな」


 そう話すと妹が俺の身体をペタペタと触ってくる。


 ちょっとくすぐったいけど、目が真っ赤に染まった妹を見て、手を振りほどくことができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る