第8話 運命的な出会い

 っ……痛……くはないな。


 眩しい光がまぶたを包み、少し痛みは感じるものの、声を出す程の痛さもなく、目を開けながら身体を起こした。


 周りを見ると、自然が溢れる場所で、沢山の木々やこちらを見つめる動物の姿すら見える。


「動物!?」


 思わず声に出して現実に引き戻される。


 空気感、景色、青空の風景。どれを確認してもここは――――――外だ。


 試練ノ塔は特殊な雰囲気があって、空気が常に重苦しい感じがしたが、ここは身体の中を美味しい空気が駆け巡る。


 いつぶりだろうか…………数か月ぶりの外の空気は――――


「空気うめええええええ!」


 本日二度目の叫びである。




 さて、まず現状を確認すると、ここはエリア・・・の中らしい。美しい自然が続いているからな。


 周囲を見回すと、遠くに高い建物の姿が見える。


 間違いなく東京のビルで間違いないな。


 ここまで出て来た事は初めてだから知らなかったけど、外から東京の街並みってこういう風に見えているんだな。


 あまり遠くに飛ばされなくて助かったと思いながら、全力で東京に向けて走り込む。


 天能のおかげでどれだけ走っても身体が疲れる事がないし、レベルが30にもなっているので以前と比べて速さがまるで違うから自分でも驚きだ。


 走りながら試練ノ塔での出来事を思い返す。


 新しいスキルを獲得したら空から黒い肌の女顔が現れたっけ。


 女神がどうたらこうたら言っていたのが気にはなるが、あまりにも情報が少ない。


 女神を倒せと言われても、はいそうですか。と聞くわけにはいかない。


 ひとまず、あの女顔の言葉は後回しにして、新しく得たスキルだ。


 絆スキルという言葉は初めて聞いた。


 俺達が天能の中でも特別な天能だと国からは大きな支援・・を受けている。


 妹の生活を思ってそれを受けたのだが、資金以外にも天能についての資料も大量に貰っている。


 元旦を過ぎて数日後に政府から来たマネージャーから資料を貰って、入学する四か月間ずっと資料に目を通して勉強を続けていたつもりだ。


 その中に『絆スキル』という言葉は存在しないはず。こんな大事な言葉を忘れるはずもない。



 その時、



 走っている前方で戦っている音が聞こえてきた。


 森を駆け抜けると、木々が全て消え、一面が緑色の芝生が広がる平原が出て来た。


 そこには10メートルくらいじゃないかと思える巨大な蛙と何人かの人達が戦っていた。


 その中でも正面から刀身の長い刀を振り回す女性に目を奪われそうになる。


 腰にまでくる長い髪、黒髪が多い日本人の中に珍しい真っ赤に燃えそうな赤い髪、真っ黒に染まっている刀身の刀。舞うかのように動き回る彼女に目を奪われて、その場に立ち尽くした。


 蛙の長い舌が彼女を叩きつけ、俺の方に吹っ飛んできた。


 身体が勝手に彼女に向かって走り出して地面に叩きつけられるまでに彼女を受ける事ができた。


 吹き飛んだ彼女を受けて着地と同時に周囲に土煙が広がっていく。


 腕の中に抱きしめられている彼女を覗いた。




 美しい。




 その言葉に尽きる。


 今にも燃え上がりそうな赤い髪と同じく、宝石のルビーのように輝いている瞳が俺を見つめる。


 それと肌が真っ赤――――


「血!?」


「はぁはぁ……き、君は…………」


「めちゃくちゃ血だらけだよ!」


 巨大な蛙が如何に強いのかが分かる。


 元々傷は無数にあったようだが、最後に喰らった一撃で全身が血だらけになった。


 その時、地鳴りが響いて、前方から巨大な蛙がこちらを目掛けて凄まじい勢いで向かってくる。


「き、君……私を……捨てて……に…………げ……て…………」


「は!? 女の子を置いて逃げるわけないだろう!」


「で、でも……死…………」


「心配すんな。俺が守ってやる」


「えっ……?」


 俺には清野達のような凄まじい火力はない。


 でも守ってくれる天能相棒がいる。


 視界を埋め尽くす巨大蛙が飛び跳ねた。


 このまま俺達を踏みつぶすつもりなのだろう。


「――――大盾」


 俺達の前に大きな盾が現れる。


 淡い青色の盾は透き通ってこちらに飛んできた蛙ですら鮮明に見える。


 飛んできた巨大蛙が俺の大盾に直撃する。


 にぶい音が周囲に鳴り響いて、暴風が広がっていく。


 本来なら俺達が潰れる方がごく自然な事だろう。


 でも残念ながら――――――


「シールドバッシュ!」


 大盾にはじき返された巨体を大盾で薙ぎ払う。


 巨体が吹き飛ばされ轟音を響かせながら地面を転がっていく。


「――――デッドリーバレット」


 目の前に赤と黒が混じり合ったどす黒い弾丸が出現する。


 転がっていた巨大蛙を目掛けて弾丸を放つ。


 撃たれると同時に空気を押しのけながら弾丸が飛んでいく。


 一瞬で巨大蛙を貫き、大きな鳴き声が響くと同時に、蛙の巨体が横たわった。


 その身体の中央には普通には開けられない大きな穴が開けられていた。


「君……は……一体…………」


「俺は蒼空。水落蒼空だ」


「蒼空…………綺麗……私…………天王寺てんのうじ……凪咲なぎさ…………」




 それが俺と凪咲の――――運命的な出会いだった。




「ああああ!? ち、血があああああ!」


 腕の中の彼女は真っ赤に染まっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る