第5話 無能の新しい力
――【経験値一定値達成により、レベルが4から7に上昇しました。】
――【天能『絶対防壁』により、スキル『麻痺』を獲得しました。】
レベル1から4まで上げるのにあれだけの時間がかかったのに、たった一体の魔物でレベルが上がり、遂にレベルが7に上がった。
そもそもレベルというのは、天能を授かると同時に与えられる。
レベルが1になると同時にステータスという概念が生まれ、レベルが上がると天能に応じてステータスが上がっていく。
武器を扱う天能なら力や素早さ、器用さなどのステータスがよく上がり、魔法を扱う天能なら魔力のステータスがよく上がったりする。もちろん、中には例外の天能も存在する。
さらにレベルが1でスキルを一つ獲得できて、そこから5の倍数でスキルを獲得することができる。
今回レベル7になったことで、新しいスキル『麻痺』を獲得した。
スキルは獲得した時点で、そのスキルがどういうスキルなのか自動的に頭の中に入って来る。
スキル『麻痺』は、天能『絶対防壁』の
俺の天能は特殊である最上級の天能でもあるので、凄まじい効果を持つ。
この麻痺効果は、相手がどれだけ麻痺耐性があったとしても、強制的に最低2秒の麻痺を与えられるという。
麻痺耐性がなければ、もっと長い麻痺を与え、上限は30秒となっている。
ではそもそも麻痺の効果は何なのか。
一言で言えば、全身を動かせなくなる。さらに、全てのスキルを発動させないという絶大な効果を持つ。
これだけ絶大な効果を持つが、弱点ももちろん存在する。
天能『絶対防壁』が持つ攻撃スキルのみという点だ。
これが俺の殴りに付与できれば、使い勝手も良かったのだけれど、そういう使い方はできない。
では俺の攻撃スキルというのは――――すでに一つだけ持っている。
スキル『体当たり』。
名前だけなら大した事がないスキルのように見えるが、実はこのスキルも凄まじい効果を持っている。
試練ノ塔に入って、俺が
このスキルは、使用した瞬間、前方5メートルを一瞬で移動して体当たりを行う。そして、当たった敵を
俺がブラックドラゴンに体当たりをしてブラックドラゴンと
つまり、今の俺のスキル『体当たり』には、敵を吹き飛ばす効果と共に、麻痺という効果も乗るようになった。
相手を強制的に飛ばした上に、最低2秒という麻痺を与える。
これは今の俺にとって喉から手が出る程に欲しかった最高に相性がいいスキルだ。
弱点と言えば、体当たりできる距離まで近づけるかどうかと、体当たりの度に俺も激痛に襲われて一瞬足が止まる事。
こればかりは気合で乗り越えるか。
さて、スキルを獲得して舞い上がってしまいたい気持ちをぐっとこらえる。
このまま体当たりを当てれば、後はブラックドラゴンの牙で魔物を簡単に倒せるだろう。
ただその前提が難しい。
そもそもの論として体当たりを当てるのが難しいのだ。
今までなら清野が魔法を使おうとすると、こちらに走ってくる魔物に体当たりをしていた。
遠くから遠距離攻撃をする魔物も存在する。
特に竜族なんかは空を飛んだりするので、飛び上がったら俺にはどうしようもないし、上空からずっと攻撃されたら永遠の痛みだけが待っている。
その状況にだけはなりたくない。
考えろ。
考える事を辞めると歩く事を辞める事と一緒だ。
考え続けろ。
…………。
…………。
よし、思いついた作戦を試す事にする。
虎の魔物の近くには空を飛ぶ魔物がいたはずだ。
それに見つからないように、さらに先に戻る。
今度は足が遅めの熊の魔物がいる。
あの熊は口から火を噴くはずだから、今回の作戦を試す絶好の相手だ。
熊に索敵されないぎりぎりの距離まで近づく。
ここなら――――――牙を投げれば届くな。
右手に持つブラックドラゴンの牙を全力で熊に向けて投げ込む。
ブラックドラゴンの牙が美しい弧を描き、熊に命中した。
こちらに向いて咆哮をあげてから向かって来た。
よし、作戦は成功のようだ。
血眼になって向かって来た熊に、5メートル内に入った瞬間に『体当たり』を発動させる。
一瞬で俺の全身が熊にぶつかる。
全身を襲う痛みに歯を食いしばって耐える。
熊が後方に吹き飛んで倒れ込んだ。
ふと妹の顔が浮かぶ。
絶対帰りたい想いが心の中からあふれ出した。
だから、俺は全力で熊に向かって走り込んだ。
体当たりを再度使うのには12秒もかかる。それまでまた耐えられるか分からないからこのタイミングで何とかとどめを刺さないといけない。
倒れ込んで、麻痺によるもので全身が微弱に震えている熊の馬乗りになって、全力で牙を刺しこんだ。
何度も何度も死にたくないから、痛いのはもう嫌だから、ここから生きて出たいから、何度も熊に牙を刺しこんで経験値獲得のアナウンスが聞こえてやっと勝った事に安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます